岡山には、シャコを食べて育つ「シャコうなぎ」がいる。天然では日本一との呼び声も高いうなぎだ。後楽園や岡山城からクルマで約30分、児島湾で獲れる天然うなぎを求めて、岡山へ行ってきました。
画像ギャラリー岡山には、シャコを食べて育つ「シャコうなぎ」がいる。天然では日本一との呼び声も高いうなぎだ。後楽園や岡山城からクルマで約30分、児島湾で獲れる天然うなぎを求めて、岡山へ行ってきました。
『うじょう亭』 @岡山
身からあふれる澄んだ甘みと濃い旨みに恍惚
岡山市内には、実はうなぎの専門店は数えるほどしかない。特にシャコうなぎを中心に扱っているのは、おそらくこの店だけだろう。
店主の川西さんが惚れ込んでいるのは、市内を3本流れる川の中でも特に吉井川河口の汽水域で育ったうなぎで、裂いてから表面のヌルみを丁寧にこそいで焼き上げる。
このひと手間から生まれた白焼きをいざほおばれば、皮目のパリッとしたクリスプな食感から、身にたたえた脂がプチュッと弾けて広がった。その甘みはどこまでも澄んでいて、旨みは余韻にずっと残るほど力強い。
うな重だって濃い口のタレをまとってもなお、身の風味が勝っている。
うな重 100g 4400円
この味を楽しめるのは、児島湾でうなぎが獲れる4月~10月のみ。天然物ゆえ、不漁などで仕入れがない場合もあるので、数日前に電話で確認してから訪れよう。
[住所]岡山県岡山市北区内山下1-8-18
[電話]086-234-1139
[営業時間]11時半~14時、17時~20時
[休日]日の夜、月
[交通]岡山電気軌道東山線県庁通り駅から徒歩2分
『寿し茶屋 とっとんめ』 @岡山
見事なテリとツヤ!噛む度にあふれる濃厚な旨み
品書きを見れば、アコウにガシラ、タモリといった、関東じゃ耳慣れない魚がずらりと並んでいた。店主の西田さんは現役の漁師で、自身が一本釣りする以外にも、仲間からいつも新鮮な地物が届けられる。
それを刺身で、焼きで、煮付けで、はたまた寿司でと楽しめるのだから、食いしん坊にとってたまらぬ店だ。
さて、お目当てのシャコうなぎは、同じ漁協に所属する大元さんが獲れた中から選りすぐりを運んでくれる。それを熟練の職人が裂き、網に乗せて直火焼き。
艶やかなテリをまとった身に挑めば、プリッとした弾力のある歯応えから、噛むほどに味がにじんでくる。
蒲焼き 100g 2200円
その濃厚な旨みを岡山の地酒で膨らませれば、まさに幸福の絶頂!しかも、ご覧のようにお値段も比較的手頃に出してくれるのもうれしいところだ。
[住所]岡山県岡山市南区若葉町20-27
[電話]086-264-2251
[営業時間]11時半~14時、17時~22時(21時半LO)
[休日]水(他に月2回不定休あり)
[交通]JR瀬戸大橋線備前西市駅から車で12分
『和膳 玄多(くろだ)』 @岡山
落ち着いた風情の割烹で味わう岡山の名食材
その土地の食材を味わうのも、旅の楽しみのひとつだ。店主の黒田さんは、京都の料亭で会席を学び、故郷であるここ岡山で20年ほど前に店を構えた。ちなみに独立前は南極料理人だっこともあるんだとか(!)。
そんな彼が作る料理はまさしく正統派の和食で、味の濃い寄島のタコにシャコ、この地域で親しまれるベイカやイシモチなど、岡山が育んだ素材の持ち味を、きれいに立たせている。
酒盃を傾けながら、旅の夜をゆったり過ごすのに、もってこいの1軒だ。
白焼 6600円~、うな重 8800円~
そして3月~11月の入荷がある時にだけ出すご馳走が天然のシャコうなぎ。東京出身の先輩から教わったという裂きは関東風の背開きで、串打ちした後、関西風の地焼きで仕上げる。火入れの妙で繊維の中に閉じ込めたエキスが舌の上に放たれて、頬が緩むのを止められない。
[住所]岡山県岡山市北区大学町4-31
[電話]086-224-8722
[営業時間]11時半~13時半、17時半~21時半
[休日]月・第1日
[交通]岡山電気軌道6清輝橋線清輝橋駅から徒歩5分
景観と希少な美味に大満足の旅
岡山にはシャコを食べて育つ「シャコうなぎ」ってヤツがいて、どうやら天然うなぎでは日本一と言われているらしい。それを知ったのは今から10年ほど前のこと。以来、死ぬまでに食べたいものの上位に挙がっていたが、今まで放置していたのは私が怠惰な性格だからでしょう。
とはいえ、ついに実現する時がやって来た。積もり積もった憧れを胸にいざ岡山へ!朝9時頃の新幹線に乗ったら、昼過ぎにはもう岡山。もっと遠い場所かと思っていたけど、道のりは案外近い。
その足で向かったのが『うじょう亭』だ。ちなみに“うじょう”とは真っ黒な天守閣を持つ岡山城の別名が“烏城(うじょう)”なんだとか。へえ~。お店はそんなお城のすぐ近く。
白焼きとうな重を注文すると、親父さんは生け簀から大きなカゴを引き上げて、わんさかいる中からサイズを確かめつつ最適な2匹を選んでくれた。つい数日前に電話した時には、「漁で獲れなければ出せないよ」とそっけなく言われてしまったけれど、生け簀の様子を見る限りシーズン中は高確率でありつけそう。
親父さんが手際よく裂いた身は真っ白。養殖物よりずっと白さが際立っている。出来上がった白焼きに挑めば、目を丸くするほど強い甘みと濃い旨みが広がった。これがシャコうなぎか!
ちなみに地元では“青江(地名)で獲れるうなぎ”から“青うなぎ”と呼ばれ、江戸時代から京都や大阪にも運ばれていたというから、今でいうブランドうなぎの走りだったんだろうな。
続いて、市内の中心地から児島湾大橋を渡って訪れたのは漁師の大元さん。色々と話を伺う中でも憂いていたのはやはりシャコうなぎの今後で、漁を始めた25年前には1日20kgほど水揚げがあったにも関わらず、現在は1ヶ月でそのくらいの量にしかならないそうだ。
理由はとある関係者によれば水質の変化によるものだそうだし、他にも海鵜が繁殖しすぎたせいと語る人も。
シャコうなぎを守り育てて行く活動も現在模索しているという。取材後に大元さんの奥さんがエサになる穴ジャコの素揚げを出してくれた。エビ味噌を何倍も濃厚にしたような味わいで人間にとってもご馳走。これを食べてるんだから、そりゃあ身の味、濃さだって増すはずだ。
そんな大元さんが出荷しているのが『とっとんめ』と『玄多』で、家族や仲間で気軽に楽しむならば前者がおすすめだし、後者はしっとり大人の夜が似合う店。2軒ともうなぎの他にも瀬戸内の海の幸をふんだんに扱っている。
とまあ、シャコうなぎについて、色々取材を重ねていたけれど、空き時間にはしっかり観光も楽しめるのが岡山のいいところ。
岡山城に隣接する「後楽園」は、水戸の「偕楽園」、金沢の「兼六園」と並ぶ日本三名園のひとつで、岡山藩2代目藩主・池田綱政が憩いの場として築いた大庭園。夏の鮮やかな緑に囲まれて、旅のひと時をのんびり過ごすにはうってつけだ。
さらに岡山駅から電車に15分ほど揺られれば、あっという間に倉敷。白壁の町並みと洋風建築が調和する美しい町並みが広がっていて、ぷらぷら歩いて、ショップや飲食店を巡るのも楽しい。
シャコうなぎと観光を堪能した旅はこれにて終了。憧れの味は、澄んだ甘みと力強い風味に満ちていて、想像をはるかに超えるものだった。この夏の旅行は岡山に決めて自分の舌で確かめてみては?
うまい餌と豊な海域が生み出す「“シャコうなぎ”をいっぺん食べて」
実は児島湾のシャコうなぎの漁師の数は少ない。シーズンを通してこの漁で生計を立てているのは5人ほどだという。そのひとりが大元智朗(54)さん。
妻の実家の家業を引き継ぐかたちで25年ほど前にこの道に入った。漁はまず、うなぎのエサとなる穴ジャコを獲るところから始まる。
寿司のネタになるそれとは違い、汽水域の砂地50cm~深ければ2m近くになる巣穴の中で生息する甲殻類だ。干潮時の干潟に行って、歯を特別に長く拵えたクワで掘り起こすのもかなりの重労働。
そうしてエサが確保できれば、ここからが本番だ。漁法は1本のロープにつながれた針を落としていく延縄漁。夜行性のうなぎが活発になる17時頃に船を出し、手早くエサを付けながら200~300もの仕掛けを次々と投入していく。
そして2~3時間後、うなぎがエサに食いついた頃合いを見計らって回収。その日の獲れ高やサイズによって、『とっとんめ』や『玄多』などの市内の飲食店に卸すほかにも、東は活きたまま届けることができる愛知まで発送している。
撮影/西崎進也、取材/菜々山いく子
※2024年8月号発売時点の情報です。
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