プロ野球の「マイナビオールスターゲーム2024」が7月23日にエスコンフィールドHOKKAIDO(北海道北広島市)、24日に神宮球場(東京都新宿区)で行われる。打者有利といわれるオールスターゲームだが、近年の投高打低傾向にあって、久々に投手の活躍が見られるのか。過去の名場面を振り返り、2024年のオールスターゲームを展望する。
画像ギャラリープロ野球の「マイナビオールスターゲーム2024」が7月23日にエスコンフィールドHOKKAIDO(北海道北広島市)、24日に神宮球場(東京都新宿区)で行われる。打者有利といわれるオールスターゲームだが、近年の投高打低傾向にあって、久々に投手の活躍が見られるのか。過去の名場面を振り返り、2024年のオールスターゲームを展望する。
日ハムから9人、チーム最多
プロ野球夢の球宴は73回目。2024年のファン投票は、セ・リーグが9部門11人中、阪神、DeNAから3人、パ・リーグは10部門12人中、日本ハムが9人でチーム別最多となった。
個人の得票は唯一100万票を超えた外野手の万波中正(日本ハム)の131万4833票が最多だった。7月17日に決まった出場メンバーのうち初出場はセ11人、パ17人の計28人。両リーグとも主力選手の世代交代期に差し掛かっていることもあって、フレッシュな顔ぶれが揃った。
オールスターは「バットマンの祭典」
そんな今年のオールスターゲームだが、投手の活躍に注目したい。近年はペナントレースにおいては投高打低が顕著だが、今シーズンもリーグ平均防御率はセが2.62、パが3.01とともに2点台なのに対し、リーグ平均打率はセが.235、パが.241とともに2割5分台を割り込んでおり、この傾向は続いている。
しかし、オールスターゲームは「バットマンの祭典」といわれることもあるように、打者の方が有利だ。これまでのオールスターゲームMVPは野手が165回に対し、投手は14回と圧倒的な差がある。
歴代最多のMVPを7回獲得した清原和博(西武、巨人)も、元祖「お祭り男」の異名をとり、MVP3回受賞の山内一弘(大毎)も打者だ。投手でオールスターMVPを複数回獲っているのは3回の江夏豊(阪神、広島)、2回の金田正一(国鉄)と2人のレジェンド左腕しかいない。
これは攻撃側の打者は本塁打や、決勝打を放つことで直接的に勝利に貢献できるのに対して、守備側の投手は投球回が3イニングまでに限定されているうえに、例え無失点に抑えたとしても、勝利への貢献度という点では、打者よりも印象が薄くなってしまうということがあるだろう。
オールスターゲームで投手がMVPを獲るには、ただ好投するだけでなく、インパクトのある活躍をしなければならない。となれば三振をいくつとれるかは大きなポイントになる。投手の歴代オールスターMVP受賞者11人が全員、シーズン150奪三振以上をマークしている“剛腕タイプ”なのは、偶然ではないだろう。
江夏、夢の快投9連続奪三振
オールスターゲームにおいて、投手の名場面≒奪三振ショーともいえるわけだが、なかでも圧巻だったのが、規定の3イニングを投げて全打者を三振で抑える快投を見せた1971年第1戦(西宮球場)の江夏豊(阪神)だ。事前に9連続奪三振を予告し、意識して三振を狙ったという江夏は初回、有藤通世(ありとう・みちよ、ロッテ)、基満男(もとい・みつお、西鉄)、長池徳二(阪急)を全て空振りの三振で打ちとる。
つづく2回も江藤慎一(ロッテ)、土井正博(近鉄)、東田正義(西鉄)を三者三振で片付ける完璧な投球。そして3回は阪本敏三(阪急)、岡村浩二(阪急)と三振に斬り、9人目の加藤秀司(阪急)を迎える。
「追うな!」と叫んだ真意とは
この場面、1ボール1ストライクからの3球目に加藤がバックネット方向にファウルを打ち上げるのだが、江夏は捕手の田淵幸一(阪神)を「追うな!」と叫び、制止。つづく4球目、外角への直球で三振を奪取した。この時のことを江夏は次のように振り返っている。
「あのときのオレの心境はただもう“はよ終わってくれ! 早くこの緊迫感から逃れたい。終わらせたい!”という気持ちでいっぱいやった。そやからブチやんには、そんなファウルボールなんか追うな、早く座ってくれ。そして一刻もはやくオレの次の球を受けてくれ、と思ってたんや」(『熱闘!プロ野球三十番勝負』スポーツグラフィックナンバー編 文春文庫)。
夢の快投達成に燃える江夏の思いが伝わってくるエピソードだ。江夏は前年のオールスターゲームを5連続奪三振で終えており、この時の9連続奪三振と第3戦の先頭打者から奪った三振を合わせた15連続奪三振はオールスターゲームの記録となっている。また江夏は広島に移籍しリリーフに転向した、1980年第3戦でも1点差の9回二死満塁からマウンドに上がり、三連続三振を奪い見事な火消しを見せている。江夏は奪三振ショーでオールスターゲームを最もわかせた投手だろう。
「10連続」の新記録を狙い、タイ記録を逃した怪物・江川
3イニング限定登板のオールスターゲームでは9連続奪三振はこれ以上ない大記録ということになるが、その記録を超える裏ワザを試みて、タイ記録を逃したのが1984年第3戦(ナゴヤ球場)の江川卓(巨人)だ。
4回セの2番手として登板した江川は、まず福本豊(阪急)から三振を奪うと、簑田浩二(阪急)、ブーマー(阪急)と三者三振に斬ってとった。つづく5回は栗橋茂(近鉄)、落合博満(ロッテ)、石毛宏典(西武)から全て空振り三振で6連続。第1戦でも1イニング投げている江川はこの回で降板予定だったが、セを率いる巨人、王貞治監督が続投を指示する。
6回は伊東勤(西武)、代打のクルーズ(日本ハム)と三振にとり8連続。大記録達成まではあと一人。深呼吸をひとつして打席に入った大石大二郎(近鉄)に江川はストレートを続けて2球投げ込み、簡単に追い込む。
大石大二郎にカーブをあてられた
この時、江川はひらめいた。
「8つ取って、9人目のバッター大石大二郎くんをツーナッシングに追い込んだ瞬間に思い浮かんだのは、『江夏に次いで2人目』という新聞一面の見出し。だから、(並ぶのではなく)絶対に抜こうって思ったんですよ。ワンバウンドのカーブで振り逃げさせて、10連続を狙おうと」(『オールスター連続奪三振 「9連続」江夏を抜こうとした「8連続」江川の本音』週刊ポスト2023年6月9・16日号)
3球目に投げたのは外角に逃げていくカーブ。狙い通り大石は手を出してきたが、ボールはワンバウンドせず、バットの先端にあてられ、二塁ゴロとなった。この日、走っていたストレートではなく、カーブを投げてあてられてしまうというのが江川らしい。江夏の9連続奪三振を振り返るとき、併せて語られるオールスターゲーム史上に残る快記録だ。
令和のドクターK、奪三振ショーは見られるか
オールスターゲームで、江夏、江川のような奪三振ショーの再現を期待される投手といえば、佐々木朗希(ロッテ)だっただろう。公式戦で13連続奪三振、1試合19奪三振など数々の三振に関する日本記録を持っているほか、江川が未遂に終わった1回4奪三振も記録済みだ。
しかし今回のオールスターゲームでは3年連続のファン投票選出はならず、選手間投票も2番手。シーズン中盤からのコンディション不良もあってか監督推薦で選ばれることもなかった。
となると今回の出場選手で注目したいのは、セでは栗林良吏(広島)、パでは今井達也(西武)だ。栗林は今シーズンここまで34回1/3を投げ奪三振46と投球回を超える三振を奪っており、ここ一番で狙って三振がとれるのが強み。抑え投手ということもあり、多くても1イニングの登板となりそうなので9連続三振は難しいかもしれない。ただ、同じ広島の抑えの先輩である江夏のように3連続三振でセーブを記録するようなことがあれば、十分MVP候補になるだろう。
今井は奪三振数113個でパのトップ、両リーグで唯一三桁にのせている。本人も監督推薦選出記者会見で「全員三振を獲っていくっていう姿勢はもちろんシーズン中と変わらず披露したい」と宣言し、やる気十分。前半戦、味方打線の援護がなく勝ち星が伸びなかったうっぷん晴らしも込めた奪三振ショーを期待したい。
今年こそは久々に投手が躍動するオールスターゲームを見ることができるのか。もし投手がMVPを獲得すれば、2015年第1戦、藤浪晋太郎(阪神)以来、9年ぶりのことになる。
(※2024年のチーム成績、個人成績はいずれも7月17日現在)
石川哲也(いしかわ・てつや)
1977年、神奈川県横須賀市出身。野球を中心にスポーツの歴史や記録に関する取材、執筆をライフワークとする「文化系」スポーツライター。
※トップ画像は、「エスコンフィールドHOKKAIDO」tkyszk – stock.adobe.com