ローマの皇帝は、フランスの太陽王は、ベートーベンは、トルストイは、ピカソは、チャーチルは、いったい何をどう食べていたのか? 夏坂健さんによる面白さ満点の歴史グルメ・エッセイが40年ぶりにWEB連載として復活しました。博覧…
画像ギャラリーローマの皇帝は、フランスの太陽王は、ベートーベンは、トルストイは、ピカソは、チャーチルは、いったい何をどう食べていたのか? 夏坂健さんによる面白さ満点の歴史グルメ・エッセイが40年ぶりにWEB連載として復活しました。博覧強記の水先案内人が、先人たちの食への情熱ぶりを綴った面白エピソード集。第30話をお送りします。
普通の食事を前にトルストイが放ったひと言
不世出の大長篇作家は、クソまじめだが、そのくせどことなくユーモラスな一面もあった。
トルストイは、菜食主義で有名だった。スープからデザートに至るすべての素材に野菜を使った精進料理で『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』などの大河小説を書き続けたわけであるが、二度目のヨーロッパ旅行のとき、ロンドンのあるレストランに招待されて〈普通の食事〉を出されたことがあった。
トルストイは副菜のサラダに手をつけただけだった。
「鳥の料理はお気に召しませんか?」
心配そうにたずねるウエイターに、彼は例の眼光鋭い一べつをくれながら吐き出すようにこういったそうだ。
「きみはこの鳥の殺される瞬間の恐怖を思ったことはないのかね? 見たまえ、鳥肌を立てたまま死んでるではないか」
(本文は、昭和58年4月12日刊『美食・大食家びっくり事典』からの抜粋です)
夏坂健
1936(昭和9)年、横浜市生まれ。2000(平成12)年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。その百科事典的ウンチクの広さと深さは通信社の特派員時代に培われたもの。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。
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