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「悪魔の食べ物⁉」トマトの歴史

――トマトの原産地と言えば、中南米のアンデス高地ですよね。いま私の頭の中で『コンドルは飛んでいく』が流れています。

岡田さん「そうですね。16世紀頃、コロンブスによりヨーロッパに渡ったトマトですが、当初はその真っ赤さがかえって恐ろしかったようで“悪魔の食べ物”で毒があると信じられていて観賞用だったそうです。その後、飢饉により庶民が食べるようになって広がっていったなど諸説あります。ピザも元々庶民の食べ物で、貴族は食べなかったらしいです」

――赤い色は「リコピン」によるもので、現在はその強い抗酸化作用などがガンや動脈硬化などを予防する効果が高いとされていますよね。

トマトが観賞用だったのは日本も同じ。今から330年ほど前の江戸時代に入ってきました。その後明治時代に食用としてヨーロッパ産のものが入るも、酸味と香りが強くて定着せず。昭和初期に酸味と香りが穏やかなアメリカ産の品種がきたことで定着したようです。

料理人から熱い視線が注がれる『ボンズファーム』の大貫伸弘さん(右)と『PAZZO-DI-PIZZA GYODA』の岡田英明さん
※撮影のため、特別にマスクを外しています

私たちの食卓に欠かせないトマトは、生でも加熱しても美味しい万能選手です。ちなみに、2019年のデータではありますが、世界でいちばんトマトの生産量が多いのは中国なんだそう。ヨーロッパのイメージだったので、この結果にはビックリしました。

なお、日本国内の生産量は熊本、北海道、愛知の順。熊本はトマトの名産地として誉れ高いですし、愛知もいろいろと美味しいトマトが穫れる印象です。しかし、ジャガイモや玉ネギ、トウモロコシやアスパラなどのイメージが強い北海道が2位に入っているのは少々意外でした。

露地栽培農家から見たトマトの印象とは

――前編でトマトは水を吸いすぎると中から割れてしまうというお話がありました。

大貫さん「基本的に露地栽培なのでトマト作りは苦手。紆余曲折しながら栽培しているというのが正直なところです。
この品種なら作りやすくて毎年コンスタントに穫れるというものを探しながら、新しい品種作りにもチャレンジしています。去年『オレンジ千果』をやってよかったので今年の柱にして、『千果』と『フルティカ』を初めて作りました」

――そんな苦労があるんですね。

大貫さん「トマトって、すごく素直な生き物なんです。水も肥料も与えられただけ吸います。ただし生育のバランスを崩すのであげすぎはよくありません。基本的にはビニールハウスで雨をカットして、土の中の水や肥料の量をコントロールするのが理想でしょう。
ですから僕のように露地栽培の場合、雨も降るし、朝露もあるし、虫もくるからコントロールしにくくて難しいんです」

ミニトマトは鈴なりになる。写真はBonz farmの「千果」

――「水を最小限しかあげずに味を濃縮しました」と謳い文句になっているトマトがありますよね。

大貫さん「はい。水をカットすると甘みが出るのはひとつあると思います。ただそれだけではなく、本当に様々な農法があります。トマト農家さんはもっと事細かにやっていると思うので、栽培についての工夫を話されたら半日どころじゃすまないのでは。
そのなかでもミニトマトは、水があっても割と大丈夫だったり、樹が丈夫で病気に強かったりということが多いので露地でも作りやすいんです。なので、家庭菜園向けでもあります

――そう。Bonzさんのミニトマトの種で、自分でも育ててみたいなと思ったのですが、夏場に収穫するためには2〜3ヶ月ほど前には植えなくちゃならないので断念してしまいました。でも、家庭菜園でフレッシュなトマトをいただけるならそれはうれしいですね。

光るひと玉が見つかるはず! 美トマトを探せ

――トマトをスーパーや八百屋さんなどで買うときの、美味しいトマトの選び方を教えていただけますか? よく言われるのは、お尻の星がキレイに出ているもの、ヘタの元気さを見ると言われますが。

大貫さん「色・ツヤ・形がキレイなものを選ぶといいと思います。お尻の星というのは、きちんと成長していればキレイに出ます。形がいいものは生育がうまくいっている証拠です」

――それは栄養がまんべんなく行き届いているということですか?

大貫さん「そういうことです。時間をかけてきれいに丸まっていくほうが、きちんとコントロールされている証拠です。
様々な要因はありますが、形がいびつなものは成長過程にムラがあると考えていいでしょう。葉っぱに虫がついてしまった、うまく光合成できないなど、なんらかのストレスがかかったということなので、味のバランスがよくないということはあると思います」

――なるほど。美味しいトマトはピカピカと輝いて見えるので、“美トマト”を選ぶというのは間違っていないんですね。何個か入っているものを買う時、あえて色味がバラバラのものを選んで赤いものから食べるようにしていますが、追熟をかけるとこんなに赤くなるんだと驚きます。

大貫さん「スーパーに卸す農家は、6〜7割程度の熟し加減で収穫すると思います。追熟して、店頭に並んだ時に真っ赤になるというのが定石です。
すぐに食べるならしっかりと赤くなっていて、ツヤがあるものを選ぶといいでしょう。冷蔵庫に入れると追熟がゆっくりになりますし、早く熟れさせたいなら常温で置いておくといいです。
熟しているものがいいのか、ちょっと青さが残っているほうがいいのか、それぞれの使いみちで考えればよいのではないのでしょうか」

トマトはどう保存したらいい?

――もちろん早めに食べるのがいちばんだと思いますが、保存方法についても教えてください。
前回、岡田さんがドライトマトにするというお話はとてもいいなと感じました。

大貫さん「岡田さんはフレッシュトマトをどう保存していますか?」

岡田さん「冷蔵庫です。いまこの暇な状況でも週に大玉トマトは30個くらい、ミニトマトで小パック10個以上は使いますね」

大貫さん「保存というより、どんどん回転していく」

岡田さん「そうですね。品種には特にこだわらず、しっかり熟している美味しそうなものをその都度買うようにしています」

――プロの選び方もそうなんですね。

大貫さん「基本は冷蔵庫に入れて早めに食べる、です。トマトが入っていた袋に入れたままとか、新聞紙に包んだら1週間くらいはもつのかな。トマトが安かったからいっぱい買ったとか、親戚からたくさんいただいたとか、食べ切れなさそうなら早めにビニール袋に入れて冷凍庫で凍らせてもいいと思います」

――凍らせたトマトはどのように食べればいいですか?

大貫さん「凍ったままのトマトを水道水で洗うと皮がツルッと剥けるので、そのまま軽く解凍して、フライパンで崩しながらソースにしたり、カレーのルゥを入れればトマトカレーになります。冷凍しておけば冬場までもつので、我が家では5〜6個入れてトマト鍋にします」

――それはどちらも美味しそう。お味噌汁に入れてもいいですね。

なおトマトには、ビタミンCやA、Bのほか、カリウムやルチン、鉄など様々な栄養素が含まれています。夏の強い日差しをたくさん受けて育ったトマトほど、ビタミンC含有量が高いそう。

年間を通して美味しいトマトを上手に摂り入れて、豊かに暮らしていきたいですね。

■Bonz farm(ボンズファーム)
米作りが盛んな羽生市で数少ない野菜農家。飲食にまつわる仕事に従事したのち、味がしっかりしていて、かつ日持ちすると料理人から絶賛を受ける茨城県の「久松農園」で修業し、2015年に独立。露地栽培・無農薬で少量多品目(約100種類・約50品目)の野菜を作り、受注収穫で飲食店を中心に卸している。いずれは野菜がメインの飲食店を開くのが大貫さんの夢。※農場での直販は行っていません
https://ja-jp.facebook.com/pages/category/Agricultural-Cooperative/Bonz-farm-909476659074224/
■PAZZO-DI-PIZZA GYODA(パッツォ・ディ・ピッツァ・ギョーダ)
2021年8月に創業4周年を迎えた国産ピザ窯を備えるピッツェリア。地元・行田市の農家とオリジナルの小麦の生産に取り組むなど、埼玉県内の生産者と積極的につながり地産地消でシンプルな中にもヒネリのきいた料理を提供すると評判。ドリンク類のラインナップも垂涎モノだ。

[住所]埼玉県行田市佐間2-14-16
[電話]048-507-5917
[営業時間]11時〜15時LO、18時〜21時LO
[休日]水
[交通]JR高崎線ほか吹上駅よりバスで約12分、「佐間団地」下車徒歩3分
※記事中の価格はいずれもディナータイム価格
https://twitter.com/pdp_gyoda

参考資料:『からだにおいしい 野菜の便利帳』(板木利隆 監修/高橋書店)、『そだててあそぼう トマトの絵本』(つかだ もとひさ へん・つかもと やすし え/農文協)、『しぜんにタッチ! おどろきいっぱい! トマト』(野口 貴 監修/ひさかたチャイルド)、『かつてトマトは「赤すぎる」と忌み嫌われていた?』(稲垣栄洋/PHP Online衆知)、『【世界】トマトの産地・生産量ランキング』(食品データ館)

取材/市村幸妙

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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市村 幸妙
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