職人として、チームとして、コンクールに挑み続ける意味 「マンダリンナポレオン国際大会」など、数々の菓子コンクールでも入賞を果たしている佐々木さん。 物腰柔らかで気さくな人柄だが、話の端々に「職人のこだわり」が感じられる。…
画像ギャラリーチョコレートの本場・ベルギーで、活躍する日本人パティシエがいます。『ヤスシ ササキ ブリュッセル』の佐々木 靖シェフです。この度、イベントのために来日された佐々木さんに、お菓子作りへのこだわりを伺いました。2024年2月現在日本で唯一、同店のチョコレートを入手できるイベントについてもお知らせします。
チョコレートの本場で評価される佐々木 靖シェフ
2007年、ベルギーの首都・ブリュッセルで『Patissrie-Chocolatier Yasushi Sasaki Bruxelles』(以下、『ヤスシ ササキ』)を開いた佐々木 靖さん。
『ヤスシ ササキ』は、世界的美食ガイドである『Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)』2024年ベルクス(ベルギーとルクセンブルク)版で、ブリュッセルの年間最優秀ショコラティエに選出された。
これまでも『ゴ・エ・ミヨ』に掲載されてきたが、今回の受賞について佐々木さんは「本来はショコラティエの方が受賞されますが、自分のチョコレートは恐らく、パティシエとしての感性を取り入れた部分を評価されたのかなと思っています」と話す。
〜「Gault&Millau(ゴ・エ・ミヨ)」とは〜
フランスの本格レストランガイド2大勢力のひとつ。フランス人ジャーナリストであり、食の評論家でもあったアンリ・ゴとクリスチャン・ミヨによって1972年に誕生。現在はフランス版、ハンガリー版、オーストラリア版など15の地域版などがあり、日本は2016年よりアジア圏で唯一展開。2023年版は、初の全国版として47都道府県が網羅された。予約の電話から見送りまでを共通の定められた基準で評価しているが、基本は食べる喜びと感動を伝えることを使命とし、料理人からの信頼が厚いとされているガイドブックである。
ブリュッセルの名店での修業から独立まで
1991年に家族の仕事の関係でベルギーに移り住んだ佐々木さん。料理の道に進み、ベルギー国立専門料理学校C.E.R.I.Aで学ぶ。「ナマモノが触れなかったから」と製菓を選ぶが、ひとつのお菓子にひとつのレシピが存在する、お菓子作りの奥深さに魅了されたと言う。
卒業後はブリュッセルの名店『Mahieu(マユー・現在は閉店)』でおよそ11年間勤務した。
「当時の『マユー』は、ブリュッセルでいちばんの店でした。そこでお菓子のあり方を学びました。師匠から言われたのは、3歳から80歳の方まで幅広い世代の方に喜んで召し上がっていただけるお菓子を作ること。
みなさんが食べて楽しい気持ちになるようなお菓子を提供したいと日々考えています」(以下、佐々木さん)
『ヤスシ ササキ』ではチョコレートだけでなく、焼菓子やパンなども取り揃えている。毎日でも食べたいと思ってもらえるよう、個性や感性は8割程度に抑え、尖りすぎず、偏りすぎず、味のバランスを大切にしている。そのような普段遣いしたいお菓子にもかかわらず、例えば吹き付けて彩色したツヤがうっとりするほど美しいボンボンショコラなどからは、職人の繊細な仕事ぶりがうかがえる。
『ゴ・エ・ミヨ』は年間を通した日常が評価される。佐々木さんは「自分の味が認められて、すごく自信がつきました」と笑うが、この受賞はブリュッセルの人々に『ヤスシ ササキ』が愛されていることを裏付けている。
職人として、チームとして、コンクールに挑み続ける意味
「マンダリンナポレオン国際大会」など、数々の菓子コンクールでも入賞を果たしている佐々木さん。
物腰柔らかで気さくな人柄だが、話の端々に「職人のこだわり」が感じられる。
「僕が修業していた時は、パティシエがお菓子のカテゴリーの中でチョコレートや焼菓子、パン、その他のコンフィズリー(キャンディやボンボンなどの砂糖菓子の総称)などのすべてを作るという考えでした。そういう面で自分は、ショコラティエというよりもパティシエなのです」と話す。
『ヤスシ ササキ』では佐々木さんの持つノウハウを店のスタッフたちに伝え、さまざまなコンクールに臨んでいる。チームはベルギーの製菓コンクールで数々の優勝を果たし、ベルギー代表として世界的コンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」や「ワールド・チョコレート・マスター」などに出場している。
佐々木さん個人も、『ヤスシ ササキ』としても、幾度も輝かしい実績を残し、チームとして評価され店の評価にもつながっている。なぜコンクールに挑戦し続けるのだろうか。
「コンクールは、職人としての腕が試されます。コンクールで賞を獲るということは、他者に認めてもらうということです。認められるためにはどうしなければいけないか、その上で自分の個性をどんな風に出すかということをすべて考えて臨みます。
こうしたチャレンジを通じて、若手のスタッフが活躍できるようにしています。彼らにはお菓子を作る喜びに加え、職人としての喜びを理解してもらえるような職場でありたいと思っています」
では、“職人としての喜び”というのは、どういうものなのだろう。
「自分が作りたいものに到達すること、極めることです。
本来的には極めることと他者に認められることは別ものですが、職人のコンクールで勝って認めてもらえることにより、最終的に高みに到達することにつながっていると思います」
佐々木さんの元で研鑽を積み、日本に帰国し独立したパティシエもいる。例えば『ラ・パティスリー・ベルジュ』(千葉県鴨川市)の鈴木貴信さんや『シャンドワゾー』(埼玉県川口市)の村山太一さん。いずれも地元に愛されている人気店だ。
日本で1ヶ所だけ!今『ヤスシ ササキ』のチョコが買える場所
その『ヤスシ ササキ』のチョコレートは、日本橋三越本店で2024年1月31日(水)から2月14日(水)まで開催される「スイーツコレクション2024」で購入することができる。
「ベルギーチョコレートアワード」で優勝を勝ち取った「デグベール デュ カカオ」(4粒・4320円※店頭・ECサイト共に完売)は、「香りの魔術師」と称される佐々木さん渾身の作品。セットになっているボンボンとミニカボスに、およそ25種類の素材が使われる、パティシエの叡智が詰まった逸品だ。
「『デグベール デュ カカオ』は、コンクール用に開発されたものなので、素材それぞれの味わいが強調されています。複雑な素材を合わせていかに一体化させるかという数学的な考え方と、これまでのさまざまな経験と感性を駆使しました。それぞれを食べるのではなく、同時に口の中に入れることでお楽しみいただけます」
トップに感じるのはペルー産カカオ豆を使用したユズチョコレートのガナッシュ。ミカンのコンフィチュールやキャラメルなどの風味が広がったあとに山椒がほんのり香り、さらに岩塩が味を引き締めている。下に入ったカカオヌガティーヌチップスのサクサクとした食感も楽しい。
添えられたミニカボスにはカカオパルプが入り、程よい酸味がボンボンとの味の相乗効果をもたらしている。
口中で次々に訪れる味わいと深い香りが印象的で、長い余韻が楽しめる。
その他、ブリュッセル本店で提供しているボンボンショコラ4粒4種各2430円と8粒2種各4860円の詰め合わせ計7種を「スイーツコレクション2024」では限定ボックスとして展開する。
「ブリュッセルの方々に喜んでいただいているチョコレートです。今回はそのふたつのコンセプトが合わさった商品となっています」
素材の持ち味を存分に活かした佐々木さんのチョコレートたち。この機会にぜひ堪能いただきたい。
■「日本橋三越本店 スイーツコレクション2024」
創業350周年を迎えた三越の恒例イベント。2024年のテーマは「JOY」で東京初出店など57ブランドが揃う。鎌倉の人気店『鎌倉紅谷』のイートインなどが楽しめる「あんこ博覧会(R)」も同時開催。
[会場]日本橋三越本店 本館7階 催物会場
[会期]2024年1月31日(水)〜2月14日(水)
[時間]10時〜19時 ※最終日は〜18時
取材・撮影/市村幸妙
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