YMOと言えば「ライディーン」 1曲目は「ライディーン」。ユキヒロの曲でY.M.O.初のヒットとなった。Y.M.O.の楽曲で最もチャート・ランクが高かったのは「君に、胸キュン。」だが、音楽ファン、特にY.M.O.のファン…
画像ギャラリー国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。高橋幸宏の最終回は、故人が遺した名曲の背景に触れながら、筆者が選んだベスト3を紹介します。“歌えるドラマー”で“リズム・キーピングの名手”だった高橋幸宏の曲。読者の皆さんは、どれをベストに挙げるでしょうか。
三大ドラマーの一人 「鬼のように正確」「神ドラム」
1960~70年代から活躍していた日本のドラマーから“三大ドラマー”を選ぶとしたら、ぼくは林立夫、ポンタ村上(村上秀一)、高橋幸宏を選ぶ。3人の中で高橋幸宏の特徴は、まず“歌えるドラマー”だったことだ。次にリズム・キーピングの名手だったことを思い出す。
レベッカや中島みゆきなどのプロデュース、サディスティック・ミカ・バンドでは高橋幸宏~ユキヒロと行動を共にした名ベーシストの後藤次利。かつて交友のあった後藤次利はユキヒロのドラミングについて“鬼のように正確なドラマー”とぼくに語っていた。日本で特に人気の高かったイギリスのバンド、JAPANのドラマー、スティーヴ・ジャンセンは、ユキヒロのドラミングを“神ドラム”と評して尊敬していた。
全世界でこれまで数千万枚のアルバム・セールスを誇るイギリスの人気バンド、デペッシュ・モード。彼らについてユキヒロが教えてくれたことがあった。
“しつこいくらいに訊いてきた”デペッシュ・モード
“デペッシュ・モードの連中は、無名時代、Y.M.O.の追っかけだったんだよね。イギリスの公演の時、何回も楽屋に押しかけて来て、ぼくたちの音楽について、しつこいくらいにあれこれ訊いてきたんだ。それが、あんなに売れたのは驚いたね”
デペッシュ・モードにしろ、JAPANにしろ、皆Y.M.O.のファン、ユキヒロのファンだったのだ。
ユキヒロとの会話が次々と思い出されて、こうして原稿を記していても胸が熱くなる。書くのが辛くなってくる一方で、ユキヒロについて語るのも供養と思って、心に鞭打って記している。今回はひとまず完結編なので、極私的高橋幸宏の3曲を選んでみるとする。
YMOと言えば「ライディーン」
1曲目は「ライディーン」。ユキヒロの曲でY.M.O.初のヒットとなった。Y.M.O.の楽曲で最もチャート・ランクが高かったのは「君に、胸キュン。」だが、音楽ファン、特にY.M.O.のファンには、Y.M.O.と言えば「ライディーン」と言えるだろう。
Y.M.O.のオフィスの社長で麻雀友達でもあった故大蔵博は、生前、ぼくに“Y.M.O.のアルバムは世界100カ国以上で発売されていて、総セールス枚数は200万枚を超えている。一番人気の楽曲は「ライディーン」だ”と教えてくれた。
ちなみに大蔵博はY.M.O.のステージ衣装や様々な小道具などをすべて倉庫に保管していた。一度それらのグッズをどうしたら良いか相談されたことがある。あれらのグッズは大蔵博の死後、どうなったのだろうか。
「ライディーン」のメロディーは世界レベルと言える。“そんなに時間はかけないで、すんなりメロディーが出来た”とY.M.O.時代、ユキヒロはぼくに言っていた。
喪失と再会の歌「青空」
2曲目の「青空」は1994年のアルバム『Mr.YT』に収録されている。作詞は森雪之丞だった。ユキヒロのソロ楽曲には、彼の心の優しさが表出したものが多いとぼくは思う。ヴォーカリストとしても、熱いタイプでは無いが“心の温もり”を伝える歌唱法だと言える。
「青空」はざっと聴くと失恋ソングのようでいて、実はもっと意味が深い、喪失と再会の歌だ。
クリスマス・ソング「X’MAS DAY IN THE NEXT LIFE」
3曲目はユキヒロの盟友のひとりだったムーンライダーズの鈴木慶一が作詞したクリスマス・ソングだ。ふたりは1981年にTHE BEATNIKSというユニットを結成し、5枚のアルバムを残した。
“See you on X’mas day in the next life”とユキヒロが歌うこの「X’MAS DAY IN THE NEXT LIFE」は、1991年のソロアルバム『A DAY IN THE NEXT LIFE』に収録されていた。今後、忘れられないクリスマス・ソングになりそうだ。
歌い出しの“こんな素敵な日にいつかまた会おう”という歌詞が、今となっては心に刺さる。今はクリスマスでは無いけれど、しばらくはこの曲に浸っていたい気にさせる。
もういくらその名を呼んでもユキヒロは戻ってこない。彼の作品を聴き続け、彼の名を忘れないことが残されたぼくらの役割というのは、あまりに悲しい。
岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。