2024年7月26日(現地時間)にパリオリンピックの開会式が行われる。「スポーツを街のなかへ」をコンセプトに、史上最大規模を謳う開会式はどのようなものになるのか。回を重ねるごとにショーアップ化が加速するオリンピック開会式の歴史を振り返る。
画像ギャラリー2024年7月26日(現地時間)にパリオリンピックの開会式が行われる。「スポーツを街のなかへ」をコンセプトに、史上最大規模を謳う開会式はどのようなものになるのか。回を重ねるごとにショーアップ化が加速するオリンピック開会式の歴史を振り返る。
久しぶりの“時差がある”五輪
パリオリンピック(7月26日~8月11日)は、開幕に先立つ7月24日のサッカー予選を皮切りに、32競技329種目がパリ市内中心部のほか、地中海に面した都市マルセイユや海外領タヒチなどの競技会場で熱戦が繰り広げられる。
2018年の平昌冬季大会以来、東京夏季大会(2021年)、北京冬季大会(2022年)とアジアでの開催が続いており、時差が大きいオリンピック(北京は時差1時間、平昌は時差なし)はひさしぶりのこと。パリとの時差は7時間。競技は夕方から始まり翌朝未明にかけて実施されることになり、しばらくは寝不足の日々が続くことになりそうだ。
セーヌ川を各国の選手団が船で「水上行進」
各競技のメダルの行方はもちろんだが、今回、特に注目したいのが日本時間27日午前2時30分から始まる「史上最大規模」を謳う開会式だ。
伝統的にオリンピックの開会式はメインスタジアムで行われてきたが、「スポーツを街のなかへ」がコンセプトのひとつである今大会はパリの街が開会式の会場となる。
1万人超の各国の選手団が船に分乗し、市内中心部を流れるセーヌ川を東から西へ、ノートルダム大聖堂やエッフェル塔などの名所を通りながら約6kmにわたり「水上行進」。フランスの著名な演出家であるトマ・ジョリーが芸術監督として指揮を執り、川沿いの特設ステージや、川そのものを活用し、フランスの文化や歴史を、ダンスや音楽、アートを駆使して表現するという。
川の両岸や橋上には有料エリア10万4000人、無料エリア22万2000人の観客が陣取り、まさしく「史上最大規模」の開会式となる。
ロス五輪で度肝を抜いた「ロケットマン」五輪商業主義とともにショーアップ化が加速
回を重ねるごとに演出が華やかになり、ついにスタジアムを飛び出すことになったオリンピックの開会式だが、かつては開催国元首の前を各国選手団が整然と行進する「観閲式」スタイルで行われていた。選手宣誓、聖火の点灯、オリンピック旗の掲揚とオリンピック賛歌の演奏といった儀式的な内容のほかは、せいぜい平和の象徴であるハトの放出や飛行機雲で空に五輪を描く程度だった。
転機となったのが、1984年のロサンゼルス大会だ。『スター・ウォーズ』や『E.T.』といった映画音楽で有名なジョン・ウィリアムズを芸術監督に迎え、ハリウッドスタイルで開会式をショーアップ。なかでも背中にジェット噴射装置を付けた「ロケットマン」がスタジアムを遊泳する姿は大きな話題となった。この背景にはオリンピックの商業化があり、開会式をショーアップすることで視聴者の関心を集め、テレビ局がスポンサーを確保する戦略があったとされる。ロサンゼルス大会以後、オリンピックは商業化路線に舵を切り、開会式のショーアップ化も加速していくことになる。
坂本龍一さんが指揮したバルセロナ大会、火矢が聖火を点火
1992年のバルセロナ大会の開会式は夏季大会では初の夜間開催。アーチェリーの弓から放たれた火矢で、聖火を点火する演出が世界を驚かせた。音楽家の坂本龍一さんがオーケストラを指揮し、自らの曲を披露したことを覚えている人も多いだろう。
1996年のアトランタ大会では、聖火点火者としてボクシング金メダリストで、元ヘビー級チャンピオンのモハメド・アリが登場。パーキンソン病を患いながら震える手で聖火を灯すサプライズがあった。
2000年のシドニー大会はオーストラリアの歴史を描いたエンターテインメントショーが展開された後、先住民族アボリジニ出身の陸上選手、キャシー・フリーマンが最終聖火ランナーを務め、民族融和を世界にアピール。2008年の北京大会は革命歌を歌う少女の口パク騒動など過剰演出があったものの、ワイヤーアクションを用いた斬新な聖火の点火や、きらびやかな照明と花火のショーで中国の国力が誇示された。
エリザベス女王が007とスカイダイビング、「ヘイ・ジュード」の大合唱
2012年のロンドン大会では、エリザベス女王が、映画『007』の主人公、ジェームズ・ボンドとパラシュートでメインスタジアムに上空から現れるという、映像を組み合わせたサプライズ演出が話題をさらった。ラストに、ビートルズのポール・マッカートニーが出てきて、名曲「ヘイ・ジュード」の大合唱が沸き起こったことにも驚いた。
前回、東京大会のドローンを使ったスタジアム上空での大掛かりなショーや、ピクトグラム(視覚記号)を体で表現したパントマイムも記憶に新しい。
ざっと振り返るだけでも、それぞれの開会式に、開催都市、開催国の個性や大会に込めたメッセージが感じられて興味深い。皆さんが印象に残っているオリンピック開会式はどの大会の、どんな場面だろうか。
石川哲也(いしかわ・てつや)
1977年、神奈川県横須賀市出身。野球を中心にスポーツの歴史や記録に関する取材、執筆をライフワークとする「文化系」スポーツライター。
※トップ画像は、パリの街並み(Photo by Adobe Stock)