女将やマダムのいる店は、何かが違う。「女将」ってなんだろう? その姿に迫る『おとなの週末』連載「女将のいる場所」を、Webでもお届けします。第2回目の今回は、東京・三軒茶屋で2010年に開業した『ピガール トウキョウ』の…
画像ギャラリー女将やマダムのいる店は、何かが違う。「女将」ってなんだろう? その姿に迫る『おとなの週末』連載「女将のいる場所」を、Webでもお届けします。第2回目の今回は、東京・三軒茶屋で2010年に開業した『ピガール トウキョウ』の女将、山田千恵さんです。
『ピガール トウキョウ』の女将(マダム)・山田千恵さん
壁は紅(あか)。それもペドロ・アルモドバルの映画的な真紅、は絶対。化粧室はソフィア・コッポラ『ヴァージン・スーサイズ』のピンク。『ピガール トウキョウ』は三軒茶屋で13年。時空の歪(ひずみ)に在るような木造長屋、ノイジーな5坪の箱は、女将(マダム)・山田千恵さんがデザインしている。「昔、三宿の『ゼスト』に行った時、こんなお店をつくりたいって思ったんです。外国の匂いのする、異空間を」
千恵さんは1979年、東京・江戸川区生まれ。建設業の父と、洋楽好きの母のもとでオールディーズを聴きながら育った。短大で生活環境学や空間学を学び、かの『ゼスト』を運営する企業に入社。外国の匂いの中で多国籍なゲストと接する仕事に嬉々としたが、組織ではいずれ現場を離れることになる、と気がついて退社を決めた。「お帰りになるお客さまの後ろ姿が好きで、それをちゃんと見届けられる”現場”に一生いたいと思ったんです」
25歳、勤め先のアイリッシュ・パブで山田英博さんと出会い、28歳で結婚。ドイツパン職人だった英博さんは、同じ麦でも液体の方に魅了されてしまった人だった。 ヨーロッパの文化も、アンダーグラウンドな映画も、英博さん経由でどんどん好きになる。いつかはふたりで小さな店を。それは決断ではなく、むしろあたりまえのように導かれた未来であった。
ヨーロピアン・ビアパブ『ピガール トウキョウ』。クラフトビールとヨーロッパとカルチャーと。ふたりそれぞれに辿ってきた道のり、一緒に旅した痕跡で埋められたこの5坪は、彼らの国だ。一間の入口からお客が顔を見せると、千恵さんは奥からでも声をかける。「こんばんは!」雲間から差す光のような明るさと、さっと置かれる紙コースターが人の居場所をつくる。
飲みながらふと顔を上げれば、一輪の花。「お花って、なんかうれしくなるじゃないですか。だから店のどの場所でにいてもお花が見えるように置くんです。今ピガールで飲んでいるんだ、と感じられるように」一度大病を経験した千恵さんは、だからこそ笑って話せることがあると言う。ビールを飲んで笑えれば、結んだ心もほどけるだろう。そうしてまた明日を迎える。元気に帰る人の背中を、彼女は今夜も一つひとつ見届ける。
『ピガール トウキョウ』
2010年開業。“東京・三軒茶屋 5坪のヨーロッパ”を掲げる、欧州クラフトビール専門店。店内にはボトルショップも併設し、「クラフトビール飲める!買える!」が合言葉。一歩入れば、そこは三茶の“穴”的空間が広がる。
[住所]東京都世田谷区太子堂2-15-8
[電話]03-6805-2455
[営業時間]火〜土 15時〜23時、日・祝 13時〜21時
[休日]月(祝の際は営業、翌火休)
[交通]東急田園都市線ほか三軒茶屋駅北口A・B出口からともに徒歩1分
文/ 井川直子、写真/ 大森克己
※2023年7月号発売時点の情報です。
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