「鯖街道」を有する福井県若狭地方で新たなブランドサバが誕生していました。こだわりと愛情がたっぷり詰まった「よっぱらいサバ」に出合うため、サバジェンヌが福井県までやってきました。
画像ギャラリー鯖街道を有する若狭地方で鯖の漁獲量が激減!!
サバが古来より郷土料理として身近なのが「鯖街道」を有する福井県若狭地方。
江戸時代、小浜港は豊富な魚介類の水揚げで賑った。とくに多く獲れていたのがサバ。サバは山々を超えて京の都へ運ばれた。いくつかのルートがあるが、代表的なのが小浜から熊川、滋賀県・朽木、花折峠を越えて、京都・大原から出町柳に入る「若狭街道」、通称「鯖街道」。
「京は遠ても三千里」。約80キロの道のりを、行商人たちは、海産物を籠に入れて背負い、山間の道を歩いた。
サバを一尾まるごと串に刺して焼いた「浜焼き鯖」は、若狭を代表するサバ料理。これをアレンジして大ヒットとなった焼き鯖寿司は、近年の鯖ブームの先駆けだ。また、鮮度落ちの早いサバを保存するために「へしこ」や「なれずし」といった珍味もこのエリアならではのサバグルメである。
しかし、次第に若狭におけるサバの漁獲量は激減。近年、水揚げはわずかなものになってしまっていた。
サバの町として賑わってきた小浜。なんとかせねば!! 挽回を期して小浜市では産学官民が連携した「鯖、復活プロジェクト」を掲げ、2016年からサバの養殖をスタートした。そして誕生したのが「小浜よっぱらいサバ」。その名のとおり、酒粕を混ぜたエサを与えて育てたサバだ。
そもそもは、「鯖街道の終点である京都・出町柳で仕込まれた銘酒の酒粕で育てたサバ」というブランドストーリーから出たアイデアだった。けれど酒粕を加えたエサによる生育試験、身質や血液分析を慎重に重ねた結果、サバが健康に育ち美味しく仕上がったのだ。
サバ界における「鮎」! よっぱらいサバの刺身に感動
実際、よっぱらいサバの刺身は、すばらしい味わい。特筆すべきは「とんでもなくさわやか」。
脂のりがあるのに、その脂はさわやかでほんのりとした甘み。そして、ムチツ、プリッと引き締まった身。たとえがヘンだけれど、印象としてはサバ界における「鮎」! 海なのに清流系!!
透明感あふれるよっぱらいサバの刺身は、ひと口で食べるのがもったいなくて、「ひと切れを3口で食べる」ジェンヌさん(涙)。もう一度言いますが、ひと切れを3口で食べる刺身って!! どう考えたって美味しさの理由は「酒粕」だけではないはず!!
その秘密が知りたくて、小浜よっぱらいサバのふるさと・小浜市田烏(たがらす)を訪ねた。
よっぱらいサバを手掛ける、世界で唯一の「サバ専門養殖会社」
小浜市東部に位置する、田烏地区。 若狭湾沿いの緑豊かな山に抱かれた入江には、昔懐かしいのどかな漁村の風景が広がる。
「かつてはサバの巾着網漁でおおいに賑わったそうです」と語るのは「田烏水産」代表取締役の横山拓也さん。2019年4月からサバの事業は、小浜市から田烏水産による民間事業として引き継がれている。
横山さんは兵庫県尼崎市出身。小浜とはなんの縁もなかったばかりか、なんと、もともとは牧師として教会に赴任していたという異色の経歴をもつ。
のちに精密部品メーカーに転職。バイオ系の企業を経て、徳島大学大学院で酵母の研究をしていたときに「酒粕を与えた飼料」の研究についてアドバイスを求められたことがきっかけで、よっぱらいサバに出合うことになった。
「そのときは、まさか自分が田烏でサバ事業を始めるとは思いもしませんでした」という横山さん。
小浜市のサバ養殖事業はそもそも、最終的に民間企業に引き継がれることが決まっていた。しかし、なかなか引き継いでくれる事業者が現れなかった。なぜなら、サバの養殖は「難しい」からだ。
サバは想像以上にデリケート。夏の暑さに弱く、いけすにぶつかると身がすれて傷がつきやすい。エサのやり方や扱いなどにきめ細やかな配慮が必要だ。
それならば、と仲間たちと立ち上がった横山さんは田烏水産を設立。美味しいサバを育てるためにスタッフ一同、情熱を傾ける。
ちなみに田烏水産は日本で唯一、どころか世界で唯一の「サバ専門養殖会社」である。田烏の海で日々、サバだけと真摯に向き合う。
養殖場がある釣姫地区へ向かった。山間に抱かれた、入り江はなんて美しいエメラルドグリーン!
よっぱらいサバの美味しさの秘密は「田烏の海」にあると横山さん。
「田烏の入り江は、絶えず潮の流れがあって、さらに速い。透明度が高く清浄な海水に恵まれているんですよ」。よっぱらいサバの「透明感」は透明な海のたまもの!!
さらに、手つかずの自然が残る沿岸の山々から、窒素・リン・鉄などの無機栄養分が流れ込むことで身が引き締まって美味しくなるのだそう。
「養殖魚」というと「餌」に意識が向きがちな人も多いけれど、「魚の味」のベースはあくまで「育った海の味」。わかりやすい例でいえば「牡蠣」と同じである。
そしてエサにはもちろん徹底的にこだわる。サバ専用配合飼料に、よっぱらいサバの味の決め手である酒粕を絶妙な割合でブレンド。酒粕は創業江戸時代享保2年という歴史ある酒蔵、京都・松井酒造のものだ。
「サバの大きさよりもまず、味を追求したエサ造りを心掛けています。さわやかな香り、深い旨み、鮮やかな甘みを目指していますね」と横山さん。サバの養殖、というよりもその感覚は「食品製造」に近いという。
加えて、美味しさの秘密は「サバへのたっぷりの愛情」!
田烏水産の相談役である浜家直澄さんは、かつては田烏の巾着船に乗ってサバを獲っていた漁師。小浜市が「鯖、復活プロジェクト」を立ち上げた当初より、民宿「浜乃家」を営みながら、ひとりで試験養殖に取り組んでいた「よっぱらいサバの父」だ。
毎日、浜家さんはいけすに行くとサバ一匹一匹の様子に目をこらし、細やかな変化を見逃さずに、エサの量ややり方を調整。そして必ず「おはよう! 大きくなれよー!」と声をかけながら、愛情をたっぷりこめてエサを与える。すくすく、美味しく育たないわけはない(涙)。
「わたしもそうですが、柴野相談役以外のスタッフもこれまで養殖経験があったわけではありません。浜家相談役にならって、愛情を注いで、ていねいに育ててきました」と横山さん。
昨年はコロナ渦の影響で、飲食店を主な出荷先とする田烏水産では注文が激減した。行き場を失ったサバを抱え、窮地を何とか乗り越えるべく通販をスタート。全国の消費者によっぱらいサバの美味しさを伝えるチャンスと、果敢に取り組んだ。もちろんのこと、その味わいは大好評。日本全国にファンを獲得した。
ところがなんと、今度は夏の猛暑でサバが大量死。水温が30度を超え、7000匹のうち4500匹が死んでしまったのだ。前述したように、田烏水産で扱っているのは「サバ」のみ。大打撃である。
「毎日命を失ったサバを水揚げして、焼却場に持っていく作業は本当に悲しくてやりきれないものがありました……」と振り返る横山さん。
それでも2か月ぶりに出荷を再開したときには、よっぱらいサバファンの「待っていた!」という声に支えられたという。
「いろいろありますけれど、お客様が美味しいといって、愛情こめて育てたよっぱらいサバで幸せなひとときを過ごしてくださったら、わたしたちも本当に幸せです」と横山さんは、しみじみ語る。
唯一無二の透明感! 加工品も美味
築120年の古民家に居を構える田烏水産の大広間で、よっぱらいサバをいただいた。浜家さん自らさばいた刺身の、キラキラした脂、シュッとエッジのたった身の美しさにうっとり……。
田烏の美しい海が透けて見えてくるような、きらめく味わい。脂の主張は控えめ。旨み、甘みが口の中ですうっと、駆け抜ける美味しさ。ひ、ひと口で食べるのがやっぱりもったいない(涙) 。
そしてやさしい甘みは酒粕効果だけではなくて、「愛情効果」込み。絶対。
そして、よっぱらいサバはですね、異常なほど日本酒に合うのですよ!! シュッとした味わいで日本酒がきらめき、日本酒を飲むとサバかきらめく。日本酒エンドレス現象!
ただいま、よっぱらいサバを扱う『レストラン海幸苑』で開発中の「よっぱらいサバの酒粕クリームチーズ漬け」。
よっぱらいサバのエサである酒粕とクリームチーズをあわせたものに、サバを漬けこむ。マイルドでエレガントな味わい。これはワインや泡に合う! 「おばま観光局」による「田烏日帰りツアー」のランチで提供を開始予定。
相談役・柴野さんは、へしこづくりの名人でもある。ほどよい塩気と甘みと旨み。ギャー、日本酒が止まらなくなるじゃないですか!
そして横山さんから耳より情報! 酒粕として与えている松井酒造の「神蔵」とよっぱらいサバは最高のペアリングなのだそう。当たり前といえば当たり前かもしれないけれど、想像するだけでときめきすぎる!!
さらにただいま、若狭名物「小鯛の笹漬け」をアレンジした、「よっぱらいサバの笹漬け」も開発中! こちらと日本酒の組み合わせもワクワクもの!!
よっぱらいサバはジェンヌさんとしては、一度小浜で楽しんでいただきたい。
よっぱらいサバは、小浜市内では若狭フィッシャーマンズ内にある「海幸苑」などで楽しめる。
さらに、毎年、田烏ではおそらく日本で唯一の「エサやり体験」が実施されている。
田烏の美しい海を見て、そして浜家さんとよっぱらいサバにエサを与えて、どれだけ「愛情たっぷり」に育てられているかを体験したら、もっともっと「至福の美味しさ」になるはず。そしてとんでもなく「幸せなサバ時間」が過ごせるはずだから!
横山さんがMCを務めるYoutube「サバラジオ」も必見!
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