能舞台を備えたレストラン&バー『水戯庵』で楽しむ究極の日本酒と和食 日本橋から「日本の伝統文化」を発信する“粋”な空間

『水戯庵』の能舞台

「出羽桜」ウィークの情報 9月20日~24日に開催。上演はいずれも午後7時から。出羽桜酒造は、IWCのSAKE部門で過去に2度、最高賞「チャンピオン・サケ」を獲得した山形県天童市の酒蔵です。 提供される銘酒は、下記の5種…

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東京の中心・日本橋に、能舞台を備えたユニークなレストラン&バーがあります。場所は、「日本橋のお稲荷様」として親しまれる福徳(ふくとく)神社の一角の地下。2022年6月にリニューアルしたばかりの“非日常”を体感できる『水戯庵(すいぎあん)』です。能の上演など日本の伝統文化に直接触れながら、「二十四節気七十二候」をもとに季節のうつろいを意識した絶品の和食と希少な日本酒が味わえる隠れ家のような粋な空間。人気酒蔵とのコラボイベントも話題になっており、9月20日からは山形の食材と銘酒を楽しむ「出羽桜」ウィークが始まります。

圧巻の能舞台、6月10日にリニューアルオープン

日本橋のエリアは、江戸時代の東海道の起点。ここから、京、大坂に向けて人や物が出て行き、逆に入ってきました。交通、物流の中心であり、商業地として栄えるとともに、文化の発信地としても発展しました。

水戯庵は2018年3月20日にオープン。コロナ禍などを受けた2020年春からの休業を経て、今年2022年6月10日にはリニューアルオープンし、日本舞踊や能などの伝統文化を間近で堪能しながら、こだわりぬいた料理やお酒が味わえるとして人気を集めています。

店内に入って驚くのは、老松を描いた鏡版を背景にした三間四方の能舞台。鏡版は、京都にあった観世流能楽師の片山家、京舞・井上家にゆかりがあり、老松の絵は狩野派の絵師が描いたものです。

7月下旬は、酒蔵との特別イベントとして「梵(ぼん)」ウィークが開催されていました。「梵」は、福井県鯖江市の酒蔵「加藤吉平(きちべえ)商店」=1860(万延元)年創業=が醸す銘酒。その逸品「梵」の珍しい銘柄の数々と、極上の和食とともに、店内の能舞台で上演される能を楽しもうという粋な趣向です。

この夜、披露されたのは、能「枕慈童(まくらじどう)」の一部。魏の文帝の家臣が、深山に湧く薬の水を求めて訪ねると、はるか昔の周の穆王(ぼくおう)に仕えた慈童という童顔の人物がいたというお話。慈童は穆王の枕をまたいだ罪でこの深奥の地に流されたが、枕に記された文言を菊の葉に写し、葉から滴る露の不思議な力で700年もの間を生きてきたといいます。

能「枕慈童」

この慈童を、金春(こんぱる)流能楽師の中村昌弘さんが演じていきます。笛は栗林祐輔さん、小鼓は鳥山直也さん、大鼓は佃良太郎さん、太鼓は大川典良さん、地謡は辻井八郎さんと井上貴覚(よしあき)さん。

上演は、食事の前に解説なども含めて40分ほど。能自体はおよそ20分でした。優雅で美しい舞と囃子、謡に、時間を忘れます。幻想的な雰囲気を堪能できました。“菊の露”は、不老長寿のお酒を表しているのだそう。「枕慈童」について中村さんは上演後に「この世の安寧を祈る内容です。能では、普段はお食事が出ないので、皆さんに(能を)楽しんでいただくとともに、美味しいものを食べて、美味しいお酒を味わって、元気になっていただければ」と、この特別イベントの魅力をアピールしてくれました。

金春流能楽師の中村昌弘さん

幻の日本酒の数々に酔いしれる 福井の地酒「梵」のスペシャルな7品

「梵」ウィークの目玉が、厳選されたレアな銘酒の数々です。

中でも最も希少な銘柄が、非売品の「梵・超吟(生原酒)」です。兵庫県特A地区産契約栽培山田錦を使い、精米歩合20%の純米大吟醸酒をマイナス10℃で約5年間長期氷温熟成した、「加藤吉平商店」が誇る究極の逸品。そのしぼりたての生原酒が、用意されていました。生原酒は通常「非売品」です。

希少な「梵・超吟(生原酒)」

まさに芳醇旨口。ですが、従来の日本酒の味の概念から外れるような印象を受けました。長い間、氷温熟成するという手間暇と、作り手が愛情を注いだ結果でしょう。主観なので、人によって感じ方は異なるでしょうが、おそろしくバランスのとれた白ワインのようなフルーティーさです。

「白桃のような感じがしますよね」。この日、「梵」の紹介者で、客席への解説で来店していた「酒サムライコーディネーター」の平出淑恵さん(株式会社コーポ幸・代表取締役)が、そう言語化してくれました。確かに味わいは、この表現が正鵠を射ている気がします。ただただ、純粋に、うまい!

平出さんは、日本酒の魅力を世界に伝える活動をもう20年近く続けています。英ロンドンで開かれる世界最大級のワイン品評会「IWC」(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)に2007年から「SAKE」部門ができましたが、創設に尽力した人物です。

「梵」は「梵・吟撰」が2010年のIWC「SAKE部門」で最高賞「チャンピオン・サケ」に輝いています。ちなみに2022年の「チャンピオン・サケ」は、栃木県宇都宮市の酒蔵「井上清吉商店」の「澤姫 吟醸酒 真・地酒宣言」でした。

ほかに用意された6種は、下記の通り。配布された資料から特徴を抜粋します。

「梵・ささ雪 微発砲(瓶内二次発酵・無濾過生酒・山田錦・純米大吟醸)」
(兵庫県特A地区産契約栽培山田錦、精米歩合50%。新酒の発酵による、プチプチしたミクロの泡と一緒に、素晴らしい香りが立ち上がり、なめらかで旨い、まさに“芳醇旨口”の薄濁り生酒)

「梵・さかほまれ 純米大吟醸 磨き三割五分」
(福井県認証の特別栽培米さかほまれを100%使用、精米歩合35%。芳醇でさわやかな果物のような香りが立ち上がり、口に含むと美味しいぶどうのような香りが広がる)

「梵・ゴールド」
(兵庫県特A地区産契約栽培山田錦、精米歩合50%。搾りたての無濾過の純米大吟醸の生酒を、マイナス10℃の低温で約1年間“生”で氷温熟成させ、出荷の直前に1回だけ火入れして旬の旨みを封じ込めた。無濾過のため淡い黄金色が素晴らしく、透明感のあるさわやかな香りと、さわやかで存在感のある味が特徴)

「梵・特選純米大吟醸」
(兵庫県特A地区産契約栽培山田錦、精米歩合38%。0℃で2年間長期氷温熟成された純米大吟醸酒。グレープフルーツのようなすばらしい香りがあり、骨格のあるなめらかで深い味の“芳醇旨口”。深くて幅とコシのある味は、さまざまな料理とのペアリングにおいて、その存在感をさりげなく主張)

「梵・日本の翼」
(兵庫県特A地区産契約栽培山田錦、精米歩合20%の純米大吟醸酒と精米歩合35%の純米大吟醸酒とのブレンド。0℃で2年間長期氷温熟成された純米大吟醸酒。気品ある素晴らしい香りを持ちながら、優しくやわらかで、深さとともに存在感のある、感動的な味わい。国賓の歓迎晩餐会など重要な席で数多く使われるほか、日本政府専用機の公式酒として採用され、JALの国際線ファーストクラスのVIP専用機内酒として正式採用)

「梵・夢は正夢」
(兵庫県特A地区産契約栽培山田錦、精米歩合20%の純米大吟醸酒と精米歩合35%の純米大吟醸酒とのブレンド。マイナス10℃で約5年間長期氷温熟成された究極の純米大吟醸酒。どっしりと深くて素晴らしい香りを持ちながら、骨格があり、しっとりとなめらかな味で、後味が名刀のように切れる名酒)

これらのお酒が、料理と合わせて提供されるのです。

コース料理「風姿花伝・梵スペシャル」を銘酒とともに堪能する

『水戯庵』のメニューは、基本的に、昼と夜ともコース料理。ほかに季節のお料理アラカルトがあります。コース料理は、フルコースの「風姿花伝」(昼8800円、夜1万3200円)とライトコースの「花鏡」(昼4400円、夜8800円)=いずれも税込み、別途サービス料10%。コース料理を注文した場合、能などのショーチャージはコース料金に含まれます。

「梵ウィーク」には、長田渉料理長による「風姿花伝」の「梵スペシャル」が用意されていました。能を観て、銘酒7種類+フルコースを味わって3万250円。内容は下記の通りでした。

【先付】
菜吹寄せ盛り(鮑、毛蟹、枝豆、無花果、豆腐、玉蜀黍、長芋、いくら、花穂)

「先付」

【先御膳】
水戯庵豆腐、夏ふぐの唐揚げと木ノ子の天麩羅、前菜盛り合わせ(梅貝バジル味噌、芋茎雲丹のせ、越のルビー、紫芋カステラ、福井サーモン小串)

「先御膳」

【御椀】
清汁仕立て鮎魚女葛打

【後御膳】
季節の御造り三種、冷やし煮物(蛸柔煮、南瓜饅頭、湯葉、青茄子、アスパラ、蔓紫、胡桃餡、振酢橘)

「後御膳」の美しい器

【焼物】
甘鯛若狭焼、イチボのステーキ

【御食事】
鰻ひつまぶし、薬味、香の物、出汁

【デザート】
本日の甘味

福井の地酒にあわせて、福井の食材も使われています。料理長自ら現地に足を運んで吟味してきたものだそうです。甘鯛は、若狭湾で獲れたもの。福井のサーモンは上品な脂ともっちりとした肉質が特徴です。

繊細な料理を、銘酒とともに味わう至福の時間が、ゆったりと流れていきます。

『水戯庵』のオーナーは、木村英智さん。話題の水中アート展覧会「アートアクアリウム」をプロデュースしたことでも知られるアーティストです。食、酒、上演内容はもちろん、美術品や内装など空間の全てを統括。和の文化をいっそう親しみやすくし、すばらしさを発信していこうという熱意は、いたるところに見て取れます。店内には茶室もあり、エントランスから客席に抜ける通路はギャラリーとして浮世絵などが定期的に入れ替えながら展示されます。

その思いは、器へのこだわりにも表れています。例えば、坂本龍馬も訪れたと伝わる長崎市の老舗料亭「富貴楼(ふうきろう)」で使われた器。江戸時代に創業したお店を起源として、伊藤博文が命名したとされる由緒ある高級料亭でしたが、老朽化などを理由に2018年に解体されたのを機に、譲り受けたとのことです。

「おもひでカクテル」で“甘酸っぱい”記憶に酔う

季節のうつろいを感じる料理とお酒を堪能できるのが『水戯庵』の魅力。ただ、個人的に、お勧めしたいさらなる魅力があります。

併設のバーです。

日本酒や焼酎、ビールをはじめ、日本のウイスキー、日本のワイン、日本のクラフトジンなど多種多様な国産のお酒に加え、季節に合わせたノンアルコールカクテル「二十四節気カクテル」や、「七十二候カクテル」などが楽しめるのですが、中でも、興味を惹かれたのが「おもひでカクテル」でした。

バーテンダーの河野成未さんによると、オーナーの木村さんの発案とのこと。河野さんが以前勤めていたバーに、木村さんが訪れた際、「こういう思い出があるんだけど、そのときの気持ちを表現してほしい」と注文を受けたことがきっかけだそうです。

そのエピソードを聞き、我が身を振り返ります。学生時代に「ぴあmap」を持って、映画館通いをしていた頃、特に渋谷の街の光景が浮かびました。内容を伝えると、河野さんが作ってくれたのが、ジンとウォッカをベースにしたカクテルでした。

「映画が好きだというので、『007』の映画『カジノ・ロワイヤル』に出て来るカクテルのことが頭に浮かんで…」

ジェームズ・ボンドが頼む有名なカクテルのドライマティーニを想像したのだといいます。

河野さんが咄嗟に考案したレシピは、クラフトジン「香の森」、「奥飛騨ウォッカ」、キナリキュール、グレープフルーツジュース、グレープフルーツビターズ、レモンジュース、レモンピール、ザラメ。

柑橘系の香りがふわっと漂い、甘くさわやか。ザラメの糖分が、柑橘系の刺激を和らげて“甘酸っぱい記憶”に誘います。うん、美味しい。そして、心が和みます。

客の思い出をカタチにしたオリジナルの「おもひでカクテル」

「渋谷」は当然日本国内の地名なので、メインのお酒を国産にするというこだわり。「香の森」は「養命酒製造株式会社」が造っているのですが、その本社は渋谷にあります。「渋谷」つながりで、セレクトしたという心憎い演出です。その心遣いに、感じ入りました。

日本の伝統芸能、和食、銘酒、調度品…。『水戯庵』は、日本文化の「粋」を心ゆくまで堪能できる空間です。

文・撮影/堀晃和

「出羽桜」ウィークの情報

9月20日~24日に開催。上演はいずれも午後7時から。出羽桜酒造は、IWCのSAKE部門で過去に2度、最高賞「チャンピオン・サケ」を獲得した山形県天童市の酒蔵です。

提供される銘酒は、下記の5種です。

「AWA SAKE」
瓶内二次発酵による自然の炭酸ガスを閉じ込めることで実現した、きめ細かい泡が心地よい口当たりを演出します。

「純米酒 出羽の里」
IWCのSAKE部門でチャンピオン・サケに輝いた1本。味のコンセプトは「大味必淡(たいみひったん)」。時代を超えて愛される味わいは、濃すぎず、程良い淡さがある、という意味が込められています。

「大吟醸酒 雪漫々」
蔵人たちが丹精を込めて醸した大吟醸酒のうち、高い基準を満たしたものだけが雪漫々を名乗ることが許されます。その大吟醸酒を低温でじっくり熟成させることで吟醸酒特有のフルーティーな香りを残したまま、角が取れて丸みを帯びた味わいになります。

【非売品(ラベル無し、特別に蔵出し)】2種
「純米大吟醸酒 一路 無濾過生原酒」
「大吟醸氷点下熟成酒(マイナス5℃で5年間熟成)」

「出羽桜」ウィークの詳細は、https://suigian.jp/stage/dewazakura.php

5つの酒蔵とのコラボレーションを告知する画像

『茶屋 水戯庵』では、静岡・三島の「さいとうフルーツ」の絶品フルーツジュースを提供

『水戯庵』の地上にある『茶屋 水戯庵』は、2022年7月7日にオープンしたばかり。オーナーの木村さんが「感動するほどうまいフルーツジュースがある」と友人に誘われて訪ねたのが、静岡県三島市の「さいとうフルーツ」でした。1961年創業の老舗青果店で、ご主人自ら産地を回って選んだ果物を販売するほか、2018年7月からは店舗を改装し、スタンド形式でフルーツジュースの調理・販売を行なっています。

この絶品のフルーツジュースが味わえます。

営業時間:10時~19時
定休日:月曜 ※祝日の場合は営業も、2022年9月19日は営業
電話:03-5202-8066

『茶屋 水戯庵』のフルーツジュース

『水戯庵』の店舗情報

住所:東京都中央区日本橋室町2-5-10 B1F
電話:03-6262-0826
営業時間:火~土曜11時半~15時、18時~23時、日曜・祝日11時半~15時、17時~21時、バー・ラウンジは火~土曜18時~23時、日・祝日17時~21時
定休日:月曜
交通:地下鉄銀座線・半蔵門線三越前駅A6出口「コレド室町2」の B1直結徒歩1分
※17時以降の利用は、1名につきショーチャージ1000円が必要。コース料理を注文の場合はショーチャージが料金に含まれます。

※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。

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