味蕾にグルタミン酸受容体 うま味が提唱された後も、長い間その存在は科学的に立証されていませんでした。欧米の多くの学者はうま味の存在に懐疑的で、塩味や甘味がほどよく調和した味覚に過ぎないと考えていました。しかし2000年に…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「基本味」です。
文:三井能力開発研究所・圓岡太治
ほかの味を組み合わせても作り出せない味
「基本味」とは、ほかのどの味を組み合わせても作り出せない独立した味のことで、5つあると考えられています。そのうち4つは「甘味・塩味・苦味・酸味」です。もうひとつの基本味は、次のうちどれでしょうか。
(1)辛味
(2)渋味
(3)うま味
料理の味に深みを出す
もう一つの基本味は、(3)の「うま味」(うまみ)です。
長い間、味覚の基本となる要素(基本味)は、甘味(かんみ)・塩味(えんみ)・苦味(にがみ)・酸味(さんみ)の4つと考えられていました。5つ目の基本味となる「うま味」が発見されたのは、わずか100年ほど前のこと。発見したのは、日本人でした。
日本では古くから、料理の味に深みを出すために昆布だしが使われてきました。1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士は、この昆布だしの味の正体が「グルタミン酸」であることを突き止めました。そしてその味を「うま味」と名付けたのです。その後、別の研究者らにより、かつお節に含まれるイノシン酸、干ししいたけに含まれるグアニル酸などもうま味成分であることが解明されました。
うま味が基本味として認識されたのは池田博士の功績によるものですが、うま味自体は、もともと各国の料理の中にも存在していました。タイのナンプラー、ベトナムのニョクマムなどの発酵調味料には、発酵の過程で原料中のタンパク質がアミノ酸に分解され、うま味成分であるグルタミン酸が豊富に含まれています。また、西洋料理でよく使われるトマトやチーズにもグルタミン酸が多く含まれています。
なお、当初名付けられた「うま味」という名称は、現在に至るまで使い続けられています。日本以外では「うま味」に相当する言葉がなく、1985年開催の第一回うま味国際シンポジウムを機に、「UMAMI」が国際的に使用されることとなりました。
味蕾にグルタミン酸受容体
うま味が提唱された後も、長い間その存在は科学的に立証されていませんでした。欧米の多くの学者はうま味の存在に懐疑的で、塩味や甘味がほどよく調和した味覚に過ぎないと考えていました。しかし2000年に、マイアミ大学の研究チームが、舌の味蕾(みらい)に、グルタミン酸受容体があることを発見し、これにより、人間がうま味を感知していることが立証されました。こうしてうま味が基本味として認知されるようになったのです。
一方、「辛味」を感じるのは、舌の表面にある味蕾ではなく、舌の奥深くの三叉神経の神経細胞です。脳は辛味を味としてではなく、「痛み」として感じているのです。
また、柿やお茶などに感じる「渋味」も、味覚ではなく、痛みや触感に近い感覚だと考えられています。
なお、辛味も渋味も、「味」という字は当て字で、本来は形容詞語幹に接尾語「み」がついて名詞化した「辛み」「渋み」です。つまり文字の上でも本来は「味」ではないのです。
(参考)
[1] 日本うま味調味料協会
https://www.umamikyo.gr.jp/
[2] うま味発見から商品化への軌跡-池田菊苗物語(味の素グループ)
https://story.ajinomoto.co.jp/history/020.html