酒のプロフェッショナル「杜氏」は、一体、自身の醸した酒をどのように楽しんでいるのか?杜氏の晩酌にお邪魔する本連載。今回お邪魔した酒蔵では、女性と男性、ふたりの杜氏が二人三脚で酒造りに励む。彼らの酒は飲み飽きすることなく、…
画像ギャラリー酒のプロフェッショナル「杜氏」は、一体、自身の醸した酒をどのように楽しんでいるのか?杜氏の晩酌にお邪魔する本連載。今回お邪魔した酒蔵では、女性と男性、ふたりの杜氏が二人三脚で酒造りに励む。彼らの酒は飲み飽きすることなく、家に1本あるだけで食卓が華やぐ味わい。果たしてふたりは何を肴に、そのお酒を楽しんでいるのだろう。
福島県『鶴乃江酒造』
【林ゆり氏】【前島宏満氏】
前島氏/高校卒業後、会津若松市の花春酒造を経て、2006年に鶴乃江酒造へ。2021に同社杜氏に就任。
林氏/東京農大醸造学科卒業後、家業の鶴乃江酒造へ。開発した純米大吟醸酒「ゆり」が話題を呼んだ。
ナッツをかじり、純米酒を常温で
「一杯目はビールか酎ハイ。それから自分が造った酒を1合か2合、常温で酌む」と、杜氏は言った。「会津中将」を醸す蔵、鶴乃江酒造の杜氏・前島宏満さんだ。「私も毎晩飲みます。冷やした『ゆり』か常温の『会津中将 純米酒』が多いですかね。ひと口目はいつも無意識に口をすぼめてチュルチュルと利き酒してしまって、我ながらはっとします」と、もうひとりの杜氏は笑った。
鶴乃江の7代目長女で、「純米大吟醸ゆり」を醸す林ゆりさんだ。鶴乃江酒造はふたりの杜氏が立つ、ユニークな体制で運営されている。従来の「鶴乃江」や「会津中将」は、米の旨みが溶け込んだ酒らしい酒。林さんが蔵に戻ったタイミングで、東京の百貨店から女性らしい軽やかな酒を、という提案を受け、林さんが杜氏として生み出したのが、シャープな味わいの「純米大吟醸ゆり」だ。
夏場は米作りをする伝統的な会津杜氏・坂井義正さんが長く蔵の酒造りを統括していたが、昨年体調を崩して静養することになった。急遽、代わりに杜氏を務めることになったのが長年、坂井氏に師事して酒造りに取り組み、蔵伝統の製法を熟知する前島さんだ。なんとかピンチを乗り切って誕生した酒は、高く評価された。
「全国新酒鑑評会の金賞もうれしかったですが、長年僅差の2位とかで手が届かなかった福島県知事賞を獲れたことには感激しました。福島は全国新酒鑑評会の金賞数が9回連続で全国一になるほど日本酒のレベルが高い県。そこで1位になるのは、大阪や神奈川で甲子園に出るような超難関。前島さんのがんばりのおかげですね」と林さんが話すと、前島さんは恥ずかしそうに酒を口に運んだ。
木桶の蓋を利用した蔵のテーブルには、馬刺しとミックスナッツ、チェダーチーズが並んだ。馬刺しは山国の会津では魚の刺身よりも馴染み深いソウルフード。会津では脂が少ない赤身が好まれ、辛子味噌を溶いた醤油で食べるのが一般的だ。「ふくよかな味わいの会津中将が、肉の旨みたっぷりの馬刺しによく合います。私が考えるに、純米酒は白いご飯の液体。だからごはんに合うものは何でも絶好の肴です、なんならふりかけでも飲めます」。
そんな林さんの話に前島さんは頷き、ナッツをポリポリ、酒をグビリとやっている。「自分は料理ができないけど、酒を飲むときは何か肴がないと口寂しいたち。その点、ナッツとチーズは手軽なので。でもこれが案外うちの酒に合うんです。一応こだわりは、チーズはチェダーに限るってことですね」と笑った。
『鶴乃江酒造』 @福島県
1794年創業。蔵元である林ゆり氏と、社員である前島宏満氏のダブル杜氏体制で、「会津中将」「鶴乃江」「ゆり」「永寶屋」の4銘柄を醸している。芳醇な米の甘みを楽しめる「会津中将 純米酒」は晩酌酒として人気だ
【純米酒 会津中将】
撮影/松村隆史、取材/渡辺高
※2022年12月号発売時点の情報です。
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