音楽の達人“秘話”

はっぴいえんど、YMO、ソロ活動…細野晴臣の才能は「音楽的多面体」+悩みに悩んだ筆者の私的ベスト3 音楽の達人“秘話”・細野晴臣(4完)

『おとなの週末Web』では、グルメ情報をはじめ、旅や文化など週末や休日をより楽しんでいただけるようなコンテンツも発信しています。国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。細野晴臣の最終回では、例によって筆者の私的ベスト3を紹介します。その3曲を語ることで、天才・細野晴臣の音楽観を見つめます。

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ニュー・アルバム『あめりか』から伝わってくる豊かな音楽キャリア

2021年11月時点での細野晴臣のニュー・アルバムは『あめりか~Hosono Haruomi LIVE in US 2019』(2021年2月リリース)だ。2019年にロサンゼルスのマヤン・シアターで行ったライヴを収録している。1973年に埼玉の狭山にあった自宅でレコーディングしたファースト・ソロ・アルバム『HOSONO HOUSE』からの「住所不定無職低収入」、「CHOO CHOO ガタゴト」などの選曲もあり、オールタイム・ベスト・ライヴと呼べるアルバムだ

このアルバムを聴いていると、細野晴臣というミュージシャンがいかに長い音楽街道を歩んで来たのかが伝わる。

細野晴臣の生み出す音楽はカテゴライズしたり、ひとくくりにされることを拒んでいる。はっぴいえんど時代の楽曲、『トロピカル・ダンディー』や『泰安洋行』時代の楽曲、YMOでの作品、その後のソロ・ワークや坂本冬美、忌野清志郎、遊佐未森(ゆさ・みもり)、甲田益也子(みやこ)、小川美潮、コシミハル、ビル・ラズウェルなどとのコラボレーション楽曲…。ひとつのプロジェクト毎に細野晴臣は異なった才能を見せる

その才能は音楽的多面体なのだ。これだけ型にはまらず、多才なミュージシャンは世界的に見ても数少ない。

細野晴臣の名盤の数々。2021年2月リリースの『あめりか』は、2019年のアメリカ公演を収録したソロ名義では初のライヴ盤

「香港Blues」 映画『脱出』のカヴァー曲

そんな細野晴臣の楽曲群から、私的な3曲を選ぶのは難しい。はっぴいえんど時代の作品からも、YMO時代の楽曲からも、それだけでベスト・アルバムを組めるほどだからだ。

それでも極私的に選ぶとしたら、まずは1976年のサード・ソロ・アルバム『泰安洋行』から「香港Blues」となる。ハンフリー・ボガートの映画『脱出』で有名な曲で、ホーギー・カーマイケルが作詞・作曲のカヴァーだ。

細野晴臣はこの曲をアメリカのトロピカル・ミュージックの先駆者マーティン・デニーにインスパイアされてアレンジしている。細野晴臣がこの曲をカヴァーしたことにより、1970年代中期の熱心な音楽ファンは、ホーギー・カーマイケルやマーティン・デニーの音楽を探ることが静かなブームになった。

「北京ダック」 シュールな歌詞にブラジルのダンス音楽

次は1975年のセカンド・ソロ・アルバム『トロピカル・ダンディー』から「北京ダック」。場所は横浜中華街、“火事はボゥボゥボゥ”して、北京ダックが逃げ回る。何ともシュールな歌詞にサウンドはブラジルのダンス音楽、バイヨンがベース。1975年の日本の音楽シーン、いや世界の音楽シーンでここまでシュールで多様的な音楽も創造していたのは細野晴臣と、彼が敬愛しているヴァン・ダイク・パークスくらいしか見当たらなかった

当時、細野晴臣にインタビューした時に、何故こんなに突飛かつ素晴らしいサウンドが生み出されるのか訊ねた。

“出てきちゃうんだよねぇ、これが。自分にはまったく突飛じゃないんだけど”と語っていた。天才なのだ、細野晴臣は。ちなみに前記の2曲は最新ライヴ・アルバム『あめりか』でも取り上げているから、お気に入りの楽曲なのだろう。

1975年リリースの『トロピカル・ダンディー』(左端)、76年の『泰安洋行』(左から2枚目)、78年の『はらいそ』(同3枚目)は、“トロピカル3部作”と呼ばれる。中央上段は、73年のファースト・ソロ『HOSONO HOUSE』

「ウォリー・ビーズ」 細野流ジャパニーズ&無国籍トロピカル・ソング

3曲目はYMO~イエロー・マジック・オーケストラの名のヒントになったと思える、イエロー・マジック・バンド名を名乗った1978年のソロ『はらいそ』から「ウォリー・ビーズ」。バック・ヴォーカルにあがた森魚(もりお)、大貫妙子が参加している。細野流ジャパニーズ&無国籍トロピカル・ソングだ

かつて細野晴臣がプロデュースしたアメリカの女性シンガー、リンダ・キャリエールからインスパイアされている。但し、彼女のアルバムは本人がリリースを拒んだために陽の目を見なかった。細野晴臣の人生観が感じられる楽曲だ。

とても紹介したら3曲では細野晴臣のままで無限に広がっているかのような音楽世界は語れない。それでも彼の世界をのぞくきっかけになる曲だとは思う。

“閃いちゃうんだよね。そうすると、そのイメージを文にしたり、絵にしたりする。そして閃きを具現化へ感性をリードしていく。自分はそんなタイプのミュージシャンなんだろうな”と語っていた。

その閃きは日本の音楽シーンの財産であり、宝だと思う

岩田由記夫

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約350万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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