南阿蘇鉄道で冬紅茶/1976~2017年
12月に入り寒くなってきたなと思ったころ、TVで午後の紅茶のコマーシャルを見かけるようになりました。
舞台は、熊本県の南阿蘇鉄道です。
南阿蘇鉄道は豊肥本線の立野駅から行き止まりの高森駅までを結ぶ、17.7Kmの第3セクター鉄道。
阿蘇の山々を眺めて走る美しい路線です。
[阿蘇外輪山の中を走る南阿蘇鉄道(2017年撮影)]
はじめてこの線に乗ったのが、だいぶ前で1976年。
中学から高校に入る春でした。
宮崎県の高千穂からバスで高森に移動して列車に乗ったのは、よく覚えているのですが、なぜか写真がありません。
淡い記憶を探って……もしかすると、撮っていない……。
何やってんだ!
当時のオレ!!
まさか、40年以上経ってから悔やむとは、思ってもみませんでした。
[はじめての高森駅、当然国鉄時代(1976年購入)]
1986年には第3セクター鉄道として、開業しました。
当時は、JRから臨時列車が乗り入れたりと、たいへんな賑わいでした。
そのころの社員は19名。
この人数で、列車運行から観光列車の案内まですべてこなすという、がんばりの鉄道です。
このころから私は頻繁に通い始めます。
小さな車両といい、沿線の広大な風景といい、やさしく出迎えてくれる鉄道会社や地元の方々に、とても好きな路線になりました。
[開業のころの南阿蘇鉄道中松駅。JRから臨時列車が乗り入れている(1988年撮影)]
ところが2016年4月14日、16日の熊本地震。
各地で大きな被害が発生し、南阿蘇鉄道も大きく被災しました。
ただただ、言葉を失うだけでした。
しかし、被災から約100日後の7月31日に、比較的被害の少なかった中松駅と終点の高森駅の間で運転を再開。
観光列車のトロッコゆうすげ号も走り始めました。
[中松駅~高森間で運転を再開。しかし中松駅の立野側は土嚢が積んであり、運休が続く(2017年撮影)]
[トロッコ列車も運転を再開:運転日注意(2017年撮影)]
2017年末に行われた、たくさんの鉄道プロカメラマンによるチャリティー写真展には、私も参加させていただきました。
[2回目の写真展は神奈川県川崎市の岡本太郎記念館。
熊本復興イベントの一環で、くまモンも登場(2016年撮影)]
同じ冬にテレビを見ていてくぎ付けになりました。
『午後の紅茶』のコマーシャルです。
見覚えのある駅で、ヘッドホンをした少女が歌う、あの映像です。
南阿蘇鉄道のホームページからも見ることができます。
(期間限定)
舞台になっている駅は、終点高森駅のひとつ手前、見晴台駅です。
第3セクター化したときにできた小さな無人駅で、当時はその名の通り屋上が展望台になっていて、阿蘇の山々を見ることができました。
[完成直後の見晴台駅、展望台の駅だ(1988年撮影)]
近年訪れてみると、山小屋風の駅舎に変わっていました。
それでも、無人駅であることは変わりません。
[現在の見晴台駅(2017年撮影)]
コマーシャルの映像は、阿蘇外輪山をバックに、この駅のホームで撮影されています。
[見覚えのあるアングル(2017年撮影)]
地元の方々と話をしていると、
「あの列車オレが運転したんだよ」
「撮影スタッフやエキストラの炊き出しを手伝ったのよ」
「画面の端にちょっと写ってた」
など、皆さん楽しそうに話をしてくれます。
いろいろな形の応援があるのですね。
この駅にも観光客がたくさん訪れるようになって、それまでは自動販売機もなかった駅が賑わっています。
自動販売機も設置されました。
ただ、ホットの午後の紅茶は、何度行っても売り切れていました(笑)
[見晴台駅に設置された自動販売機(2017年撮影)]
2016年の秋に始まったこのコマーシャルは、残念ながら3回目で完結です。
いつの日か、完全に復旧した南阿蘇鉄道を舞台に、続編が見てみたいです。
佐々倉実(ささくら みのる)
鉄道をメインにスチール、ムービーを撮影する“鉄道カメラマン”、初めて鉄道写真を撮ったのが小学生のころ、なんやかんやで約50年経ってしまいました。鉄道カメラマンなのに撮影の8割はクルマで移動、列車に乗ってしまうと、走るシーンを撮影しにくいので、いたしかたありません。そんなワケで年間のかなりの期間をクルマで生活しています。趣味は料理と酒! ヨメには申し訳ないのですが、日々食べたいものを作っています。
鉄道旅と食の話、最新の話題から昔の話まで、いろいろとお付き合いください。
ちなみに、鉄道の他に“ひつじ”の写真もライフワークで撮影中、ときどきおいしいひつじの話も出てきます。なにとぞご容赦ください。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。