軽井沢のクラシックホテルとして名高い『万平ホテル』が2024年10月2日に創業から130 周年を迎え、リニューアルオープンした。実はこのホテル、ミュージシャンのジョン・レノン(1940~80年)が亡くなる前の4年間、パートナーのオノ・ヨーコと毎年通っていた宿だという。1世紀以上の歴史を重ねた木造建築の骨組みや梁(はり)、ステンドグラスなどの部材は残しつつ、美しく生まれ変わったホテルの全貌をお届けしていきたい。
画像ギャラリー軽井沢のクラシックホテルとして名高い『万平ホテル』が2024年10月2日に創業から130 周年を迎え、リニューアルオープンした。実はこのホテル、ミュージシャンのジョン・レノン(1940~80年)が亡くなる前の4年間、パートナーのオノ・ヨーコと毎年通っていた宿だという。1世紀以上の歴史を重ねた木造建築の骨組みや梁(はり)、ステンドグラスなどの部材は残しつつ、美しく生まれ変わったホテルの全貌をお届けしていきたい。
リニューアル後も130年の歴史が紡いできた趣を色濃く残す館内
『万平ホテル』は1894(明治27)年、旅籠『亀屋』としてスタートを切った。1886年にカナダ人のキリスト教宣教師、アレキサンダー・クロフト・ショーが偶然この地を訪れ、創業者の佐藤万平が「異国の地でも海外の方に故郷で過ごすようにくつろいでもらいたい」という想いを抱いたことから1936(昭和11)年に軽井沢初の西洋式ホテルへと生まれ変わった。
ハーフ・ティンバー風(梁や柱などが外部に露出し、中間の壁面をレンガや漆喰等で埋めて作られたヨーロッパの建築様式を模した建築)の意匠が特徴的な外観は、日光金谷ホテルなども手掛けた建築家の久米権九郎(くめ・ごんくろう)によるものだ。「アルプス館」は2018年に国の登録有形文化財にも登録されている。創業当時の看板は今もなお、色あせることなく「アルプス館」の玄関に設置されている。
入口に一歩足を踏み入れると、かつて社交場としての役割も果たしていた趣のあるロビーが出迎えてくれる。真っ赤な絨毯はリニューアル後一新されているが、以前の絨毯からそのままの赤色を抽出し、当時の色みを再現して作られたものだそうだ。日本の伝統的なモチーフである草花や桜の木などの彫刻を施した軽井沢彫が施された家具や、クラシカルな調度品が見る者を楽しませてくれる。
昔のままの姿で受け継がれた階段の上のステンドグラスにも注目。ここには鮮やかな亀が描かれているが、これは旧旅籠「亀屋」の名残りを伝えるものだそうだ。
ジョン・レノン直伝!「ロイヤルミルクティー」と一番人気の「アップルパイ」
ここを訪れたらぜひ立ち寄ってほしいのが、ジョン・レノンが愛したメニューが楽しめるという、噂のカフェテラスだ。オノ・ヨーコの別荘が近隣にあったことからこの場所が気に入ったというジョン。彼がよく座っていたという伝説の席には、今もなお並んでまで席を指定して訪れるゲストが後を絶たないそうだ。中には当時のジョンを意識したファッションで現れ、写真を撮影する熱狂的なファンも・・・!
緑に囲まれたテラス席はもちろん、リニューアル後は明るい色味のインテリアにチェンジした店内席も自然を感じることができるので、おすすめだ。宿泊客でなくても午前9時30分から気軽に立ち寄れるので、旅行中にほっと一息つきたい時にもいいだろう。
名物の「伝統のアップルパイ」(1500円)と「ロイヤルミルクティー」(1300円)は、必ずおさえておきたいメニューだ。この組み合わせは、ジョンが好んでリピートしていたものだそう。
信州産リンゴを使用したクラシックなアップルパイは、ほんのりスパイシーなシナモンの風味と、しっとりとしたリンゴの食感、サクサクのパイ生地のコントラストが楽しめる一品。ジョンがレシピを教えてくれたという「ロイヤルミルクティー」は、豊かな風味の紅茶とミルクのやさしい味わいがクセになる。
どこか懐かしいようで新鮮な「和洋折衷」の客室に魅了される
『万平ホテル』はクラシカルな「アルプス館」、クラシカルモダンな「愛宕館」、エレガントな「碓氷館」、バンケット棟の4棟で構成されているが、リニューアルを終えた客室の中でも特におすすめは「和洋折衷」をコンセプトに掲げる「アルプス館」である。
オリエンタルなテイストのペンダント照明や、オリジナルの「万平格子」が美しいガラス障子、伝統を感じる軽井沢彫家具などが並んだ客室に、真っ赤なソファがよく映える。
バスルームは、エレガントな大理石風の壁と広々としたシャワーブースが魅力的だ。バスタブはヨーロッパのホテルを彷彿とさせる猫足を採用している。
軽井沢を目で舌で感じられるメインダイニング
お腹が空いたら、重厚感ある1階の「メインダイニングルーム」へ。格子状に仕上げた個性的な折上げ格天井や、象徴的なステンドグラスが特別な雰囲気を演出している。ステンドグラスに描かれているのは、軽井沢で余暇を楽しむ人々の日常だ。山の麓に停まるクラシックカーやゴルフバッグ、テニスラケットを手に佇む人の姿に軽井沢の歴史を垣間見ることができる。
開業当初からのレシピを再構築した同店では、130年間脈々と受け継がれてきた伝統の味を踏襲したスープやソースを使いつつも、軽井沢らしさを感じる食材、ハーブの香りや鮮やかな彩りをプラスすることで、オーセンティック(伝統に忠実)でありながら軽やかな味わいの料理を提供している。食事をさり気なく彩る、ホテルのシンボル・すずらんが描かれたテーブルウェアも必見だ。
昭和レトロに浸る、非日常空間でここでしか味わえない一杯を
“非日常のくつろぎ”をコンセプトに18時から開放している「バー」は、まるで昭和にタイムスリップしたかのような、独特の高揚感が感じられる空間が心地いい。店内の照明はシャンデリアからモダンなデザインの照明へ一新したそうだ。
1800円から楽しめるカクテルの中でもいちおしは、オリジナルの「軽井沢の夕焼け」だ。ジンベースに杏やレモンを使用し、懐かしい味わいに仕上げた一杯は、ここでしか味わえない。赤い絨毯やベルベット調のカーテンに包まれたクラシカルな空間で、バーテンダーが手がけるこだわりの一杯を堪能しよう。
「創業当時より大切に受け継がれてきた『ホテルは人なり』という理念を第一に継承しつつ、次の100年後にも愛され続けるために、新鮮かつあたたかみのあるホテルを、皆さまとともに作り上げていきたいと思っております」と、ホテル総支配人の佐々木一郎さん。
軽井沢の歴史を100年、200年先へと繋いでいけるよう、新しい風を取りこみ、新たに歩み始めた『万平ホテル』。この秋は都会の喧騒を離れ、本物の風格を感じるクラシックホテルに足を運んでみては。
■『万平ホテル』
[住所]長野県軽井沢町軽井沢925
[電話]0267-42-1234
[交通]JR北陸新幹線「軽井沢駅」からタクシー約5分
[料金・宿泊プラン]「グランドオープン記念 クラシックプラン」1名6万8000円~(2名1室利用時)
文・写真/中村友美
フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験後、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを開始し、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。趣味は日本全国の商店建築巡り。