みなさま、お野菜を食べてますか? 野菜大好きライターの市村です。農家さんと料理人さん、プロフェッショナルたちにお伺いして、身近な野菜の魅力をお伝えします。今回はジャンルを問わず様々な料理で登場する長ネギのお話【前編】です!
画像ギャラリー身近な長ネギの種類とは
関東では「千住ネギ」に代表される「根深(ねぶか)ネギ」といわれる長ネギが主流です。一方、関西では「九条ネギ」などの「葉ネギ」といわれる「青ネギ」をメインにいただきます。
だから東京で生まれ育った私、ライター・市村は子どもの頃、「青ネギ」にはほぼ馴染みがない生活を送っていたと思います。でもおとなになった現在は、「九条ネギ」や「小ネギ」(「博多万能ねぎ」)なども意気揚々と買いますし、お寿司屋さんでいただく「芽ネギ」も好き。冬場には「下仁田ネギ」が店頭に並んでいるとテンションが爆上がりします。いろいろなネギが食べられて、いい時代になったなぁとうれしい限り。
「トマト」編に続き今回も、埼玉県羽生市で『Bonz farm(ボンズファーム)』を経営する農家・大貫伸弘さんと、埼玉県行田市『PAZZO-DI-PIZZA GYODA(パッツォ・ディ・ピッツァ・ギョーダ)』のオーナーシェフ・岡田英明さんに長ネギについてお話を伺いました。
――ネギといっても、主に太くて白い部分を食べる「根深ネギ(長ネギ)」と緑の部分が多い「葉ネギ(青ネギ)」があります。まずはネギにどんな種類があるのか教えていただけますか?
大貫:大きく分けると「加賀」「千住」「九条」の3つの品種群があります。加賀群は寒いところに適している寒冷地の「根深ネギ」で、「下仁田ネギ」が有名です。
千住群は市販されている「根深ネギ」がほぼ当てはまります。黒柄系や合柄系といった血筋があるんです。
九条群はその名の通り「九条ネギ」などの「葉ネギ」で、現在の京都府下京市を中心に栽培されたのが始まりだそうです。
――東日本はすき焼きや納豆に味噌汁、蕎麦などの薬味などで千住群や加賀群を使いますし、西日本のうどんなど九条群のネギは繊細なダシに合いますものね。料理の違いや文化の違いは興味深いです。
意外と大変! ネギの育て方
――大貫さんはどんなネギを育てているのですか?
大貫:毎年品種を変えながらいろいろ育てています。育てる品種の基準は、基本的に甘みがあって柔らかく、歯切れがよく美味しいもの。品種によって、同じタイミングで植えて早くできるものと遅いものがあるので、僕の場合はだいたい3品種を組み合わせています。
2021年に植えて2022年の6月に収穫・出荷するネギは「元晴(もとはる)」、12月~3月に出すのが「味十八番(あじじゅうはちばん)」です。今年は「春扇(はるおおぎ)」という品種を試してみようと思っています。
岡田:この冬にうちの店で出させてもらった、ボンズさんの長ネギは「味十八番」だったわけですね。お客さんのリクエストで窯で焼いてみたらとろりとしてとても甘くなり、抜群に美味しかったです。
大貫:ありがとうございます。長ネギの出荷時期は9月から3月頃までがメインです。とはいえ、需要があるので6~7月にも出荷していて、「若ネギ」という形で出しています。ちなみに、長ネギは関東では真夏は穫れません。
――長ネギを育てる上で、どんな工夫をされてますでしょうか?
大貫:できるだけ雑草を生やさないことと、いかにきれいに作るかということを意識しています。
一般的なネギ農家さんの場合は、ネギを何列も植えてその通路に除草剤を撒きます。
でも僕は有機農業なので、農薬は使えません。「マルチシート」という黒いシートを敷き、苗を田植えのように差していくんです。シートで覆ったところは雑草が生えなくなりますが、ネギを植えた穴から雑草が生えてくるので、それを抜いていきます。除草剤を撒けたらどんなに楽だろうと思うことはあります(笑)。
岡田:ネギはどれくらいの期間、どのようにして育てるんですか?
大貫:先程も申し上げた通り、早生と晩稲があり、収穫まで6~9ヶ月程度でしょうか。タネを蒔き苗を定植させて土寄せを5~6回程度行います。
――それは、土寄せをしていくことで伸びて、また伸びたところを土寄せし、白いところをどんどん伸ばしていくということでしょうか?
大貫:そうです。伸びて被せて伸びて被せてとやっていきます。被せないと陽に当たった部分は緑色になってしまいます。できるだけ白い部分を長く作り、可食部が多くなるように少しずつ土寄せをして育てます。
ただ、農薬を使う農家さんは溝を掘って定植しますが、僕はシートを敷く分、土の高さがゼロのところからスタートするので、その分短く仕上がるんです。
――収穫のときってスポッと抜けるんですか?
大貫:土の硬さや土寄せした量によると思います。深谷などの大産地に行くと、しっかり植えています。そのうえ、半端じゃない量を作っているので、最初に機械で山の下を崩してから抜いていくというやり方をされています。
うちの場合はそれほど量を作らないので手で抜いています。溝の分の10cmほどがないために比較的抜きやすいとは思います。
岡田:根が張らないんですか?
大貫:ネギの根っこというのは、下に向かって伸びないんです。下に向かっていこうとしても、土寄せの際に周りの土が盛られていくので、下に土がない分、上に向かって伸びるんですね。
なので、羽生や行田のような水田地帯で水はけが悪かったとしても、比較的作りやすいんです。
岡田:へぇぇぇ! 面白いですね。
大貫:「味十八番」などは、3月になると葱坊主が出てきます。野菜には、成長段階が2段階あって、栄養成長と生殖成長があり、自分を大きくする成長と子孫を残す成長で切り替わるんです。葱坊主は生殖成長にあたるので、比較的変化がわかりやすいと思います。
――葱坊主って種のもとですよね? それが出てくると固くなるイメージです。
大貫:そうですね。食べられなくはないですが、ネギとしての味はそこまで美味しくはないです。
――栄養が種にいってしまうということですか? 以前、岡田さんのところで葱坊主を食べさせてもらいました。
大貫:そうです。葱坊主は食べると意外に美味しいので、たまに食べます。
料理人さんの中には、葱坊主が欲しいとおっしゃる方もいますよ。素揚げにしたり、蕾の状態だったらほぐせるので、ほぐしてかき揚げにしたり。うどんや蕎麦などの薬味にも使えます。
岡田:僕は窯で焼いて、シンプルに塩とオリーブオイルで召し上がっていただいてますね。
――食べたことがなかったのでおっかなびっくり食べましたが、ふわりとしていて美味しかったです。ちなみに青い部分って食べないんですか?
大貫:みんな食べないって言うんですよね。
――私はもったいないと思って、よく食べます!
大貫:青い部分は大きすぎるので出荷前に切ってしまうため、世の中にはそれほど出回らないと思います。直売所で売られているものや泥ネギだと折り畳まれて入っていることもありますね。
美味しいネギの見分け方と保存法
――スーパーなどでネギを買うとき、どこを見たらいいですか?
大貫:葉っぱが青々としているほうが鮮度がいいです。あとは大きくてまっすぐ伸びているものもいいと思います。でもわざと曲げて育てる「曲がりネギ」というのもあるから面白いですよね。
――「仙台曲がりねぎ」という、伝統野菜ですね。曲げてストレスをかけることで、辛みが増しますが、その分火を入れると甘くなるのだそうです。私は巻きがしっかりしているものを選ぶようにしています。
大貫:よくご存知で。それでいいと思います。
――長ネギの保存方法についても教えてください。
大貫:うちの場合は基本的に保湿させるという意味合いもあって、できるだけ泥付きで出荷しています。泥付きは一般家庭では嫌われがちですが、剥いてあると乾燥してしまいますし、結局剥いた箇所もまた剥かないといけないので。過保護にするのであれば、できれば泥付きのまま新聞紙に包んだりビニール袋に入れて置いておくのがいいと思います。
結局葉っぱの上からダメになっていくので、しおれたらカットしてください。
岡田:置き方は、立てるのと寝かすので、違いはありますか?
大貫:可能なら立てたほうがいいと思います。寝かせていても陽を浴びると起き上がっちゃうので、曲がる可能性があります。もちろん、曲がったからといって食べられないわけではないですが。
――岡田さんはどのように保存されていますか?
岡田:僕は冷蔵庫にそのまま入れています。
大貫:それがいちばんいいと思います。
――後編では、お店で人気のメニューと、ネギを使ったおうちで簡単に美味しくできるレシピを『PAZZO-DI-PIZZA GYODA』のオーナーシェフ・岡田さんに伺います。
■『Bonz farm(ボンズファーム)』
米作りが盛んな羽生市で数少ない野菜農家。
飲食にまつわる仕事に従事したのち、味がしっかりかつ日持ちすると料理人から絶賛を受ける茨城県の「久松農園」で修業し、2015年に独立。露地栽培・無農薬で「旬であること」「鮮度が良いこと」「美味しい品種を育てること」をモットーに、少量多品目で50品目100種類以上を生産。受注収穫で都内や埼玉県内などの様々なジャンルのレストランに卸している。
いずれは野菜がメインの飲食店を開くのが大貫さんの夢。※農場での直販は行っていません
https://ja-jp.facebook.com/pages/category/Agricultural-Cooperative/Bonz-farm-909476659074224/
■『PAZZO-DI-PIZZA GYODA(パッツォ ディ ピッツァ ギョ−ダ)』
国産ピザ窯を備え、シンプルな中にもヒネリのきいた料理が魅力のピッツァ&窯焼き料理の店。
大貫さんの『Bonz farm』だけでなく、『秩父やまなみチーズ工房』や「米豚」を養豚する『ハッピーズ合同会社』など生産者と積極的につながり、こだわりの逸品を提供している。
地元・行田市の農家と共に、オリジナルの小麦の生産に取り組む。2022年の収穫を目指しており、完成した暁にはピッツァ生地などに使用される予定だ。
https://www.instagram.com/p.d.p_gyoda/?hl=ja
[住所]埼玉県行田市佐間2-14-16
[電話番号]048-507-5917
[営業時間]11時~15時LO、18時~21時LO
[休日]水
[交通]JR高崎線ほか吹上駅よりバスで約12分、「佐間団地」下車徒歩3分
取材・撮影/市村幸妙
参考文献:『からだにおいしい 野菜の便利帳』(板木利隆 監修/高橋書店)、『そだててあそぼう ネギの絵本』(こじま あきお・あんどう としお へん/みねぎし とおる え/農文協)、ぷれ宮夢みやぎ(https://premiya.pref.miyagi.jp/lineup/01/index.html)
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