音楽の達人“秘話”

大滝詠一に聴いてもらいたくて…自宅までバイクで通った日々 音楽の達人“秘話”・鈴木雅之(3)

開局直後のNACK5で始まったソウル専門番組でDJ 1988年10月31日、FM埼玉(NACK5)が開局した。編成部長と親しくさせて頂いていたので、番組企画を頼まれた。マーティンと仕事をしたかったぼくは「Just Fee…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。歌手・鈴木雅之の第3回は、シャネルズとしてメジャーデビューするきっかけとなったエピソードに触れます。大滝詠一と山下達郎。この偉大な2人が、シャネルズの音楽性に着目したことも大きかったといいます。

シャネルズのスタイル

鈴木雅之~マーティンをソロへの成功に導いたのは彼自身の努力も大いにあったろうが、シャネルズのリーダーとしての人気も寄与していると思う。シャネルズと言えば黒いスーツに白いシャツと手袋、顔を黒人のように茶色く塗ったファッションも評判になった。そのスタイルはシャネルズのメンバーにとっては奇を衒ったものでは無かった。

“本当は黒人にも生まれたかったんだよね。スラムでもいいから黒人に生まれて、声ひとつでのし上がってゆくような人生、最高じゃない? シャネルズで顔に靴墨を塗ってパフォーマンスをしたのは、肌は黄色でも、せめて顔だけは黒人になりたかったんだ。手まで塗るとどこかに触った時に汚れるから、白い手袋をしていたというわけ”と、マーティンは語っていた。

大滝詠一と山下達郎がデビュー前から着目

優れたハーモニー・ワークでドゥー・ワップを歌う。そんなシャネルズにデビュー前から着目していたのが大滝詠一と山下達郎だった。マーティンはまずシャネルズの音楽を直接聴いてもらおうと、“福生の御隠居”と言われていた大滝詠一のもとを訪ねることにした。マーティンの生家から、ようやく探し当てた東京・瑞穂町の大滝邸までは50kmくらい離れている。そこへオートバイを走らせた。けれども、いきなり見ず知らずのオートバイ青年が訪ねて行っても、すぐに会ってくれる訳が無い。何度か訪ねて、雨の日には門の外で待った。後に大滝詠一は、“あの根気は凄かった”と教えてくれた。日本のミュージシャンでドゥー・ワップ・ミュージシャンに明るいのは、まずは大滝詠一。そして、かつてはその弟子とも言えた山下達郎の名が上がる。

ドゥー・ワップなら大滝詠一。ならば大滝さんに直接、自分たちの音楽を聴いてもらいたい。でも伝が無いから自宅を捜して訪ねてみよう。何というストレートな発想だろう。若かったからできることであり、自分たちの音楽に自信を持っているからできることだった。

デビュー前のシャネルズを気に入った大滝詠一は、山下達郎にもその話を伝えた。デビューのきっかけとなるように動いてくれた。第2話で紹介したシャネルズのムック『Ladies and Gentlemen!This Is The Greatest Doo‐Wop Group THE CHANELS』をぼくが作った時も、大滝詠一は快くシャネルズの魅力について語ってくれたのが、今は懐かしい。大滝詠一を慕い続けるマーティンは、大滝の作品をずっと歌っている。新作『DISCOVER JAPAN DX』でも、3曲、大滝作品を取り上げている。

開局直後のNACK5で始まったソウル専門番組でDJ

1988年10月31日、FM埼玉(NACK5)が開局した。編成部長と親しくさせて頂いていたので、番組企画を頼まれた。マーティンと仕事をしたかったぼくは「Just Feelin’ Groove」というマーティンをDJとする1時間番組を提案した。マーティンと打ち合わせをした結果、彼の希望はブラック・ミュージック以外は一切、オンエアーしないことにした。さらに彼はなるべく女性ヴォーカルは避けて、男性ヴォーカルのみで放送したいとも希望した。こうして当時は珍しかったソウル専門プログラムが1988年11月1週からスタートした。

彼のしゃべり声はマイクを通すと低音の部分が微妙にセクシーに聞こえる。そこでマーティンも好きなウィスパー・ヴォイスの名ヴォーカリスト、バリー・ホワイトにヒントを得て、マーティンに“キング・オブ・ウィスパー”を演じてもらうことにした。この番組は1997年12月まで9年間続く長寿番組となった。月2回の録音スケジュールだったが、スタジオでマーティンと逢う楽しみの日々が続いた。

2008年、NACK5の開局20周年を記念して、「Just Feelin’ Groove」が一度だけ放送されることになった。義理堅いマーティンは、ぼくを構成者に指名してくれた。彼は絆~ソウル・ブラザーをいつも大切にする男なのだ。売れない頃にインタビューして感謝されても、売れるといろいろな事情があるのだろうが、それを忘れる人もいる。

一方、義理堅くそのことをずっと覚えてくれる人もいる。長く人気を保ち続けているミュージシャンは、音楽以前に人間として大切な義理堅さを持ち続けている人が多い気がする。

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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