豊洲市場から少し離れてコーヒーブレイク 直実さんコーヒーください/素晴らしきマグロの世界(番外編)

弊誌『おとなの週末』をはじめ、様々な媒体で活躍中のカメラマン・鵜澤昭彦氏による、美味なるマグロ探訪記。ですが、今回は番外編。豊洲市場から少し離れたカフェで、コーヒーブレイク。そこで聞けた感動秘話。

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豊洲市場で、勝手にマグロの勉強をしたりすると意外と疲れる。そんな時は気分を変えてコーヒーが飲みたくなるものだ。

市場内にもいくつかの喫茶店があるが、俺は豊洲市場周辺から少し離れた鉄砲洲神社界隈にある、『カフェドカノン』に行くのが常だ。

姉妹ふたりで切り盛りしている小さなカフェで、ネルドリップで抽出するコーヒーは文句なく旨い

コーヒーはネルドリップで抽出

姉妹は、決して余計な話はしないけれど、いつも温かく迎えてくれるこの店は、俺のお気に入りなのだ。

そんな、ある日、俺は姉貴の直実さんにちょっとした愚痴をこぼした。

「このまえ××でマグロ丼食べたんだけどあの値段で、あのクオリティーはないよな~!……」って、そしたらいつも滅多に話さない直実さんが俺に小さな声でポツリと言った。

「うーちゃん、私不味いマグロを食べたことがないのよ。だからマグロが美味しくなかったっていわれてもピントこないの」

そうだった、彼女の親父さんはマグロの仲卸に勤めていたんだ

家庭で食べるマグロは父の進さんがみずから目利きしたマグロ、そりゃあ旨かろうさぁ。

彼女の親父さんには、生前一度だけ会ってあいさつしたことがあった、「こんにちわ、カメラマンの鵜澤です」。かなり大きな声で挨拶したつもりだったんだが、【ガン無視】であった(笑)。

俺はその時のことを彼女に話したら、「うちの父、かなりの人見知りだったのよ」と笑われた。

「でもね、うーちゃん。もう随分まえのことだから話すけど、病気になったお父さんの最後にあたし立ち会ってて、ふと、お父さんの手を見たら手やり(※)してたの

そしてね、にっこりと微笑んで息をひきとったの

お父さん、マグロのせりに勝ってマグロと一緒に天国に行ったって、あたし思ってるのよ。」

俺は少しだけうつむいて話す彼女の横顔をみて、あの殺伐としたマグロのせり場で、自分の目利きしたマグロを見事にせり落とし俗世を離れていったひとりの仲買人の後ろ姿を見た気がした。

そして、できるなら俺も最後は夢の中で最高の一枚を撮りつつ息を引きとりたいとセツに願うのだ。

コーヒーの香りが漂う店内、少し開いた窓の隙間から流れてくる潮風を感じながら、俺はひとりの仲買人の冥福を祈った。

「深入りブレンドコーヒー」450円

※せりの時に、買い手の仲買人が購入したい品物の値段を指で示すこと。

『café de kanon(カフェドカノン)』

■café de kanon(カフェドカノン)
[住所]東京都中央区湊1-10-5 木村ビル
[電話番号]03-3553-1881
[営業時間]11時〜17時半
[休日]水・土・日・祝

取材・撮影/鵜澤昭彦

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