夏坂健の読むゴルフ「ナイス・ボギー」

ゴルフは”紳士のスポーツ”?現代まで残った、「女人禁制」の声

今から20数年前、ゴルフファンどころか、まったくゴルフをプレーしない人々までも夢中にさせたエッセイがあった。著者の名は、夏坂健。「自分で打つゴルフ、テレビなどで見るゴルフ、この二つだけではバランスの悪いゴルファーになる。…

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今から20数年前、ゴルフファンどころか、まったくゴルフをプレーしない人々までも夢中にさせたエッセイがあった。著者の名は、夏坂健。「自分で打つゴルフ、テレビなどで見るゴルフ、この二つだけではバランスの悪いゴルファーになる。もう一つ大事なのは“読むゴルフ”なのだ」という言葉を残した夏坂さん。その彼が円熟期を迎えた頃に著した珠玉のエッセイ『ナイス・ボギー』を復刻版としてお届けします。

夏坂健の読むゴルフ その20 男が見た女性ゴルファー

ゴルフ場は男の場、女は来るな!

「先週末、女性がクラブハウスにいる場面に出食わした。なんという醜態! 以後二度とこのような不祥事が起きぬよう、事務当局に強く要望する」(ウォーチェスターシャーGCの苦情ノートより)

「女性団体から、週末もコースを開放して欲しいという要望書が届いた。当理事会では恒例に従って、通算270回目の拒絶を返送した」(フォルカークGCの議事録より)

「問題は、数年前の夏から見受けられるようになった。女性たちが伝統を無視して丸首シャツのままコースにやってくるのだ。その姿でかがむと、男たちはボールから目が離れて、1ホールに2打ほど余分に打つことになる。よって当クラブでは襟なし女性の入場を厳禁すると同時に、ミニスカートについても同様に扱うつもりだ」(ソルトフォードGCのチェアマン、J・チャンピオンの談話)

「朝の9時に、どうして女性がプレーできるのか、私にはまったく理解できない話だ。少なくとも私の妻は炊事、洗濯、掃除に追われて、ホッとひと息つくころにはお昼。これはあくまで推察だが、朝の9時にコースをほっつき歩く女性の家庭というのは、不潔で乱雑に決まっている」(ノースウッドGCの理事、T・レイリーの談話。このコメントがチャンネル4のテレビで流されたあと、5~6件の抗議電話が寄せられた)

「ゴルフをやりたがる女性と、ダイニングルームでズボンをはく女性は好きになれない。この手合いは避妊に積極的であり、亭主のヒゲ剃りでスネ毛を剃って平気な顔だ」(コラムニスト、J・ラッセル)

「もちろん、男性のメンバーがお茶を飲んでいるとき、食事中、休憩時間、プレー後にシャワーを浴びているときに限って、コースの片隅を使わせてくれというなら、私たちは女性の入場に反対しない」(セントアンドリュース南部地域会議における理事の発言)

「ゴルフの発端に女性は関与しなかった。これは男たちが始めた勇猛果敢なゲームであり、騎士道が根底を成している。ところが連中はデモクラシーとかいう軽佻な時流に乗って、あれもこれも手当たり次第に首を突っ込もうとする。男の場には女は来るな! と、こう申し上げたい。そもそも男女同権を言う女には野心がなさすぎる。自らを低く見ている証拠ではないか」(ビショップシャーGCの元理事、B・アーチミルの談話)

「これは1972年、実際にあった話だ。その伝統あるコースでも圧力に屈して、仕方なく土曜日も彼女たちに開放してしまった。案の定、双眼鏡によって観察を続けた6名の理事からの報告によると、彼女たちのスロープレーによってコースがひどく渋滞するようになった。女性ゴルファーには大別して3つのタイプがある。

 (1)プレーが遅い。

 (2)プレーが、とっても遅い。

 (3)プレーが、とってもとっても遅い。

 このうち、(1)と(2)については我慢の範疇、会員は紳士として耐えるように心掛けている。ところが9割近い女性がタイプ(3)に属するからたまらない、なかには待ち時間のあまりの長さに激怒して、途中から帰ってしまう者も現われた。しかし、ひとたび開放した快適な散歩道、おしゃべり広場を彼女たちが明け渡すはずもなく、逆に土曜日は男性会員が敬遠するようになって、いまでは女性デーに様変わりしてしまった。おわかりかね? 城壁の扉は1インチでも開けたらオシマイだってことが。ゆえに20世紀も終わるというこの時期になってさえ、われわれイギリスの男は一歩も譲らないのだ」(カールークGCの書記、P・ペインズリー)

女人禁制を死守するのは賢明な選択である

「どれほど偉大な女性でも、不満の心だけは隠せないもの。不満は女性の本質ともいえるだろう。第二次大戦後、多くのコースが女性を受け入れるようになった。最初、彼女たちは殊勝にもオズオズと上目使いでやってきた。ところが早くも翌週になると、トイレとシャワーに文句をつけ、半年後には理事に女性を加えろとフロント前で気勢を上げ始めた。彼女たちはコースに不満を持ち込んでくる。亭主、嫁姑問題から同じ女性ゴルファーに対する確執まで、すべての不満をコースに持ち込んで恥じるところがない。世界中の女性団体から非難されようとも、当イギリス国内において、多くのコースが女人禁制を死守するのは賢明な選択である」(コラムニスト、S・ジン)

「わしは、オバさん族のフォームを見て興奮するほど変態ではない。よってここに退会届を送付する」(バインフィールドGCの記録より)

「このままの勢いで女性ゴルファーが増加した場合、おっつけ抜本的解決法というやつが必要になるだろう。21世紀の中ごろには、恐らくイギリス男性の過半数がアラスカでプレーに専念するかも知れない。なぜアラスカだって? 見ての通り木も少ないし、第一寒いから女性のフォーサムなんて皆無だと思うよ」(漫画家、ピーター・ジョナサン)

「結局、この偉大なるゲームをどう考えるか、その人物の知的尺度が問題になる。女性と一緒に歩くのがうれしい奴は、ゴルフなんて二の次なのさ。なんでもいいから身近に女さえいれば満足ってタイプ、よく見かけるね。反対に果敢な精神の持ち主は、過酷な自然と自分自身が相手、女なんかにかまってるヒマがない。こう考えていくと、軟派師がゴルフを破壊した張本人かも知れないね」(プロゴルファー、ラディ・ルーカス)

「森の奥から、幾度となく黄色い悲鳴が聞こえた、あれはレイプ事件に間違いないという通報があった。そこで急遽パトカーを派遣したところ、四人の女性ゴルファーが深いバンカーにてこずっているだけだった。本官の個人的意見だが、早急にルールを作って女性ゴルファーの悲鳴を禁止していただきたい。さもないと、本物のレイプ事件が発生してもパトカーは動かないだろう」(エアシャー分署の話)

「イギリスに来て、コースで女性を見るまで、この国の人口の半分が女性だってこと忘れていたよ」(プロゴルファー、レイ・フロイド)

「私どものコースでは、女性の入会になんら制限がございません。1822年の開設以来、確か5人ほど入会されたそうですが、どなたも一日プレーされただけで即日退会したとか。はい、今後も女性用のトイレを作る計画はございません」(マッセルバラのさるコースで)

「これらのコメントが、1980年以降に語られたものであることは、私が証明しよう。アメリカや日本では男女共存の時代を謳歌しているようだが、それはそれで国民性の問題。イギリスについても同じように考えていただきたい。ゴルフは男性主体のクラブ組織によって運営、発展したものであり、その伝統を守ることが、とりも直さずゴルフのゆるぎなき精神を守ることでもある。私たちのことを“石頭”と呼ぶ向きもあるようだが、一方、こちらにも女性に城を明け渡して平気な日米人を指して、“腰抜け”と呼ぶ向きがあるの、ご存知かね?」(エディンバラ・ゴルフ協会理事、R・シモンズ)

(もちろん、次は男性ゴルファーの番だ。 筆者)

(本文は、2000年5月15日刊『ナイス・ボギー』講談社文庫からの抜粋です)

『ナイス・ボギー』 (講談社文庫) Kindle版

夏坂健

1936年、横浜市生まれ。2000年1月19日逝去。共同通信記者、月刊ペン編集長を経て、作家活動に入る。食、ゴルフのエッセイ、ノンフィクション、翻訳に多くの名著を残した。毎年フランスで開催される「ゴルフ・サミット」に唯一アジアから招聘された。また、トップ・アマチュア・ゴルファーとしても活躍した。著書に、『ゴルファーを笑え!』『地球ゴルフ倶楽部』『ゴルフを以って人を観ん』『ゴルフの神様』『ゴルフの処方箋』『美食・大食家びっくり事典』など多数。

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