平成17年11月15日、上皇陛下(当時は天皇陛下)と美智子さまの愛娘、紀宮清子内親王と黒田慶樹さんの結婚披露宴が開かれた。おふたりの希望で媒酌人は立てず、招かれたのもごく親しい人々のみ。料理はフランス料理のフルコースをかなりスリムにした軽いメニュー。ごくシンプルで、しかし心からご結婚を喜ぶ人々が集う披露宴であった。 このご結婚には、天皇家として初めてのことがあった。内親王の結婚披露宴に天皇皇后両陛下が出席されたのである。父母が見守るあたたかな雰囲気の披露宴で、最後に出された料理が秋色の「マロンのクリームブリュレ」であった。今回は、心にやさしいデザートの物語である。
画像ギャラリー平成17年11月15日、上皇陛下(当時は天皇陛下)と美智子さまの愛娘、紀宮清子内親王と黒田慶樹さんの結婚披露宴が開かれた。おふたりの希望で媒酌人は立てず、招かれたのもごく親しい人々のみ。料理はフランス料理のフルコースをかなりスリムにした軽いメニュー。ごくシンプルで、しかし心からご結婚を喜ぶ人々が集う披露宴であった。このご結婚には、天皇家として初めてのことがあった。内親王の結婚披露宴に天皇皇后両陛下が出席されたのである。父母が見守るあたたかな雰囲気の披露宴で、最後に出された料理が秋色の「マロンのクリームブリュレ」であった。今回は、心にやさしいデザートの物語である。
「一緒にいて安心できる」落ち着いた大人同士のご結婚
紀宮さまの結婚相手は、東京都職員の黒田慶樹(よしき)さん。秋篠宮殿下と学習院初等科から大学まで学生生活をともにした親友で、紀宮さまとは幼なじみであった。新郎の黒田さんは40歳、紀宮さまは36歳。ともに落ち着いた大人のおふたりであった。
おふたり揃ってのご婚約内定の記者会見で、黒田さんは結婚に至る経緯を語った。秋篠宮邸でお茶をしている時、紀宮さまに、
「私と結婚してくださいませんか」
とプロポーズし、その場でお受けいただいたのだという。
黒田さんの魅力について記者から聞かれた紀宮さまは、こう語られた。
「ご自分の考えをしっかりとお持ちになりながら、ゆったりと他人を許容することができる広さを持っておられるところや、物事に誠実でいらっしゃるというところでしょうか。趣味ですとか興味を持つ事柄についてもおたがいに異なっていて、あまり共通点というのはないのですけれども、何を大事に思うかということについて、共感することが多くあるということも、ご一緒にいて安心できると思うことのひとつかもしれません」
ご学友の演奏に包まれる手づくりの披露宴
結婚式の朝、美智子さまは紀宮さまを抱き寄せ、
「大丈夫よ」
と、繰り返し言われたという。降嫁して一般の生活に入る紀宮さまの不安なお気持ちを、少しでも和らげてさしあげたかったのかもしれない。陛下も「家族の絆は変わらないのだから、おりおり遊びにいらっしゃい」とお声をかけられた。
午前11時、帝国ホテル「蘭の間」で、伊勢の神宮の北白川道久大宮司が斎主となり、神前結婚式が厳かに行われた。新郎の黒田慶樹さんはモーニングの礼装、新婦は純白のシルクのロングドレスに、真珠のネックレスをつけた清楚で気品のある装いである。そうして紀宮さまは嫁がれ、黒田清子さんとなった。
挙式のあとには休憩を挟み、「孔雀の間」で披露宴が開かれた。披露宴には、陛下と美智子さまもご出席される。しかし、この休憩の合間に、陛下と美智子さまは皇居に戻られ、総理大臣、衆参両院議長、最高裁長官などから拝賀をお受けになるのだ。そのため、結婚式は皇居に近い場所であることが必須条件だった。
午後4時、「孔雀の間」に黒田さんと清子さんが入場された。おふたりの希望で、媒酌人は立てず、指輪の交換やウェディングケーキの入刀といったパフォーマンスもない。ご学友の弦楽四重奏がバックミュージックを奏でている。ほんとうに必要なことのみに絞られた、手づくりの披露宴であった。
長方形のメインテーブルには、天皇陛下と美智子さま、皇太子浩宮さまと雅子さま、秋篠宮さまと紀子さまが座られた。客席には15台の丸テーブルが置かれ、左側には主賓の石原慎太郎都知事と黒田家の親族。清子さんの側には、学習院のご学友や勤務先である山階鳥類研究所の人たち、宮内庁の女性職員や皇宮護衛官などが招かれていた。小さな頃から清子さんのお世話をしたり、お傍近くで過ごされている、このご結婚を心から喜び幸せをともに分かち合える人々であった。
旬を大切にした、心にやさしいマロンのデザート
披露宴のメニューは、フランス料理をかなりスリムにしたもの。華美を望まず、心が満たされる料理をお客さまにお出ししたいと願う清子さんらしい選択だった。
【献立】
オマール海老とキャビアのジュレ
カリフラワーのクリーム添え
生ハムで包んだ子羊のロースト
キャラメルバニラの氷菓とマロンのクリームブリュレ
デザートは、旬のマロンを使ったクリームブリュレ。クリームブリュレは「焦がしたクリーム」を意味するフランス語で、蒸し焼きにしたカスタードソースの表面に砂糖をかけて火で焦がしたもの。柔らかく濃厚なクリームに、表面の砂糖が溶けて焦げたパリパリした食感と、香ばしくほろ苦い甘さが心に残るお菓子である。マロンを加えることで、秋の味を楽しむこともできる。旬を大事にされる陛下と美智子さまのお心を、清子さまは受け継がれているのだろう。
陛下は身を乗り出すようにして、愛娘の晴れ姿を見つめられた
食事の途中で、清子さんはお色直しのために退出された。お色直しには、美智子さまの着物を仕立て直した訪問着をお召しになった。「お母さまのお下がりを」と、清子さんが希望されたという。
そのお着物は、美智子さまが皇后となられて初めて外国を訪問された際にお召しになった御所解貝桶紋様(ごしょどきかいおけもんよう)に、小さな松竹梅が一面に染め上げられている訪問着である。さらに美智子さまが即位の礼の翌日に園遊会でご着用になった、白地に金色の「七宝つなぎ」の帯をふくら雀に結ばれた美しい装いであった。
お色直しがすみ、新郎新婦が再び会場に姿を現すと、大きな拍手で迎えられた。陛下が身を乗り出すようにして、愛娘の姿を見つめられている。胸がいっぱい、という表情で拍手を送る美智子さま。ご学友が演奏するハイドンの「ひばり」が流れる中、黒田さんと清子さんは、友人知人のテーブルを回り、一人ひとりと言葉を交わされた。
美智子さまと清子さんは、この日のために、そしてこの日から始まる新しい生活のために、これまでさまざまな家事や心得を伝え学んできたのだ。そして、笑顔で送り出す……。まことに幸せな1日であった。(連載「天皇家の食卓」第25回)
参考文献/『皇后美智子さま 傘寿記念写真集』(朝日新聞出版編、朝日新聞出版)、『写真集 美智子さまのお着物』(文 木村孝、渡辺みどり、朝日新聞出版編、朝日新聞出版)、『天皇家の姫君たち 明治から平成・女性皇族の素顔』(渡辺みどり著、文春文庫)、『美智子さま「こころの旅路」』(渡辺みどり著、大和書房)、宮内庁ホームページ
※トップ画像は、御結婚記者会見に臨まれた紀宮清子内親王と黒田慶樹さん(C)JMPA
文・写真/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。