音楽の達人“秘話”

横山剣が「音楽を作り続けている」純粋な理由 音楽の達人“秘話”・横山剣(3)

クレイジーケンバンドの名盤

9割はどうしたら売れるかを訊きたがる 50代半ばくらいから、ぼくは自分を育ててくれた音楽シーンに何か恩返しできないかと考えた。そして、まだ無名のインディ・ミュージシャンたちの音源を聴いて電話でアドバイスしたり、ラジオなど…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。クレイジーケンバンドのリーダー、横山剣の第3回では、この“東洋一のサウンド・マシーン”が「音楽を作り続ける理由」に切り込みます。まずは、数々のヒット生み出した音楽プロデューサーの含蓄ある言葉から……。

10年かかって売れた人と、すぐに売れた人の違い

その昔、かつてはシンガーとして人気となり、その後レコード会社のディレクターとしてピンク・レディーなど数多くのミュージシャンを成功に導いた飯田久彦さんがこんなことを言っていた。

岩田さん、ミュージシャンというのは10年かかって売れた人と幸運ですぐに売れた人は違うんですよ。10年かかって売れた人は、ヒットが無くなってもその後もずっとミュージシャンとしてやって行ける。ポンと売れた人は、ヒットが無くなるとすぐに消えてしまうんです

下積み時代が長かった人というのは、売れない時代の苦労が身に染みている。ヒットを出し、またヒットに恵まれなくなっても、ヒットを出す前に比べて今の方がましだと耐えられる。一方、ポンと売れて急に売れなくなった人は、売れなくなるとどうして良いか分からなくなる。

飯田さんが教えてくれたのはこういうことだ。そこにぼくなりに付け加えることがある。それは音楽することへの愛である。音楽することへの愛が、ヒットして入って来るお金や名声よりも強ければずっとやって行けるものだ。多くのミュージシャンに逢って来て、ああ、この人はたとえヒットを出さなくても一生、音楽をして行くんだろうなと思った人は、30年、40年過ぎても音楽をやり続けている。

好きなことをやり続けるには必要なもの

横山剣もたとえクレイジーケンバンドで成功しなくとも働きながら、ずっと音楽を生み出し続ける人間だと、彼に逢えばすぐに分かる。10代半ばにして横山剣は音楽関係の仕事をしたいと思い立った。レコード会社にデモテープを持ち込んで没にされ続けた。やっとクールスRCのヴォーカリストになったのに辞める。所属事務所から解雇されてしまう。再び働きながら音楽を続け、クレイジーケンバンドとして世に認められたのは40歳を過ぎてのことだ。25年近い下積み生活と言える。“苦労したな”と彼の下積み生活を知るぼくはかつて問いかけたことがある。

“いや、苦労なんてしたことありませんよ。10代からずっと好きなこと~音楽をやり続けられましたから。こういう音楽を作りたいというワクワク感があれば、自分はずっと幸せなんです。世の中には好きなことをし続けたいと思ってもいろんな理由で、できない人もいる。確かに好きなことをやり続けるには根性が必要で、自分にそれはあるなと思います。たまたまクレイジーケンバンドで皆さんに名前を知っていただいたけど、そういうことが起こらなくとも、一番好きな音楽は続けていたと断言できます

9割はどうしたら売れるかを訊きたがる

50代半ばくらいから、ぼくは自分を育ててくれた音楽シーンに何か恩返しできないかと考えた。そして、まだ無名のインディ・ミュージシャンたちの音源を聴いて電話でアドバイスしたり、ラジオなどで紹介することを始めた。話をすると、多くの無名ミュージシャンが望んでいるのは売れることだった。売れるためにどうしたら良いか質問してくる人が実に多い。すでに1000人以上の人と電話で話したが、9割はどうしたら売れるか訊きたがる。

自分たちの作った音楽が世に認められたい気持ちは分かる。しかし売れること以上に大切なのは、横山剣の言うように何が何でも音楽をやり続けるという根性で、売れる売れないというのは結果に過ぎない。横山剣だけでなく、この連載で紹介したミュージシャンは、誰もが売れることより音楽をやり続けることを大切にしていた。

とにかく音楽が好きなんですね。いつも聴いてます。そして音楽を聴くと何かしら発見することが多いんです。うまく言えないんだけど、このミュージシャンはだからこういう曲にしたんだとか、こういう演奏にしたんだとか、音楽の中に入っている核みたいなものに自分なりに気付くことがあるんです。そういうのが分かったり、見つけた時は嬉しいですね。そういう気持ちは音楽を聴き始めた頃から変わってません。もしかしたら、自分の作る音楽も人をそういう気持ちにさせてくれるかも知れない。そう思えるからずっと音楽を作り続けているんでしょうね

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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