連綿と続く伝統技術を受け継ぐということは 井「職人にかっこいいというイメージを持つ人も多いから、やりたいと思って始めても意外と事務作業があったりして想像していた仕事と違うと辞めてしまうそうです。伝統技術って技を習得するの…
画像ギャラリー月刊誌『おとなの週末』10月号の巻頭特集は「ふらり、大江戸散歩」。 江戸創業の味を担当したライター肥田木、お取り寄せ&名工の井島、日光街道のカーツ、池波レシピの菜々山、建築の藤沢、編集武内&戎が今に息づく江戸の衣食住のあれこれを語って語って語り尽くします!
江戸庶民の気分で食べて歩いてみた!
武「今回は食、建築、名工などあらゆる切り口で江戸を取材しました。どうでしたか」
肥「受け継ぐ味を食べて体感することで当時の生活が垣間見えて楽しかった。例えば薬屋から始まった『ももんじや』では、肉食が禁じられていても庶民は『コレ薬ですが何か?』って顔で猪肉食べつつ、んめえ♪ってほくそ笑んでたんだろうなとか」
武「昼酒の言い訳に黄金の栄養剤と言い張ってビール飲んで高笑いしてる肥田木さんみたい(笑)。やってることは意外と江戸庶民も現代の我々も一緒だったりしますよね」
肥「そ。立ち飲み『豊島屋酒店』を経営する『豊島屋本店』の16代目に聞いたんだけど、初代が考案した白酒の発売日には庶民が殺到したそうで、そのほとんどが男性客。今でいうホワイトデー的に女性に贈る人も多かったらしいよ。ほら、今ほど女性が大っぴらにお酒を飲めない時代だったし、甘い物が貴重だったからじゃないかって」
菜「私たち、大っぴらに飲めない江戸時代に生まれなくて本当に良かったよね(笑)」
武「にしても『弁天山美家古寿司』など、古典的技法を守る矜持に”おおお”となる取材も多かった。当時は調味料や食材の選択肢が少ない中、”おいしい”にこだわった結果の味が伝承されているとすれば、江戸という街の、文化の成熟具合を感じます」
井「老舗だからこそ攻める姿勢の店もありました。作り方や技をただ受け継いでいるだけでなく、味を進化させる部分もあるから今も続くんだなと思った。お取り寄せで取材した『羽二重団子』は今回初めて食べたのですが、つやつやで柔らかくて、もっと早く食べれば良かった!」
戎「伝統技術は跡継ぎ問題も印象的でした。僕は江戸の手仕事を受け継ぐ名工を担当しましたが、職人さん自体の数も減っているし……。『辻屋本店』の4代目は和装履物の良さをどう次世代の若者に伝えていくかに苦心されていました。WebやSNSをいかに使うか。これは雑誌の世界でも同じですよね」
連綿と続く伝統技術を受け継ぐということは
井「職人にかっこいいというイメージを持つ人も多いから、やりたいと思って始めても意外と事務作業があったりして想像していた仕事と違うと辞めてしまうそうです。伝統技術って技を習得するのはもちろんだけど、その魅力をちゃんと言葉で伝えていかないと続かないから、コミュニケーション力や接客も大事とか」
戎「江戸小紋を守る小宮康正さんは、昔から続く技術を大事にしながらも工具に現代のものも取り入れていく姿勢などが素晴らしかった。老舗だからこそ攻める姿勢もあるというさっきの話に繋がりますが、”変わらずに変わっていく”ことの大事さをこの企画で学んだように思います。自分が編集をするにあたっても心掛けたい!」
菜「ねえねえ君ら、もう既に〆的な話題でまとめてきてない(笑)?学んだことなら私もある。池波正太郎が時代小説に描いた江戸の味のレシピを担当したんだけど、何気ない食事シーンがめちゃくちゃおいしそうに表現されているの。台所の風景まで浮かんでくる。そんなことが書けるライターに私もなりたい」
武「江戸の人々がこんな味に舌鼓を打ってたんだと想像しながら、作って食べて、作品も読んでいただければ。個人的なイチ押しは鴨の漬け焼き。これは旨い!」
菜「それと、江戸時代って醤油も高級品だったと思うの。レシピは現代人の舌に合うようにしてるけど、当時はもっと薄味だったんじゃないかな。そんなことを想像しながら作ってもらえたらうれしいね」
暮らしを楽しむ知恵と工夫が随所に
藤「そう、今回の江戸特集ってどれも想像する楽しさがあるんですよ。あ、ちなみに私は建築を担当したんですけどね。一之江名主屋敷のガイドさんも『不便だけどきっと楽しく暮らしていたんだろうなと想像して、細かい暮らしの工夫に感心することが多い』と話してた。
昔は家柄によって使える部材や様式が決まっていたから、知識があれば建築物を見てどんな身分の人のモノか想像できて楽しいですよ。それにどれも工夫がたくさん。開放的に見える古民家も実は防犯はしっかりしてたり、エアコンがなくても涼める造りだったり」
菜「先人の知恵ってすごいね。現在にはない技術もあるし」
藤「寺社の建築は彫刻がとにかくすごい。庶民にとって寺社がいかに特別な場所だったかうかがえる。特に根津神社は華麗。こんな場所に来たらそりゃ極楽浄土みたいな気分だったろうな」
戎「この世の極楽なら”江戸っぽさ”を感じる店で一献もぜひ。『根津の甚八』の雰囲気はまさにそれ。奥の座敷で鬼平が飲んでいてもおかしくない佇まいですよ」
憧れの街道散歩は歩けば歩くほど楽し
カ「ところで日光東照宮と華厳の滝は、悪いこと言わないから本当に死ぬ前に一回は見ておいた方がいい」
井「お、カーツさん登場~。ちょい日焼けしましたね」
カ「そりゃあ日光を回ったり、街道を散歩したもん。日本橋~千住間を歩いた日なんて酷暑日。まぁ汗をかくのも覚悟していて、実際にすごくかいたんだけど、一緒に歩いた武内は私の8倍くらい汗かいては、コンビニで飲み物を買い、それを一気飲みしては、また大量の汗をかくわ、途中でトイレに籠るわ、タオル3枚使うわ、人間の新陳代謝はそれぞれだと痛感した訳。で、板橋では子供動物園の子羊が魂もげるほどかわいかった。ハイジに出てくるヤギのユキちゃんそのものでしたぁ」
肥「話に参加したかと思えばその感想。最高です(笑)」
武「代弁すると街道散歩は汗かきかき歩いて疲れましたが、それ以上に楽しかったんです。そこかしこに残る橋や寺社、歴史の碑を見つけると『おぉここがそうなのか!』となること必至。おすすめです」
カ「そういえば江戸時代は草鞋を履いて日本橋~草加くらいまで1日で行ったらしいぞ。今回は街道を歩くためウォーキングシューズを買ったけど、もはや草鞋や草履で歩いてみたい。結構楽なのかも~」
戎「今回の企画をひっくるめて、和装で江戸散歩も粋ですね。どんどん便利になる世の中ですが、江戸時代は質素ながらも穏やかな時が流れていたのかなと思います。こんな時代だからこそ、少しでもそんな気分を感じていただきたいです!」
文/肥田木奈々
※2022年10月号発売時点の情報です。
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