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皆川佑介選手が参加したあるイベント

名選手の真実 by 林 壮一/2014年9月5日

スポーツライターが書く「名選手の真実」
皆川佑介選手が参加した
あるイベント 前編

 8月28日に発表されたアギーレ・ジャパン。今年3月に中央大学を卒業し、プロ入りしたルーキーのFW・皆川佑介(サンフレッチェ広島)がサプライズ選出された。
 皆川は186cmの長身を生かしたポストプレーを持ち味としながら、無論、自らもゴールを狙う。ヘディングが強く、最前線でタメが作れる彼は、ザックジャパンにはいなかったタイプである。今後、4年間かけてチームを作っていくアギーレは、強い武器を持つイキのいい若手を試し、かつ伸ばそうと考えたに違いない。
 私は昨年末、ひょんなことから、この大型FWと邂逅した。

ハンディを抱える子供たちとのふれあい

「あ、俺、22番なんだ」

 サンフレッチェ広島での背番号を彼が知ったのは、卒業を控えた今年の1月13日。この日、皆川は私が企画したイベントに出席してくれた。会の終了後、スマホで、紫色のユニフォームに着けられる番号を確認したのだ。

「番号は何でもいいんです。自分のプレーを磨くことが大事ですから」

 このイベントは、広汎性発達障害、自閉症、筋ジストロフィー、レット症候群、小頭症など、様々なハンディを抱える60名あまりの児童が、中央大学サッカー部の有志とボールを通じて触れ合うものだった。

 TVで観るサムライブルーに憧れ、サッカーをやってみたいと思っても、体の自由がきかない、あるいは物事を把握できない「障害者手帳」を持つ児童たちである。彼らがピッチに立つことは、生涯を通じて無い。
 それでも何名かはゴムのボールを蹴り、足が使えない代わりに手で打ち、彼らにとっての“サッカー”を続けて来た。そして、「一度でいいから、プロ選手とやってみたい!」という夢を持っていた。

 そんな子供たちの気持ちに応じたのが、中央大学サッカー部の白須真介監督であり、皆川ら5名の選手であった。
「本当に子供たちを楽しませてあげられるのだろうか? 自分の存在が1つでも2つでも、彼らの励みになれば嬉しいなと思いました」

 皆川は初対面の障害児たちのハートを、ほんの数分で掴んだ。プロならではのテクニックを披露しながら、子供たちを笑顔にしていく。「社会的弱者」として生きざるを得ない児童たちは、これ以上ないほどの笑みを浮かべて、皆川がキープするボールを追った。
 皆川はボールを使って、障害児たちと会話ができた。その様は、選手としての力量だけでなく、人間としての大きさも示していた。

「凄く楽しかったです。素敵な時間を過ごせて、かけがえのない経験をさせてもらいました」

 その後間もなく、皆川は4年間過ごした中央大のグラウンドと寮に別れを告げ、新天地・広島へと向かったのだ。

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「自分は這い上がるタイプ」毎日が戦いの日々

 Jリーグデビューは、第15節、7月19日の大宮アルディージャ戦だった。この日のサンフレッチェは前半で3-0としながらも、後半、立て続けに反撃を喰らい、3-3の同点とされていた。ロスタイムを合わせて残り5分という頃、皆川は投入される。

「ヒーローになって来い!」

 森保一監督は、そう言ってルーキーを送り出した。
 埼玉県育ちの皆川にとって、大宮や浦和は懐かしい場所でもある。この日は、家族も応援に駆けつけていた。僅かな時間でも結果を出してみせる! と、皆川は躍動する。得意のポストプレーに光るものを見せた。惜しい場面もあったが、試合は3-3のまま、引き分けに終わる。

「自分は常に下から這い上がるタイプです。毎日毎日が戦いでもあり、練習でも練習試合でも貪欲にゴールを狙わなきゃいけない立場なんで、いい緊張感を持って取り組めていると思います。毎日が新鮮で、緊張感があります」

 プロになって数ヶ月で、胸板がかなり厚くなっていた。
「広島の選手は皆、人間性が素晴らしいです。そこに感じるものがありますし、見習う部分もいっぱいあるんで、サッカー以外でも、いい部分を吸収していきたいです。
 でも、ずっと背中を見ている訳ではなく、いつかはレギュラーの座を奪ってやるという気持ちで日々やっています。前期、悔しい思いをして、歯を食いしばってやって来て、結果も出したからこそ、今ここにいられると思います。前進していなかったら、ここにもいないですし、今日、Jリーグデビューを果たせたんで、次はもう、結果でチームの力になりたいです」

 Jリーグデビュー直後の皆川は、夢を追いかけている男ならではの瑞々しさを感じさせながら、私にこう話してくれた。


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