音楽の達人“秘話”

オフコースの“長い冬”に終わりを告げた名曲「俺たちには大ヒットが必要だったんだ」+筆者の極私的ベスト3 音楽の達人“秘話”・小田和正(4完)

国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。シンガー・ソングライター、小田和正の最終回は、筆者が選ぶベ…

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国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。シンガー・ソングライター、小田和正の最終回は、筆者が選ぶベスト3曲の紹介です。その中には小田和正が「絶対にヒットさせる」と心に誓ったあの名曲も。筆者に明かした“思い”は、必読です。

「僕の贈りもの」 中途半端な季節として描き出した“巧み”さ

織り交ぜた歌詞には、オフコース~小田和正でしか作り得ない高いオリジナリティがある。平凡な歌詞のようであってもよく聴いてゆくと、この人~小田和正の感性は只者じゃないということが分かる。歌詞がスーッと心に入ってくるのだが、歌詞カードを読むと行間に深い意味があるのが伝わってくる。

ヒット曲も数多いオフコース~小田和正の楽曲群の中から、極私的3曲を選ぶとするなら、1973年の4枚目のシングル「僕の贈りもの」がまずあげられる。春夏秋冬を織り込んだ歌詞なのだが、ストレートに四季は歌われない。

“冬と夏の間に春をおきました”とまず歌い出される。次に、“だから春は少しだけ 中途半端”と続く。同じように“夏と冬の間”に秋がおかれる。そこに恋愛感情も挟み込まれる。ネタバレ的になるので、何故そう歌われて、それが“僕の贈りもの”になるのかはあえて記さない。

それにしても春や秋は妙に寒かったり、暑かったりする中途半端な季節だという感情は日本人が多く持っているのではないだろうか?コートじゃ暑いけど半袖では寒い春。半袖では涼し過ぎるけど長袖では暑い。そんな感覚を中途半端な季節として描き出した処に小田和正の“巧み”があると思う。オフコース時代には季節をテーマにした曲が多く、「秋の気配」、「夏の終り」などタイトルに四季を盛り込んだ曲もある。

「秋の気配」 “秋”を入れずに、“秋”を感じさせる

極私的3曲の2曲目は「秋の気配」だ。この曲の巧みさは、秋の情景、例えば枯葉などを一切詞に入れていないのに、聴く人に秋を感じさせるところだ。

“あれがあなたの好きな場所 港が見下ろせる小高い公園”という風景がまず描かれる。そんな情景はいつしか“ぼくがあなたから離れてゆく”という感情に結びついてゆく。つまり、異性にふられたのでもなく、ふったのでもない“ぼくがあなたから離れてゆく”という何方付かずの感情で秋という季節を表現~暗喩しているのだ。この曲にも小田和正の作詞の“巧み”を感じる。オフコースの不遇時代、1977年夏のシングルだ。

オフコースのベスト・アルバムなど

「さよなら」 “もう”という歌い出し、不安定なコード

極私的3曲の3曲目はオフコースの名を世に広めた1979年12月のシングル「さよなら」だ。この曲は冬の風景だ。冷たい雨がやがて雪となり、白い冬になる時期だ。そして雪が別れる恋人たちの心の中に降り積もる。

「さよなら」の歌詞だけでなく、この歌い出しの“もう”というところのコードに小田和正の作曲能力の高さをかつて感じた。

“もう”という歌い出しは“G6”というコードが使われている。メジャー・コードでもマイナー・コードでもない不安定なコードだ。その不安定さが“もう”という感情にぴったりと合っている。恐らく小田和正の頭の中では、“もう”という言葉と“G6”という不安定なコードが、同時に天から降りてきたのだろうとぼくは思う。

こんな不安定な歌い出し、コードで曲が作れたのは小田和正が、“不安定コードの神様、ザ・ビートルズ”をたっぷりと聴き込んで育ったからだと思う。ネット上の“さよなら”のギター譜では、“もう”の部分は“Em”が当てられていることが多いが、ぼくはこの部分は絶対に“G6”だと思っている。

「さよなら」は小田和正の強い決心の元に作られている。かつて、小田和正はぼくに「さよなら」について語ってくれた。

“とにかくシングル・ヒットが欲しかった。「さよなら」に関しては、ヒットさせようじゃなく、絶対にヒットさせると心に決めていたんだ。次のステップに行くには、俺たちには大ヒットが必要だったんだ”

「さよなら」はオフコースの通算17枚目のシングルで1979年12月1日~昭和54年冬にリリースされて大ヒットとなった。オフコースの長い冬に終わりを告げる名曲となった。

オフコース、小田和正のアルバムの数々

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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