音楽の達人“秘話”

竹内まりやの中で聴くべきアルバムは? 10年ぶりのオリジナルアルバム、11年ぶりのツアーとスポットライトを浴び続けるシンガー・ソングライター【休日に聴きたい名盤】

国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライブで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、竹内まりやの『Expressions/エクスプレッションズ』です。デビュー30周年を記念して2008年10月1日にリリース。1978年11月発売のデビュー・シングル「戻っておいで・私の時間」以降の足跡がほぼ分かる3枚組全42曲入りのベスト・アルバムです。

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、休日のドライブで聴きたくなる名盤を紹介します。今回は、竹内まりやの『Expressions/エクスプレッションズ』です。デビュー30周年を記念して2008年10月1日にリリース。1978年11月発売のデビュー・シングル「戻っておいで・私の時間」以降の足跡がほぼ分かる3枚組全42曲入りのベスト・アルバムです。

1981年末に休養宣言し、82年4月に山下達郎と結婚。コンサート活動から長く遠ざかっていた時期もありましたが、数々のアーティストに楽曲を提供し、出すアルバムが大ヒットを記録するなど日本の音楽シーンで大きな存在感を放ってきました。

2023年11月にはデビュー45周年を迎えましたが、2024年秋から2025年夏にかけては、世の中の関心がさらに高まりそうです。「NHK BS」では、 音楽番組『The Covers』で「竹内まりやナイト!〜デビュー45周年スペシャル〜」と題して2週連続で放送(第1夜:10月6日22時50分〜23時19分 ※BSプレミアム4K先行放送、10日21時半〜21時59分※NHK BS、第2夜:13日22時50分〜23時19分※同、17日21時半〜21時59分※同)。10月23日には、10年ぶりのオリジナルアルバム『Precious Days』(全18曲)が発売されます。2025年4月から6月にかけては11年ぶりのアリーナツアー「souvenir2025 mariya takeuchi live」(8都市14公演)を開催。この『Expressions』の中からも演奏される曲があるでしょう。

MOONレコード時代と、RCA時代

『Expressions』は2008年にリリースされた竹内まりやのベスト・アルバム。竹内まりやの音楽ヒストリーには2つの時代がある。シンガー・ソングライティングも行なっていたが、どちらかというとシンガーに重点が置かれていたRCAレコード(当時)時代、山下達郎と結婚して彼をプロデューサーに迎え、シンガー・ソングライターとしての才能を開花させたMOONレコード時代だ。

レコード・セールスという面では山下達郎をプロデューサーに迎えたMOONレコード時 代が圧倒的に多いのだが、シンガーとしてのRCA時代の楽曲のファンも数多くいる。

竹内まりやの『Expressions/エクスプレッションズ』

長い間、RCA時代とMOON時代を網羅したベスト・アルバムをファンは待ち望んでいたが、トラブルが両者に存在し、なかなか実現しなかった。諸問題が解決の方向に向かいようやく彼女の全キャリアのベスト・ソング が1枚のアルバムで聴けるようになった。そ れが『Expressions』だ。

YouTubeで日本のシティ・ポップに脚光

竹内まりやがデビューした1978年当時、まだJ-popという言葉は存在していなかった。 その代わりにニュー・ミュージックという言薬で演歌、歌謡曲と差別化されていた。その ニュー・ミュージックの中でも特に洋楽の影響と都会的なフレーヴァーがある楽曲群は、シティ・ポップとかシティ・ミュージックと呼ばれるようになった。

洋楽の当時のジャンルで言うなら AOR~アダルト・オリエンテッド・ロック(大人向けのロック)、BC~ブラック・コンテンポラリーに近いかも知れない。

21世紀に入って YouTubeから日本の1970~80年代初期のシティ・ミュージックが注目され、ブレイクした。それは世界的なAOR(現在ではヨット・ロックとも言う)の再ブームがあり、その流れで日本のAORとも言えるシティ・ポップが注目されるようになった。

海外で注目された「プラスティック・ラヴ」

竹内まりやで言えば1984年のアルバム『VARIETY』に収録されていた「プラスティック・ラヴ」が世界的にブレイクした。 YouTube だけでも総再生回数は1億回を超えたという。

16ビートをドラム・マシーンで鳴らしながら作られた「プラスティック・ラヴ」は数ある竹内まりやの名曲の中では、そう有名では 無かったかも知れない。けれども海外の音楽 ファンの耳には、素敵なヨット・ロックと受け止められたのだろう。

ちなみにプロデューサーの山下達郎はこの曲を気に入っていて、自らのライブ・アルバム『JOY』(1989年) でカヴァーしている。ロックの8ビートでなく、ソウル的な16ビートというのが、海外で 評価された要因のひとつだろう。

中森明菜に提供した「駅」

竹内まりやは職業作曲家としてのヒットも多い。「リンダ」、「元気を出して」、「けんかをやめて」、「駅」などが『Expressions』 に収められている。他人に提供したセルフカヴァーでもう一度楽しめる。それも彼女の魅力のひとつだ。

トラブったというほどでは無いが、歌手の中森明菜に提供した「駅」は、そのアレンジに山下達郎が不満を持ったとされる。そこで山下達郎がプロデュース/アレンジを行なってレコーディングされた竹内まりや版「駅」は、彼女の大ヒット曲のひとつとなった。

カレン・カーペンターに似ている

ぼくはミュージシャンと音楽ライターという関係を超えて、山下達郎と結婚するまで竹内まりやと個人的に親しくさせてもらった。

そんなぼくからするとRCA時代の「September」、「ドリーム・オブ・ユー~レモン ライムの青い風~」などにも思い入れがある。

純粋なシンガーとしても充分に成功していたと思えるからだ。個人的にカーペンターズのカレン・カーペンターにちょっと似ていると思っている竹内まりやの声質はシンガーとしても特に優れている。

『Expressions』はCD3枚組、全42曲。彼女の魅力を余すことなく伝える、素晴しいスーパーベスト・アルバムだろう。

竹内まりやの『Expressions/エクスプレッションズ』

『Expressions/エクスプレッションズ』
DISC1
01、戻っておいで・私の時間
02、グッドバイ・サマーブリーズ
03、ドリーム・オブ・ユー ~レモンライムの青い風~(シングル・ヴァージョン)
04、涙のワンサイデッド・ラヴ
05、September
06、不思議なピーチパイ
07、象牙海岸
08、五線紙
09、Morning Glory
10、僕の街へ
11、ボーイ・ハント(WHERE THE BOYS ARE)
12、恋のひとこと(SOMETHING STUPID)
13、Never Cry Butterfly
14、Let It Be Me(スタジオ・ヴァージョン)※フジテレビ系木曜劇場『早子先生、結婚するって本当ですか?』劇中歌

DISC2
01、リンダ
02、もう一度
03、マージービートで唄わせて
04、本気でオンリーユー (Let’s Get Married)
05、プラスティック・ラヴ
06、恋の嵐
07、元気を出して
08、色・ホワイトブレンド
09、けんかをやめて
10、駅
11、Forever Friends
12、シングル・アゲイン
13、告白
14、マンハッタン・キス

DISC3
01、家(うち)に帰ろう(マイ・スイート・ホーム)
02、純愛ラプソディ
03、毎日がスペシャル
04、カムフラージュ
05、今夜はHearty Party(シングル・ミックス)
06、天使のため息
07、すてきなホリデイ
08、真夜中のナイチンゲール
09、返信
10、みんなひとり
11、チャンスの前髪
12、うれしくてさみしい日(Your Wedding Day)
13、幸せのものさし
14、人生の扉

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。近著は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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