広尾「蕎麦 たじま」 今年で15年になるというお店は、落ち着いた照明に品のある佇まい。接客も隔てのない気持ちよさで、何を頼んでもさすがの安定感に癒される。ご主人の田島さんが自らの蕎麦に求めるものは「しなやかさ、なめらかさ…
画像ギャラリー香り高く、みずみずしい味わいが魅力のせいろ。産地のテロワールを存分に味わうならせいろに限る、という蕎麦好きもいらっしゃるだろう。ここでは風味よく心地いい蕎麦を提供する実力店を紹介します。
成増「手打ち蕎麦 眞壁」
うっすらと水気をまとって淡緑に艶めく姿は目にもご馳走。そしてひと箸手繰れば、軽やかなすすり心地から弾けるような香りが鼻先を駆け抜けていった。使用するのは無農薬で蕎麦作りを続ける「赤城深山ファーム」の丸抜きで、その色合いも風味も収穫したての鮮度を維持するため、保存にも心を砕く。ツユも素材に妥協せず、ダシを引く直前に削った本枯節と天然の利尻昆布の分厚い旨みで、この蕎麦が持つ甘みを鮮やかに際立たせているのだ。冷蕎麦はせいろのみ、という潔い品書きからも、この一枚に込めた店主の気迫が伝わってくるだろう。
銀座「sasuga 琳」
蕎麦は江戸時代に花開いたもの。その流れを汲むような「老舗の空気感が好き」という店主の新井さん。銀座という地にありながら、お店にはどこか素朴で落ち着いた佇まいがある。訪れた日の蕎麦は栃木・ 益子産と埼玉・ 三芳産。石臼自家製粉で十割の蕎麦は「持ち味が最大限出るように」、状態を見て挽き方を変えたり、ブレンドをしているそう。出された蕎麦は実にみずみずしく、そのまま口に含んでも馥郁たる旨さ。が、ダシはカツオ節一本というキリッとしつつ濃過ぎないツユもいい。ダシが旨過ぎては素材が生きぬという設計。そこにも江戸前の矜恃あり。
広尾「蕎麦 たじま」
今年で15年になるというお店は、落ち着いた照明に品のある佇まい。接客も隔てのない気持ちよさで、何を頼んでもさすがの安定感に癒される。ご主人の田島さんが自らの蕎麦に求めるものは「しなやかさ、なめらかさ」であり、「口に入れたときにふわりとくる香り」。その言葉通り、きれいな細切りの蕎麦は心地よくコシがあり、口中にみずみずしい。味にブレがないように蕎麦は5種類ほどをブレンドしているという。そしてここにややスモーキーでコクやグラデーションを感じさせるツユがピタリ。ズズッと手繰れば、毎日でも食べ飽きないと思える味だ。
分倍河原「よし木」
分倍河原で長く評判の店、『よし木』。先代のご主人が引退し、今年7月から縁あって引き継いだのが現店主・亀田雄一郎さんだ。「自分などはまだまだ」と言葉は少ないが、供された二色せいろは端正な面持ちで自然と期待値が上がる。片や手挽き十割の生粉打ち。ホシの散る玄挽きの蕎麦は、もちりとして噛めば風味が力強い。片やせいろ。日によって外イチから二八と「試行錯誤中」というが、本日は二八。こちらは艶やかで清新。わさびをのっけて少し甘めのツユで手繰れば蕎麦の香が心地いい。研究熱心な亀田さんの打つ蕎麦の今後にも期待大だ。
後楽園「舞扇」
蕎麦は手刈り天日干しの金砂郷産「常陸秋そば」。店主の橋本さんは、常陸太田市の名店『慈久庵』とも知己があり、同じ常陸秋そばでも畑にまでこだわって厳選したものを入手。その素材を生かすべく、丸抜きを超低回転で挽いたものと玄蕎麦の粗挽きを調合し、九一で打つ。供されたせいろは、ごく細切りの中にホシを浮かべながらコシはしっかり。艶やかな透明感を感じながら手繰ると、心地よく風味が返ってくる。枯らしの年数まで指定した本枯節を使うというツユは、スキッとキレよく旨みが伸びる。素敵な日本酒も揃い、“一杯の後に”がまた至福!
…つづく「東京老舗の「絶品そば」ベスト3店…のどごし最強クラスの絶品を《浅草・目白・小川町》で見つけた」では、あまたひしめくそば屋の中から、選りすぐりのお店を紹介します。
『おとなの週末』2022年1月号より(※本内容は発売時のものです)