糀谷「蕎肆 浅野屋」 ひとつの作品を愛でて楽しむような感覚。淡い白衣は見るからに繊細だ。箸を入れると儚げに崩れ、ザクザク現れるエビと小柱の宝に笑みがこぼれる。まずはそのまま抹茶塩で。これが酒の肴に最高で……先に完食しない…
画像ギャラリー寒い時期の今こそ魅力満開、味わいたいのが温蕎麦の世界です。中でも王道の天ぷら蕎麦と鴨南蛮に注目。名店の隠れた逸品あり、専門店あり。蕎麦・ツユ・タネ物が織りなす美味でほっこり温かい年末年始を!
明治神宮前「手打蕎麦 松永」
理想の天ぷら蕎麦を絵に描けと言われたら、きっとこの店のそれを写生する。スッと気品あるエビが2尾、仲良く寄り添う夫婦のようだ。サクリと揚げたての旨さは言わば新婚時代か。衣にツユが染みればそれまた熟年期の如き深い味わいとなる。
なめらかな舌触りの蕎麦は店主が好みの二八で、一番ダシを使うかけ汁はどこまでも香り高い。実は節類も醤油も至って普通の素材で仕込むのだとか。皆が使う材料でいかに美味しく作るか、それが信条。しかも独学。努力は容易に想像できるが、ひけらかさないのもかっこいい。味にも姿勢にも、惚れる店です。
糀谷「蕎肆 浅野屋」
ひとつの作品を愛でて楽しむような感覚。淡い白衣は見るからに繊細だ。箸を入れると儚げに崩れ、ザクザク現れるエビと小柱の宝に笑みがこぼれる。まずはそのまま抹茶塩で。これが酒の肴に最高で……先に完食しないようご用心。
次にサバ節香るツユに浸して。衣の旨みが一面に広がり、得も言われぬ奥深さとなる。しなやかなコシの蕎麦は2代目が家業を継いだ20年前に手打ちに変えたという。落語に登場するようなツルツルとしたのど越しをイメージして打つ。冬の定番なら国産鴨や牡蠣の蕎麦も。味わいたい“作品”はまだまだある。
大森海岸「大井布恒更科」
器を席巻する牡蠣の天ぷら。好きな人なら写真を前に地団駄を踏んでるんじゃないだろうか。ご存じ江戸蕎麦御三家のひとつ、更科系譜の名店。 変わり蕎麦が定番だが、冬の牡蠣蕎麦も大人気。使うのはぷっくり豊満な宮城産だ。はち切れんばかりの身を噛めば、秘めたエキスが口の中で破裂する。これがキレのあるツユに合うのなんの。
実は冷たい蕎麦の「辛汁」は寝かせてカドを取りまろみを出すが、サバ節を利かせた温の「甘汁」は寝かせず醤油の味を立たせるとか。「常陸秋そば」で打つ外二のバランスも絶妙。いやもう食べればわかる、行ってください。
外苑前「KAWAKAMIーAN TOKYO」
朗報です。軽井沢発の人気店「川上庵」の新店が1年ほど前にひっそりと誕生していた!100席以上あるその広さは開放感もたっぷり。製麺室も設けたモダンな空間で絶品の蕎麦が楽しめる。
天ぷら蕎麦は有頭エビのピンと立った姿が麗しく、誰もが歓声を上げる逸品だ。あえて切らないヒゲまでアート。プリッと弾む身を粗挽き感あふれる二八の蕎麦と味わえば、互いの甘みと香りが穏やかに共鳴し合う。
この店だけの味なら、400度以上になる石窯で焼いたナスのぶっかけ蕎麦もおすすめ。みずみずしく風味豊かな旨さが静かにしっかりと伝わってくる。
…つづく「東京老舗の「絶品そば」ベスト3店…のどごし最強クラスの絶品を《浅草・目白・小川町》で見つけた」では、あまたひしめくそば屋の中から、選りすぐりのお店を紹介します。
『おとなの週末』2022年1月号より(※本内容は発売時のものです)