新型コロナウイルス感染拡大にともない、テイクアウト市場も拡大しました。容器などの資材やキッチンカーなど関連製品の需要も高まる中、気になる話題を見つけました。ヘッドホンなどの音響機器メーカーとして知られるあの「オーディオテクニカ」が、すしのシャリや、のり巻き、おにぎりサンドを製造するロボットを展開しているではありませんか。聞くと米飯加工機器分野で世界第2位のシェアを占めているといいます。新種株の影響で新型コロナウィルス感染拡大が懸念される中、人的作業の負担を軽減できる加工機器の重要性は増すばかりです。
画像ギャラリーコロナ禍で伸び イベント協賛のサマソニではマイクとマルチにぎりロボットが「共演」
なぜ、あのオーディオテクニカが食品分野に?詳しいお話を株式会社オーディオテクニカの特機部KE営業課の金子純宣さん 、斎藤隆志さんに伺いました。
斎藤さんは「外食店舗でのテイクアウト需要の伸びとともに、外出自粛のため、調理担当の方が出勤できないという事情もあってお問い合わせが増えました」と話します。多くの回転ずし店をはじめ、レストラン、ケータリング事業者に利用されています。
オーディオテクニカといえばヘッドホンやイヤホンを思い浮かべる方が多いでしょう。少し上の世代の方や、レコード好きな方にとってはレコードプレイヤーの関連商品で馴染み深いメーカーかと思います。その精密な技術でレコード文化を支え、今もなお、その道のファンから高い評価を得ています。食品加工機器については「AUTEC」というブランド名で、すしのシャリやのり巻き、おにぎりなどを製造するロボットを展開しています。
2000年にスタートした都市型音楽フェス「SUMMER SONIC(通称サマソニ)」では、2002年よりマイク提供などでアーティストの熱演やイベントの盛り上げに一役買っているオーディオテクニカ。
「たまたまなのですが、2019年のサマソニではフードエリアでおむサンド(おにぎりサンド)を提供する事業者さんがAUTECのマルチにぎりロボットを使ってくれていたこともありました」と斎藤さん。ステージとフードエリアで会場は違いますが、偶然にもマイクとマルチにぎりロボットが同じイベントで「共演」した格好です。
食品加工機器参入の理由 「にぎりっこ」がヒット
オーディオテクニカの食品加工機器分野への進出は意外にも古く、1980年前半に遡ります。
1962年の創業からレコードプレイヤー関連商品がメインだった同社は、レコードのカートリッジ(レコード針の振動を電気信号に変える役割)の製造、販売から事業をスタートし、前述のマイクやヘッドホンなどオーディオ関連機器にも参入していきます。
その後、1970年代後半からオーディオデジタル化の波が本格化。1982年のCD登場により、音楽媒体はレコードからCDへ移行すると考え、危機感が高まって音楽以外の新規事業に乗り出したといいます。
ちなみにオーディオテクニカでは米飯加工機器以外にも、産業用クリーニング機器や半導体レーザー分野にも進出しており、業界内では高い評価を得ています。
社内でアイデアを公募したところ、流しソーメン機や温泉卵製造機などと並んで商品化されたのが、1984年に登場したシャリ玉製造機の「にぎりっこ」です。
「にぎりっこ」はハンドル回すとにぎられたすし飯 が落ちてくるという作りで、家庭用のすしメーカーとしておもちゃ店などで販売されました。「外国人タレントのケント・デリカット氏が登場するテレビCMも話題となり、すごく売れました」(斎藤さん)。
今でこそ珍しくないクッキングトイですが、この当時は非常に画期的な商品だったといえるでしょう。
業務用も登場! 最新型すしロボットの「ASM430」は1時間に4200個のシャリを成形
このにぎりっこのヒットをきっかけに、翌1985年には業務用すしロボット「すしメーカーASM300」が完成します。以降、自動酢合わせ機「シャリメーカーASM700」、業務用おにぎりロボット「おにぎりメーカーASM500」等、続々と新機種が登場していきます。
現在、市場に投入されているすしロボットの最新型「ASM430」は1時間あたり4200個のシャリを成形します。「ASM430」にはシャリの受け皿にはターンテーブル式のものが採用されています。レコード機器の製造販売を祖とする同社ゆえのしつらえです。
このターンテーブルにも秘密が。「マニアックな部分ではありますが、ターンテーブルはレコード駆動方式であるベルトドライブ方式(ベルトを介してモーターの動力を伝える方式)を導入しています」(金子さん)といいます。細部へのこだわりにニヤリとするレコード好きの方もいるかもしれません。
業務用米飯加工機器に関しての転機は1992年ごろ。
「お寿司は日本の伝統食であるため、職人が握るものという意識が強かったと考えます」と斎藤さんは話します。しかし、バブル崩壊によって人件費削減を余儀なくされた飲食店がコストカットのために導入したことで、すし文化の機械化が進みました。
世界を市場にすしロボットを展開 地域の食文化にも対応
AUTECブランドは1995年にアメリカでの展開を皮切りに海外事業もスタートしています。
海外では日本のように「寿司は職人がにぎらなければいけない」という概念がないことや、当時から巻き起こった「日本食イコールヘルシー」というブームも追い風となり、普及が進みました。AUTECの食品加工機器はヨーロッパなど世界50か国以上で展開しています。
海外ではそれぞれエリアによって、食文化が異なるため需要が違うため、日本との仕様は若干異なるそうです。
「アメリカでは玄米のニーズが高く、玄米をにぎることができるように対応しています。白米と玄米では粒のサイズが異なるため、機械を調整しています。また、韓国ではキンパ(韓国風ののり巻き)を握ることができるように、油分の多いお米を握ることができる仕様にしています」と斎藤さんは話します。
日本だけではなく世界で活躍するオーディオテクニカの米飯加工機器たち。きょうも多くの人たちにひっそりと美味しさを届けています。
文/山本孟毅
写真提供/オーディオテクニカ
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