銭湯のようなお宿、サイクリストたちの交流拠点 『yubune』の一番の目玉は当然、大浴場。昔ながらの銭湯をモダンにアレンジしたようなデザインで、離れのような位置にサウナがあり、キンキンに冷えたレモン水を飲みながら外気浴、…
画像ギャラリーせっかく広島県まで来たら、瀬戸内海を渡り、ぜひ生口島(いくちじま)の尾道市瀬戸田町へ。尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約60kmの自動車専用道路「瀬戸内しまなみ海道」の中央にある生口島はレモン島として知られているが、最近、スタイリッシュな宿やカフェがあるスポットとしても注目されている。数年前に訪れたときには、洗練された建物が建設中で、この立地に?と、驚いたんだっけ。それが今どのように革新されたのか…見てみたい!そこで三原港(三原市)からフェリーに乗って約30分。瀬戸田の今を体験してきた。
世界的高級リゾートの創始者が手がけた宿がきっかけで注目
三原駅から瀬戸田港までのフェリーは、通勤通学で使う人も多く、自転車を乗せて行き来する学生さんの姿などにほのぼの。30分の船旅もちょいどいい。のどかだなあ~なんて港を降りるといきなりおしゃれな和モダンの建物が。こちらはレストランや宿、観光案内所や、ラウンジなどを備えた複合施設『ソイル 瀬戸田(SOIL Setoda)』。
江戸時代に建てられたものをリノベーションした蔵と新築などの3棟によって構成されていて、島の風景に馴染む和モダンなデザインなのだ。瀬戸田は古くからある「しおまち商店街」が有名なのだが、港から商店街への入り口のようになっている。まさに玄関口。これは期待が高まる。
瀬戸田が話題になったのは築140年の豪商・堀内邸を引き継ぎ、2021年春に開業した高級旅館『Azumi Setoda』の力もあるだろう。こちらは東南アジアを中心に世界で展開する高級リゾート『アマン』の創始者としても知られ、現在はベトナムでリゾートホテルを運営するエイドリアン・ゼッカ氏と共同で手掛けた宿で、瀬戸内の食材によるフレンチ料理も素晴らしく、多くのトラベルジャーナリストや美食家が絶賛。
いつかは泊まってみたい憧れの宿ではあるが、残念ながら予算オーバー。今回はそのお向かいの『yubune』に滞在。こちらは文字通り湯船を楽しむための宿泊施設。銭湯に寝室が併設されている、という言うべきか。客室はシンプルで機能的だが、国産のヒノキ材や畳など、気持ちがほぐれるような空間なのだ。
銭湯のようなお宿、サイクリストたちの交流拠点
『yubune』の一番の目玉は当然、大浴場。昔ながらの銭湯をモダンにアレンジしたようなデザインで、離れのような位置にサウナがあり、キンキンに冷えたレモン水を飲みながら外気浴、といったこともできる。これがまたクセになる。日替わりで浴室は交代になるので、翌朝はちょっとレイアウトが変わって気分転換できるのもうれしい。
この施設は文字通り、銭湯として宿泊者以外にも開放されていて、原付・自転車歩行者道が併設されている「瀬戸内しまなみ海道」をゆくサイクリストたちが休憩がてら入浴したり、島の人々が立ち寄ったり、交流の拠点となっている。深夜や早朝は宿泊者だけの時間帯。その静けさもなかなか良い。
宿は島のグルメを楽しんでほしいという思いから、施設内にレストランはない。2階の広々としたラウンジで、自由に食事ができる。コロッケなどのお惣菜など商店街で買い込んで、食べ比べるなんてことも可能なのだ。このラウンジはゆったりしているので、PC作業にも没頭できそう。連泊してワーケーションするのもおすすめだ。
商店街には東広島市西条をはじめ、広島の蔵から厳選した地酒が並ぶ酒屋やもぎたてのレモンを販売する直売所などもあるので、広島の特産品をじっくりと試せるだろう。ちなみに味付け焼きのりはつまみとして秀逸だった!
博物館でも知られる浄土真宗本願寺派の寺院「耕三寺」(こうさんじ)の向かいにある『梅月堂』と、5分ほど歩いた場所にある『向栄堂』で、お菓子を買って食べ比べる。これは楽しい。ここは和菓子も洋菓子もつくっている地元のお菓子屋さんなのだが、レモンケーキやドーナツも、レモン饅頭や色鮮やかな上生菓子も並び、それぞれが丁寧な手作りなのだ。
海風を感じながら街ぶら三昧
朝ご飯はソイルのリビング棟にある、『MINATOYA』へ。こちらは朝8時から営業している港の食堂をコンセプトにしているカフェレストラン。海に面しているため、きらきらとした海面をみながら朝ご飯が食べられる。
和食以外にもサンドイッチもあり、有名な『Overview Coffee』(オーバービューコーヒー)のコーヒーも朝から飲める。ちなみにソイルのショップではお惣菜やお弁当も販売。これもまた、美味!
ここで『Overview Coffee』に関しても触れておこう。コーヒーの栽培方法を見つめ直し、土壌の再生と気候変動の問題解決を目指したスペシャルティコーヒー。2020年にアメリカのポートランドで発足し、日本ではこの広島県瀬戸田を拠点に焙煎している。
たまたま千葉県一宮(いちのみや)町にオープンした店舗を取材したことがあったが、環境と生態系に配慮した農法を支援し、店舗でもゴミを出さない工夫をしている。そのコンセプトに共感して、瀬戸田のお店にもいつか行ってみたいと思っていた。
ソイルのリビング棟の向かいに位置するロースタリーカフェは江戸時代から残る蔵をいかした建物で、オフィスも兼ねている。
古くから続く空間と洗練されたデザインがまざりあっているのが心地よく、特別な時を過ごせるのだ。これぞしまなみの島時間。
奥の焙煎所からコーヒーのよい香りが漂うのに、私は目の前にあった果実酒に釘付け。結局、梅酒のお湯割りを選び、暮れゆく港を眺めていた。
どこか懐かしくて、新鮮な瀬戸田の旅。ゆったりとした時を刻みたいのならおすすめだ。
文/間庭典子