独学で結果を出す「スモール・ステップ法」 マンツーマンで教わる場合は引っ張って行ってもらえるでしょうが、独学で結果を出す場合はどうすれば良いのでしょうか。 ひとつが、「スモール・ステップ法」です。そのやり方は、大きな目標…
「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第11回は、「勉強が苦手」の生徒のやる気を引き出す方法に焦点を当てます。筆者が体験した「釈迦に説法」とは―――。
「これだけやればいい」言われた通りの勉強で成績急上昇
1990年代前半、大学時代に一風変わった個人塾で講師のアルバイトをしていました。塾長M先生は、別に本業を持っていましたが、医師、弁護士、経営者などのお客さん方から依頼を受けて、その子どもさん達に勉強を教えていました。そして、東大や国立大医学部など、本人たちの希望以上の大学に合格させていたのです。
その塾に、高校1年の女子生徒Jさんがいました。Jさんは、東京都内の中堅クラスの中高一貫女子高に通っていましたが、入塾当初、成績は学年で最下位に近く、学校からは退学を促されている状態でした。
Jさんの学校での定期試験対策として、M先生は「これだけやればいいから」と、問題に出そうな箇所に絞って教えていました。Jさんは言われた通りに勉強し、試験を重ねるごとに成績はみるみる上がっていきました。
私はその成果に驚きながらも、一方で「全体的な勉強をせず、試験に出る箇所だけの勉強で、さきざき大丈夫なんだろうか」との懸念も抱いていました。そこであるときM先生に、「重要ポイントだけの勉強で大丈夫なんでしょうか」と質問してみました。M先生は取るに足らぬ質問とでも思われたのでしょう。特には答えず、受け流されたように記憶しています。
その後も私の懸念をよそに成績は伸び続け、1年ほど経った頃には、「英語の試験がクラスでトップでした」と、大喜びで報告するJさんの姿がありました。
Jさんには、退学という差し迫った事情がありました。そのため成績を上げることが急務でした。ただ、Jさんに即効性のある勉強をさせたM先生の本当の狙いは、そのような単純な理由だけではなく、他にあったと思います。勉強が苦手だったJさんには、即座に結果の出る勉強が必要だったのです。Jさんは結果が出るからこそ勉強に意欲的になりましたが、そうでなければ息が続かなかったでしょう。
偏差値30から70超に、「結果を出す」ことでやる気を引き出す
「子どもに勉強のやる気を出させるにはどうすれば良いでしょうか」というのは、保護者の方からよく出される質問ですが、もっとも効果的な方法は「結果を出す」ことです。試験の点数が上がれば、子どもは俄然やる気を出します。こちらが焚きつけなくても、自分から勉強に意欲的に取り組むようになります。したがって、こちらがすべきことは、努力が結果として実るような教え方や、勉強の仕方の手ほどきをしてあげることです。
しかし、その方法は生徒によって異なります。M先生は、Jさんにしたような指導を誰にでもしたわけではありません。別の生徒のK君には、1教科1冊の参考書を欄外の注釈まで徹底的に勉強させました。当初偏差値30だったK君は偏差値70を超え、早稲田大学をはじめとして受験した8大学にすべて合格しました。
お釈迦様の「対機説法」
お釈迦様は、話をする相手の素質・能力に応じて法を説いたと言われます。いわゆる「対機説法」です。ずる賢く生きている人には「愚直に生きろ」と言い、不器用で損をしている人には「要領よく生きろ」と言う。一見、矛盾に感じますが、そうではありません。相手によって言うべき言葉は変わるのです。
M先生も、生徒一人一人の素質・能力に応じて、結果の出る勉強の仕方を教えていました。JさんにはJさん、K君にはK君の性格、学力、状況などがあり、結果を出すために必要な勉強のやり方はそれぞれ異なります。そして、いずれのケースも尋常でない結果が出ました。
今思えば、私の質問は若気の至りで、まさに「釈迦に説法」だったわけです。
独学で結果を出す「スモール・ステップ法」
マンツーマンで教わる場合は引っ張って行ってもらえるでしょうが、独学で結果を出す場合はどうすれば良いのでしょうか。
ひとつが、「スモール・ステップ法」です。そのやり方は、大きな目標に到達するまでの過程をいくつかの小さな目標に区切り、それらを順次達成していくことで大きな目標の達成に近づくというものです。
これはアスリートやビジネスマンなども行っている目標達成のための技法です。特に新しいわけではなく、受験生も無意識に行っている方法かもしれません。たとえば、夏休みの宿題で数学の問題が50問出たとしましょう。これを1日あたり5問、10日で終わらせようと計画するのがスモール・ステップ法です。
これだけ聞くと、当たり前のことじゃないかと思われるでしょう。しかし、問題はそれが実行できるかどうか。計画だけなら誰でも立てられますが、それを計画通りに実行している生徒はおそらく半数もいないでしょう。なぜなら、半数以上の生徒が、夏休みの宿題を計画通りにこなせず、休みの終わりの頃にあたふたするからです。
その原因の多くは、次のいずれか、あるいは両方です。
(1)小さな目標を必ず達成可能なものに設定していない
(2)設定した目標を必ず実行しようという強い意識がない
目標を1日5問に設定した場合、泊りがけで旅行に行ったら実行できないかもしれません。後ですれば出来ると思うかもしれませんが、その小さなほころびがだんだん広がり、大きなほころびとなるものです。
それを防ぐためには、目標をなるべく小さくし、必ず予定通りに実行することです。上記の例なら、1日あたり2問、25日に設定し直すのです。1日2問なら、旅先でも出来る量です。大事なことは、小さな目標を必ずこなしていくことです。
生徒の皆さんは上記に気を付けて、この夏休みに宿題を計画通りに実行できるかどうか、試してみてはいかがでしょうか。
【トレーニング受験理論とは】
一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。トレーナーのように受験生の“伴走者”となり、適切な助言を与えながら、自学自習の力=独学力を高めていく学習法です。
圓岡太治(まるおか・たいじ)
三井能力開発研究所代表取締役。鹿児島県生まれ。小学5年の夏休みに塾に入り、周囲に流される形で中学受験。「今が一番脳が発達する時期だから、今のうちに勉強しておけよ!」という先生の言葉に踊らされ、毎晩夜中の2時、3時まで猛勉強。視力が1.5から0.8に急低下するのに反比例して成績は上昇。私立中高一貫校のラ・サール学園に入学、東京大学理科I類に現役合格。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学在学中にアルバイト先の塾長が、成績不振の生徒たちの成績を驚異的に伸ばし、医学部や東大などの難関校に合格させるのを目の当たりにし、将来教育事業を行うことを志す。大学院修了後、シンクタンク勤務を経て独立。個別指導塾を設立し、小中高生の学習指導を開始。落ちこぼれから難関校受験生まで、指導歴20年以上。「どこよりも結果を出す」をモットーに、成績不振の生徒の成績を短期間で上げることに情熱を燃やし、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて難関大学に現役合格した実話「ビリギャル」並みの成果を連発。小中高生を勉強の苦しみから解放すべく、従来にない切り口での学習法教授に奮闘中。