酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?近年、盛り上がりを見せている日本のクラフトビール界。ホップを効かせた味わいとは一線を画…
画像ギャラリー酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?近年、盛り上がりを見せている日本のクラフトビール界。ホップを効かせた味わいとは一線を画し、ベルジャンスタイルビールに力を入れるブルワリーに伺ってきた。
埼玉県『麦雑穀工房マイクロブルワリー』
【鈴木等氏】
1975年福島県生まれ。東京での会社員時代に義父が立ち上げた麦雑穀工房マイクロブルワリーと畑仕事の手伝いを開始。小川町に移住し、2008年より醸造責任者。妻の由実子氏と共にタップルームも運営している。
その日気になったビールを再確認
「お客さんの反応がすごくよかったとか、微妙な顔をしたとか、その日に気になったビールを酌む」と杜氏は言った。クラフトビールを醸造する麦雑穀工房マイクロブルワリーの醸造責任者・鈴木等さんだ。
有機農業の先進地域である埼玉県小川町にある同工房は、麦やライ麦をはじめとする原料を自家栽培し、多種多様なビールを造っている。畑仕事と醸造作業に加え、醸造所2階のブルーパブ(ブルワリー併設のパブ)を奥さんの由実子さんと切り盛りしている。
その営業が終わった19時、カウンターの中でビールを注ぎ、グラスを洗っていた鈴木さんは、客席側に回って晩酌を始める。
「お客さんからはこのパブの空間がどう見えているかを確認したくて、必ず客席で飲みます」
この日の一杯には、ベルギーで伝統的に農夫が冬から春に仕込むエールビール「セゾン」を選んだ。キリッとした苦味とフルーティでスパイシーな香りが食欲をかき立てる。
厨房で夕飯の支度をする由実子さんが、パブの料理の残りをおつまみに見繕ってくれるのが常だ。その晩、カウンターにはライ麦パンと根菜のピクルス、ナッツが並んだ。どれも手作り。
「パンの切れ端を齧りながら飲むのが好きですね。同じ穀物を使っているからか、ビールと相性抜群です。ナッツも欠かせません。うちのビールやクラフトコーラに使うスパイスを妻がブレンドしてまぶしています。ケイジャン風で、これがまたビールとよく合います」
鈴木さんにとってビールは1日の疲れを癒してくれる存在だが、仕事モードの沼に引きずり込む作用もある。
「あの配合で正解だったのか?醸造温度を変えてみようか?ビールを飲みながら無意識に反省ばかりが頭を駆け巡り、出口のない迷路で右往左往する感覚に。旨いビールを造るためには必要な時間ですね。落ち込むことも多いですが、すり寄る猫のごまくんを愛でながら、そんなふうに静かに飲む酒もいいもんですよ(笑)」
取材班を警戒したごまくんはついぞ姿を見せず。猫を撫でたかった鈴木さんの手は、いつもよりグラスをハイペースで傾けた。
『麦雑穀工房マイクロブルワリー』@埼玉県
2004年大学助教授を早期退職して畑仕事を始めた馬場勇氏が、収穫した麦を活用するために創業。自家栽培の小麦・ライ麦・キビ・アワを使用する「雑穀ヴァイツェン」、季節ものの「セゾン」など常時10種ほどのビールを展開
【セゾン】
【おがわポーター】
撮影/松村隆史、取材/渡辺高
※2024年4月号発売時点の情報です。
※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。