我が国にさまざまな外国文化をもたらした窓口の町・長崎。日本の西端部に息づく歴史や食文化に触れるべく、いざ旅に出た。
画像ギャラリーまずは町歩きで混在する異国の顔を発見!
「ポルトガル、中国、日本、オランダ。長崎の町を歩いていると忽然とそれぞれの面影が顔を出すエリアがあって、それが混在している。僕ら、それを“ちゃんぽん文化”と言うんですが、歩いてみると面白い町ですよ」
そう教えてくれたのは、長崎、築町(つきまち)の老舗乾物屋『中嶋屋本店』の主人であり、長崎歴史文化観光検定一級の持ち主でもある、中嶋恒治さん。そこで中嶋さんに案内してもらい、まずは町を“さるく”ことに。長崎では“ぶらぶら歩く”ことを“さるく”と言うのだ。
1570年、まだ未開の岬だった地にポルトガルとの貿易を目的として港を開いた、それが長崎の町の始まりだ。キリスト教も広まり、教会が建ち並んだ。「この界隈の少しうねって狭い坂道。この雰囲気はポルトガルっぽいってよく言われます」
最初に長崎の町が作られた長い岬の突端が現在の長崎県庁あたり。築町裏からその岬へ登る坂道だ。その上部と下部の断面には所どころ石垣が残る。石垣の外は「かつては海」。岬に作られた町というのがよくわかる。
次に向かったのは、中島川沿いから2社14寺が並ぶ寺町通り。「中国を感じるエリア」だ。
江戸時代初期、長崎は人口の1/6が唐人だったこともあるといい、寺町通りには彼らが出身地ごとに建てた唐寺も多い。 代表的な唐寺のひとつで、隠元禅師ゆかりの寺でもある興福寺を訪ねる。整然として美しく日本の寺とはまた違う趣が印象的だ。中国風の精進料理、普茶料理も唐寺から広まったものだ。
現在の長崎の文化や町作りの礎となった史実は、ほかにも多々ある。たとえば1641年にオランダ商館が平戸から出島に移転し、出島にオランダ人居住が認められたことや、さらに幕末から明治にかけ、東山手や南山手が外国人居留地となったことなど。今も残る石畳の坂道や洋館には、それら往時を感じ取ることができるのだ。
この特異な歴史を反映して面白いのが「長崎の食文化」だ。「ですから長崎の料理には、ポルトガル料理、中国料理、オランダ料理、それと花街丸山で広まった料亭料理の影響もあります。たとえばポルトガルからは天ぷらやおじや、カステラ、金平糖。円卓に大皿の各国の味が並ぶ和洋折衷の卓しっぽく袱料理は、中国料理をベースに花開いた長崎らしいスタイルだと思います」
夜の思案橋“旨いもん”に次々ヒット
散策を終えて『中嶋屋本店』へ。
中嶋屋本店
長崎県長崎市築町4-2 [Tel]095-821-6310
[営業時間]9時〜19時、日・祝10時~17時 [休日]年始
削り節製造卸の専門店として創業し、本当に美味しいダシを追求。良質な原料から作る削り節や煮干しを中心に、手作りのふりかけなども販売している。「長崎市内では昔からカツオと昆布の贅沢なダシが使われていました。一方で長崎県は日本一の煮干し生産県でもあります」
安心安全、昔ながらの余計なものが入らない味がうれしい。
中嶋さんと別れを告げて、夜はもちろん旨いもの巡りだ。向かうは思案橋通り。数々の飲食店ひしめくストリートだ。
最初の発見は、おこぜ専門料理『小笠原』。女将の村上路子さん曰く「おこぜをコースで食べられる、日本で唯一の店」だ。
おこぜ専門料理 小笠原
長崎県長崎市本石灰町4-1 [Tel]095-823-8510
[営業時間]16時~22時 [休日]日・祝
肝や胃袋、皮の湯引きから始まって、お刺身、唐揚げ、あら炊きと続くコースが感動もの。ゼラチン質でプリプリした皮、淡白なようで甘みがあり食感のたまらない薄造り、実にいいダシの出た味噌汁までふ~と堪能。
お次は『鮨 幸三』だ。地元長崎の魚に精通した元気な大将が握ってくれる。
鮨 幸三
長崎県長崎市銅座町12-2 [Tel]095-820-7757
[営業時間]18時~24時頃(シャリが売り切れ次第閉店) [休日]日・祝(木・金・土の祝は営業)
「長崎は青魚が旨いから」ってことでまずはピカピカのいわし。対馬のふっくらした穴子。マグロでなくヒラス(ヒラマサ)を使うという長崎の鉄火巻き、白身の握り3連発にもシビれた。長崎の魚の旨さに惚れ惚れの夜である。
豊富な魚種が生む加工品も絶品
圧巻の魚種!長崎漁港で長崎のヒミツに迫る
長崎の魚の美味しさにすっかり目覚めてしまった翌朝。それでは! と早起きをして、レンタカーで長崎漁港まで足を伸ばしてみた。聞けば、長崎県は漁獲量全国2位、魚種の豊富さは全国1位だというではないか!
九州西端の入り組んだ地形に、黒潮から別れた対馬海流が流れ込み、五島列島や東シナ海と有数の漁場が多く、漁法が多いというのもその理由だという。
朝5時。まだ暗いセリ場に人が続々と集まってくる。
甘鯛、キンキ、赤ハタ、アジ、サバ、赤ムツ、カジキ、イカや穴子、貝類まで、トロ箱や発泡箱に入れられた魚が並ぶ姿はまさに壮観。活魚の水槽には、伊勢海老やクエの姿も。季節により異なるが、魚種は年間250種類くらいに及ぶという。これまでいくつもの漁港を訪ねたことがあるが、確かにこれだけ魚種の豊富なところは記憶にない。
威勢のいい掛け声とともに、次々とセリ落とされていくのも気持ちよく、長崎の人の魚愛がわかろうというものだ。
干物とかまぼこ、 地味なれど コレが絶品!
勢いに乗ったその足で、その魚種の豊富さと新鮮さを活かして、地元でも信頼の高いふたつのお店、『山道水産』と『石橋蒲鉾店』の店舗と工場にも訪ねて、具体的に話を聞いてみた。
まずは「やまみちのひもの」で知られる『山道水産』。
山道水産
長崎県長崎市江戸町2-32 [Tel]095-823-5850
[営業時間]6時~18時、祝7時~12時 [休日]日
朝市場で仕入れた魚がすべて手作りで、職人技で見た目も麗しい一夜干しなどの干物にされる。常務の山道英樹さんはこう語る。
「価格勝負でなく、少量生産で、一枚ずつ塩水の井戸水で洗い、漬け込みや乾燥の時間も加減しています。魚種は常時30種くらい。自分が食べたいと思うものを仕入れるようにしています」
鮮度が命という魚は、いずれも肉厚で見るからに旨そうだ。この日のおすすめは赤目。「脂があるけどクセが少なく、身離れがいい」長崎ならではの魚種。色味も美しく、一夜干しにして明後日には店頭に並ぶという。
次に向かったのは新地中華街の中にある『石橋蒲鉾店』だ。
石橋蒲鉾店 新地本店
長崎県長崎市新地町8-8 [Tel]095-824-4561
[営業時間]9時~18時、日10時~17時半 [休日]年始
長崎では、“ちゃんぽんに安いかまぼこやちくわを入れると家の人が怒る”というくらいかまぼこ愛が強い。その長崎人をして一目置くのがこの店だ。まずは材料。よく使用されるスケソウダラだけではなく、値段も全然違う上質なエソ、グチ、ハモをふんだんに使う。そしてすり身は氷を入れ石臼を使って作る。
石橋雄介さんによれば、「一般的な機械より擦り上がりにずっと時間がかかるんですが、石臼でじっくり擦って温度上昇を抑えれば、魚の旨みもよく残るし、弾力が違うんです。長崎は素材も新鮮ですし、原材料費が上がっても、美味しいものができる方を選びたいと思います」
できあがったかまぼこやちくわを試食してみて驚いた。歯が跳ね返るほど弾力のある食感。そして魚そのままの味がする。失礼ながら、かまぼこがこんなに美味しかったなんて!
地ものの魅力は居酒屋でも堪能するべし
魚が旨いといえば、居酒屋でも一杯。そう思って最後に向かったのは『旬彩ながや』だ。
旬彩ながや
長崎県長崎市万屋町4-13 二葉屋ビル3階 [Tel]095-827-0077
[営業時間]火~木、日・祝17時半~23時(22時半LO)、金・土・祝前日17時半~24時(23時LO) [休日]月
名前通り、長崎の地のものを季節によって色とりどりに届けたい、というのがコンセプト。地元の漁師から直に仕入れる刺身や天ぷらには特にこだわっている。
「サバやアジでも、どの漁場で獲れたかや種類も含め、特長がそれぞれに違います。その違いまで味わってもらえるように提供できればと思っています」とは、店主の永石一成さんだ。鮮度抜群のサバのしゃぶしゃぶ、甘くてプリッとしたウチワエビのかき揚げも確かに絶品だった。
滞在中、長崎といえば欠かせないちゃんぽんと皿うどんも堪能したのは言うに及ばない。うーん、知れば知るほど、長崎の魅力は奥が深いのだ。
まだまだ見逃せないこんな味!
『雲龍亭 本店』 ひと口餃子
皮はもっちり系で肉餡は旨みたっぷりのひと口餃子。長崎定番の味のひとつ
『一二三亭』 おじや
『ニューヨーク堂』 長崎カステラアイス
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ちゃんぽん&皿うどん コレクション
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長崎の祭り〈おくんち〉をチラ見!
10月7日から9日まで、諏訪神社の大祭として長崎人を熱狂させる長崎くんち。各町会ごとに7年に1度自慢の“演し物”を奉納する。勇壮な船回しあり、龍踊りあり、仮装あり。熱気に満ち、長崎らしさが発散される。
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