音楽の達人“秘話”

ジョンとポールから質問攻め「こんな勉強熱心なバンドがいるのか」音楽の達人“秘話”ジョージ・マーティン(2)

国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。英国の音楽プロデューサー、ジョージ・マーティン(1926~…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。英国の音楽プロデューサー、ジョージ・マーティン(1926~2016年)の第2回は、自身が手掛けたザ・ビートルズのレコードデビューから世界進出を果たす1962~64年頃のエピソードが紹介されます。「私は何か大変なものを手に入れたんじゃないか」。ある時期を境に、ビートルズの大きな可能性に確信を持ったというジョージ・マーティンの貴重な述懐です。

「I Want To」を、「I Wanna」と歌ったビートルズ

ぼくは1964年、ザ・ビートルズ全世界デビューの洗礼を受けた。それ以前、1956年にラジオから流れて来たエルヴィス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」に魅せられてからアメリカ、イギリス、フランスなどのポップスの虜となっていた(当時はロックとかソウルという言葉はまだ生まれておらず、海外の音楽はポップスとかポピュラーと呼ばれていた)。すでにそれなりにミュージシャンに惚れ込むということはあったものの、ザ・ビートルズは別格だった。初めて聴いた瞬間から、これは大変なものと出逢ってしまったと思った。

ザ・ビートルズの日本デビュー・シングルは1964年2月5日に発売されたシングル「抱きしめたい/ディス・ボーイ(原題:I Want To Hold Your Hand/This Boy)」だった。彼らはI Want Toの部分をI Wannaと歌っていた。幼い頃から洋楽に慣れ親しんでいたので、中学校で習う英語なんて、ぼくにとっては“ちょろい”ものだった。英語のテストはいつも100点満点だった。それが何かのテストの時に“This Man Wanna”と書いて間違いとされた。英語の先生に“ザ・ビートルズだってWannaとWant Toを略している”と抗議したが受け入れられなかった。

「彼らが特別優れているとは思わなかった」

ザ・ビートルズだけでなくザ・ローリング・ストーンズ、デイヴ・クラーク・ファイヴなどといったアメリカの音楽シーンが“ブリティッシュ・インヴェイジョン”(英国の侵略)と呼んだバンドのすべてを聴いたし、好きだった。それでもザ・ビートルズは別格だった。

そんなザ・ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンに2度も逢えたのは我が音楽人生の最良の経験のひとつだ。そもそもジョージ・マーティンはザ・ビートルズをどう思っていたのかが訊きたかった。その質問に対する答えはこうだった。

“当時の私は会社(パーロフォン・レーベル)は若い世代に受け入れられるミュージシャンの発掘に追われていた。幾つかのバンドをオーディションした。ザ・ビートルズもその中のひとつだった。その幾つかの中でザ・ビートルズの優先順位は高くなかった。1963年にリリースしたイギリスでのデビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー(原題:Please Please Me)』をたった1日で録音した時も、彼らが特別優れているとは思わなかった”

“普通、ミュージシャンというものはレコーディングが終わるとプロデューサーとはそれっきりというのが殆どなんだ。当時は現在と違って、プロデューサーとミュージシャンの関係が対等でなく、圧倒的にプロデューサーの力が強かった。スタジオで高圧的なプロデューサーの態度に接したら、レコーディングが終了したらもう逢わないよね。それがザ・ビートルズは違っていた。レコーディングが終わるとすぐに毎日のようにジョン・レノンとポール・マッカートニーが私に逢いに来た。で、「どうやったらアレンジできるか」とかいろいろと質問攻めにあった。あっ、こんな勉強熱心なバンドがいるのかと思ったね。そこで私は様々な音楽的知識を彼らに与え始めたんだ”

「宝を手に入れた」…それは確信に変わった

そしてセカンド・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ(原題:With The Beatles)』のレコーディングが1963年に始まった。その時にジョージ・マーティンのザ・ビートルズへの思いが変わる。

“セカンド・アルバムのレコーディングの最中に私は何か大変なものを手に入れたんじゃないかと思ったんだ。I Got A Treasure~宝を手に入れたんだと思ったんだ。そして宝は本物だったとザ・ビートルズが全世界デビューする頃には確信に変わった”

ジョージ・マーティンがザ・ビートルズに見たものは単なるヒットメイカーを超える圧倒的な何かだったのだ。

ジョージ・マーティンがプロデュースした名盤の数々。上段はビートルズ(『レット・イット・ビー』の最終的なプロデュースはフィル・スペクター)。下の2枚は、ジェフ・ベックの『ワイアード』(1976年)と、『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975年)

岩田由記夫

1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。

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