「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』のクイズ」では、三択形式のコラムで読者の知的好奇心に応えます。第20回のテーマは「食中毒」です。 出題:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』のクイズ」では、三択形式のコラムで読者の知的好奇心に応えます。第20回のテーマは「食中毒」です。
出題:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治
自然毒と人工毒
【問題】
人間に有害な毒は、大きく「自然毒」と「人工毒」に分けられます。自然界に存在する「自然毒」には、生物由来の「生物毒」(毒蛇やトリカブトなどの動植物の毒、赤痢菌などの微生物の毒)と、鉱物由来の「鉱物毒」(ヒ素など)とがあります。「人工毒」は、おもに人間が人工的に作った有害な化学物質で、青酸カリなどがあります。
さて、これらの毒の中で毒性が最強のものは、人工毒ではなく、食中毒を引き起こすある生物由来の自然毒です。その毒素を作り出す生物とは、以下のどれでしょうか?
(1)フグ
(2)テングタケ(毒キノコの一種)
(3)ボツリヌス菌
答えは次のページ!
毒性を比較してみると…
【答え】
答えは、(3)の「ボツリヌス菌」です。
毒性の強さはどのように測定する?
毒性の強さを測る代表的な指標は、「LD50」(半数致死量)というものです。これは、マウスなどの実験動物に投与した場合に、その実験動物の半数が試験期間内に死亡する用量を体重当たりの量(mg/kg)として表したもので、急性毒性の強さを表す代表的指標です。
半数致死量で比較すると、ボツリヌス菌が作り出す毒素(ボツリヌストキシン)は桁違いな数値(小さいほど毒性が強い)を示し、現在知られている自然界の毒素の中で、最強の毒性をもつとされています。
選択肢の毒性を比較すると
(1)のフグの毒素は「テトロドトキシン」という物質で、半数致死量は0.01 mg/kg です。
(2)のテングタケの毒素の一つに「α-アマニチン」があり、半数致死量は 0.3mg/kg です。フグの毒素に対し、毒性は約0.03倍です。
(3)のボツリヌス菌が産生する毒素は「ボツリヌストキシン」です。ボツリヌストキシンは抗原性の違いによりA,B,C,D,E,F,Gの7種類に分けられており、ヒトではA,B,E,F型で中毒を発生することが多いといわれます。ボツリヌストキシンAの半数致死量は 0.0000011mg/kg で、これはフグの毒素に対し何と9100倍もの毒性となります。
以上の毒素と、代表的な人工毒である「ダイオキシン」「サリン」「青酸カリ」との毒性の比較を表に示します。ボツリヌス毒素がいかに強力な毒性をもつかがお分かりになると思います。
なお、半数致死量は、毒の投与方法(皮下注射、静脈注射、腹腔内注射、etc.)などによっても値が異なりますので、上記の数値はあくまで目安とお考えください。
(参考)
[1] 環境用語集:「LD50」(一般財団法人 環境イノベーション情報機構)
https://eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=252
[2] 生物毒(福岡大学 機能生化研究室 講義資料)
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/venoms.htm
[4] 自然毒のリスクプロファイル:フグ毒(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_01.html
[5] 自然毒のリスクプロファイル:テングタケ(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/kinoko_07.html
[6] ボツリヌス毒素とその検査法(大阪健康安全基盤研究所)
http://www.iph.osaka.jp/s005/060/020/020/010/1-1.pdf
どこにでも見られる菌
ボツリヌス食中毒とは?
ボツリヌス菌が産生したボツリヌス毒素を食品とともに摂取した場合、摂取後8時間~36時間で、吐き気、嘔吐や視力障害・言語障害などの神経症状があらわれることがあります。これがボツリヌス食中毒で、重症例では呼吸麻痺で死亡します。ボツリヌス菌は、偏性嫌気性菌(酸素がほとんどないところでのみ生育できる菌)であるため、低酸素状態のビン詰、缶詰、レトルトパウチ食品などで増殖が可能です。増殖の際にボツリヌス毒素を産生し、これが食中毒を引き起こします。ボツリヌス菌が増殖すると、変形可能な容器は膨張し、開封すると異臭がするので、そのような場合は注意が必要です。
予防法は?
ボツリヌス毒素は80℃で30分間(100℃で数分以上)加熱すると失活するので、食べる直前に十分加熱するのが効果的です。ボツリヌス菌自体は、芽胞と呼ばれる状態では100℃の高温でも死滅しませんが、体内に入ったとしても、ほかの腸内細菌との競争に負けてしまい、毒素を出すまで腸内にとどまることができず、通常は何も起こりません。ボツリヌス菌はどこにでも見られる菌で、またその産生する毒素が最強の毒性を持つにもかかわらず、食中毒の患者数がそれほど多くないのは、このような理由によります。
1歳未満の乳児は要注意
ただし1歳未満の赤ちゃんの場合、腸内環境がまだ整っておらず、ボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を出すことがあります。これが乳児ボツリヌス症です。特にハチミツは加熱処理を行わないため、ボツリヌス菌が混入していることがあり、幼児にはリスクの高い食品です(1歳以上ならリスクは高くありません)。ハチミツ入りの飲料やお菓子は1歳未満の乳児には与えないようにしましょう。
(参考)
[7] ボツリヌス菌|「食品衛生の窓」(東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/boturinu.html
[8] ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html