「たまにはお肉を抜いてみませんか?」人気精肉業者・ヤザワミートはなぜプラントベースのハンバーガーを作ったのか

昨今、「プラントベース(大豆ミート)」のフードが増えています。中でも注目を集めているのが代替肉。さまざまなメーカーやお店で作られていますが、ついに精肉業者で取り組むところが登場しました。それが人気店『ミート矢澤』を経営する精肉業者「ヤザワミート」。プラントベースを使ったハンバーガーを提供し始めたのだが、なぜ作ろうと考えたのでしょうか。実食とともにその真意を伺ってきました。

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牛もプラントベースも関係ない 目指すは「味の黄金比」

「肉を使わないハンバーガーを食べてきてください」

ある日、編集Eさんからミッションがきた。なるほど、と思った。「代替肉」は今どんどん増えているし、マクドナルドでも「植物肉バーガー」を出したくらいだし、意外性はそんなに……なんて思っていたら、Eさんが続けて言った。

「かの『ヤザワミート』が出すらしいんですよ」

前言撤回、いやいや、意外性大ありではないか! ヤザワミートといえば、大人気店『ミート矢澤』を経営する精肉業者。客は、おいしい牛肉を求めて『ミート矢澤』に行列を作るのである。「『肉の替わり』を使うなんて、いいのか、ヤザワミート?」と正直思った

『BLACOWS(ブラッカウズ)』。2009年9月開店、ヤザワミート直営のバーガービストロ。黒毛和牛100%パティを使用したハンバーガーを提供する

やってきたのは、代官山にあるヤザワミート直営のハンバーガーショップ『BLACOWS(ブラッカウズ)』。1番人気のメニューは、「黒毛和牛100%パティを使用したハンバーガー」だという。その店で、肉を使わない「オルタナティブバーガー」を出すのだ。ますます、脳内は「いいのか、ヤザワミート?」でいっぱいだ。

「オルタナティブバーガー」(2000円)。「味の黄金比」を追い求めて行きついた答えだ

登場した「オルタナティブバーガー」(2000円)は見た目、ハンバーガーそのまんま、とかなりおいしそう。まずはパクっとかぶりついた。

噛みしめると、パティとバンズ、トマトソース、オムレツ、チーズ……さまざまな具材の味が折り重なるように口の中で溶け合う。もうひと口、もうひと口……旨い。めくるめく味のハーモニー。パティが突出しているのではなく、すべての具材が見事に調和しているというのか。

「オルタナティブ」は、「主流な方法に替わる新しいもの、代案」という意味だ。日本語ではよく「代替肉」というが、もはやこれは新しい食べ物としたらどうか。「代替」って、「肉の替わりだよ」というイメージだから、ちょっとさびしい。まったく新しい食べ物であり、新しいバーガーだ。

あくまでも『味の黄金比』を目指しました。それはパティが黒毛和牛100%でもオルタナティブでも変わりません」と、開発したヤザワミート統括総料理長の福島亮さんは言う。なるほど、と深くうなずいた。

具材は、パティ、自家製トマト&パプリカソース、京都福知山産こだわり卵を使ったチーズオムレツ、自家製タルタルソース、パルジャミーノチップス、シチリア産アーモンド、イタリアンパセリ、そしてバンズは全国に約30店展開する人気ブーランジェリー『メゾンカイザー』製。

これらのメンバーがいい仕事をし、見事な「味の黄金比」を生み出しているのだ。主役だけが目立つのではなく、バーガーは「チームプレイ」なのである。

「オルタナティブバーガー」を実際に試食させていただいた

それにしても、なぜ「ヤザワミートがオルタナティブバーガーを作ったのか?」。ずっと渦巻いていた疑問だ。福島さんが答えてくれた。

安心安全、健康によい大豆ミートの料理を作りたい

「『SDGs』が叫ばれる今、ひとりの人間として環境問題、食糧問題には関心があります。そんななか、『プラントベースミート(大豆ミート)』を使った製品が増えてきました。

でも、料理の大前提である『味』が忘れられていること、それに大豆ミートには意外に添加物が多く使われていることがずっと気にかかっていたんです。

自分たちの手で、なんとか、おいしく、しかも安心安全、健康によい大豆ミートの料理ができないか。試行錯誤しているうちに、『Deats(ディーツ)』というおからとこんにゃくで作られるサスティナブルフードに出合いました。

においやえぐみが一切なく、しかも添加物はこんにゃくを固めるための水酸化カルシウムのみ、という素晴らしい食材です」

「オルタナティブバーガー」のパティ

この「Deats」に選び抜いた国産大豆ミートを合わせて、何度も味や食感の調整をしたのが、この「オルタナティブバーガー」のパティだ。牛肉そのまま、というのではない。歯応えがよく、他の具材との調和が素晴らしい。同じ素材を使った、ミートソース、カレーライスもいただいた。臭みがまったくなく、私は普通の挽き肉よりも好きかもしれない、と思う

パティと同じ素材を使ったカレーライス(左)と、ミートソースのパスタ(右)もいただいた

「フェイクの肉を作ろうとして作ったわけではありません。肉を一切使わずにおいしいハンバーガーを作ろうとした結果です。肉屋が言うのもなんですが、『たまには、お肉を抜いてみませんか?』

福島さんはこう締めくくった。

肉が手軽に、世界で多くの人々の口に入るようになったことは、もちろん幸せなことだ。しかし、多くの人が肉を食べるようになったことで、深刻な問題が起きていることも厳然たる事実なのだ。

肉を生産するためには、穀物やトウモロコシなどの飼料や水が膨大に必要だ。水源の取り合いや、飼料を栽培する農地や牧草地を増やすため、農地の開墾に伴う森林伐採が問題になっている。また、牛のゲップによるメタンガスの排出は、気候変動のひとつの要因だ。そのため、肉のなかでも、牛肉はもっとも環境負荷が高いと言われている。

牛肉だけではない。たとえばうなぎ。いつまでも食べられて当たり前と思っていたものが、実は当たり前ではないという事実を、私たちは突き付けられている。

そんな今、「オルタナティブバーガー」の発売は、「肉屋」ヤザワミートの大胆な、そしてとても大事な問いかけなのではないか。

■『BLACOWS(ブラッカウズ)』
[住所]東京都渋谷区恵比寿西2-11-9 東光ホワイトビル1階
[電話番号]03-3477-2914
[営業時間]11時~15時(14時LO)、17時〜22時(21時LO)
[休み]12月31日〜1月2日
[交通]東急東横線代官山駅から徒歩5分

取材/本郷明美

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