音楽の達人“秘話”

「いとしのエリー」発売に反対の声が……サザンが取った行動は 音楽の達人“秘話”・桑田佳祐(4完)

『おとなの週末Web』では、グルメ情報をはじめ、旅や文化など週末や休日をより楽しんでいただけるようなコンテンツも発信しています。国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。国民的バンドとなったサザンオールスターズ、桑田佳祐の最終回です。

サザンオールスターズの名曲私的ベスト3

サザンオールスターズの楽曲には、ファンそれぞれ自分なりの名曲をお持ちだろう。ヒット曲は多いし、アルバムの中には隠れた名曲もある。サザンオールスターズの楽曲で、勇気づけられたり、悲しみを癒してもらった方も多いことだろう。

ぼく自身も彼らの名曲が心で鳴っている。どれがベストと言えないほどだが、あえて個人的に思う名曲を3曲、紹介してみたいと思う。これらはあくまでも個人的な名曲であって、サザンオールスターズの絶対的ベスト3でないことをことわっておく。

作詞・作曲を担当する桑田佳祐には、大きく分けてふたつのバックグラウンドがあると思う。ひとつめは1960年代から1970年代の洋楽である。アマチュア時代にディープ・パープルをカヴァーしていたように、サザンオールスターズの底流には洋楽が流れている。

変名である嘉門雄三名義でライヴ・アルバムを発表したこともあった。そこではビリー・ジョエル、ザ・バンド、ボブ・ディラン、ザ・ビートルズなどといった有名どころから、オーティス・クレイ、モーリス・ウィリアムス&ザ・ゾディアックスなど渋いナンバーも収録されていて、桑田佳祐のルーツが少し分かる。

もうひとつのルーツは日本の歌謡曲だ。恒例としていたアクト・アゲインスト・エイズ(AAA)のライヴでは、古い歌謡曲が数多くカヴァーされていた。洋楽と歌謡曲、それに桑田佳祐ならではの言葉の独特のセンスが加味され、サザンオールスターズやソロ作品の楽曲は成り立っている

左から『熱い胸さわぎ』(1978年)『タイニイ・バブルス』(1980年)『NUDE MAN』(1982年)『人気者で行こう』(1984年)『10ナンバーズ・からっと』(1979年)『Young Love』(1996年)『綺麗』(1983年)

国民的バンドに押し上げた3枚目のシングル「いとしのエリー」

そんな桑田佳祐の書いた楽曲の個人的な3曲の先頭は「いとしのエリー」だ。サザンオールスターズのアルバム『10ナンバーズ・からっと』に収められた、ファンなら誰でも知っている名曲だ。この曲はサザンオールスターズの3枚目のシングルとして大ヒット。一躍彼らを国民的バンドに押し上げた。

実はこの曲にはエピソードがある。「勝手にシンドバッド」、「気分しだいで責めないで」というそれまでのシングルは、どちらかというとコミック・タッチだった。3曲目も同じ路線を期待したレコード会社では、「いとしのエリー」に関しては反対の声も上がった。サザンオールスターズは、バンドの解散も辞さない姿勢で、「いとしのエリー」のシングルを押し進めた。結果、大ヒットとなり、サザンオールスターズはファンでない人すら知っている人気バンドとなった。

この曲の大ヒットがなかったら、サザンオールスターズも存在していなかったかと思うと、まさに入魂の名曲と思うのだ。昭和を代表する名曲のひとつで今聴いても古さはなく、スタンダードな魅力に満ちている

『嘉門雄三&VICTOR WHEELS LIVE!』(1982年)『10ナンバーズ・からっと』(1979年)『ステレオ太陽族』(1981年)『Young Love』(1996年)

ファンやスタッフを時々は裏切って、さりげなく名曲を

2曲目はアルバム『ステレオ太陽族』の中の「My Foreplay Music」だ。シングルカットはB面ながら、ファンの愛する楽曲のひとつ。ダイレクトに男と女のセックスを歌っている。それがまったくいやらしく感じないのは、桑田佳祐の書いた軽快ともいえる詞とエモーショナルなメロディーの一体感が生むロマンチシズムにある。ベタつきそうなセクシー・ソングを嫌味なくサラっと聴かせる。桑田佳祐の妙技を感じさせる曲だ。

3曲目は「愛の言霊(ことだま)~Spiritual Message~」でシングルとなっている。アルバム『Young Love』に収められた。この曲には桑田佳祐の愛が充満している。梅田英春によるラップが入っているのだが、その内容は歌では語りつくせない、桑田佳祐の人間への愛やこの星~地球への想い、自分はどこから来たのかという存在への疑問となっている。

それらは、愛の言霊として音楽に包み込まれ、ファンに届けられたのだ。サザンオールスターズのシングルの中では、大ヒットと呼べなかったが、メッセージ性に桑田佳祐の心情があふれている。こういった曲の詩を書き、それにふさわしいメロディーにしてしまう桑田佳祐にはただただ驚かされた。

御紹介した3曲を聴くとサザンオールスターズ及び桑田佳祐が、単なるヒットメイカーでないことが分かると思う。ファンやスタッフを時々は裏切って、さりげなく名曲を残してゆく。そういったところにも桑田佳祐の奥深さが垣間見える

サザンの名盤の数々

岩田由記夫

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo」で、貴重なアナログ・レコードをLINNの約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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