冬に軽トラでやってくる「い〜しや〜き〜いも〜」の声と、甘いイモの香りに誘われて石焼きイモを買った人は数多くいるでしょう。では、石焼き芋の石って、そもそもなぜ石で焼くのか? では石だと何がいいのか? 知ってるようで知らない謎を石屋さんに直撃しました!
画像ギャラリー石「を」焼くとイモになる思った幼少期
まだ幼少の頃、石焼きイモなるものは石「を」焼くとイモになると思っていた。それが加熱した石「で」焼くからだと、ずっと勘違いしていたと知ったのは小学生になる直前。
近所に軽トラックの石焼きイモ屋さんが来たので買いに行ったところ、石の上にホクホクの焼きイモが並んでいるのを見た時だ。どおりで落ち葉を集めた焚き火の中に石ころを入れてもイモにならないわけだ。もうできたかな? なんて、イモを掴んで何度もヤケドした自分が恥ずかしい。ま、今では笑える黒歴史だけれど。
それから数十年。石で焼いたホクホクの焼きイモを「うめえなあ」と言いながら数多食べてきた。しかし、ふと新たな疑問がよぎった。
それは、そもそもなんで石で焼くの? さらに石は何がいいんだ?
というもの。
石焼きイモってイモの品種のことは語られるが、加熱のための石にスポットが当たらな過ぎな気がする。
例えば焼鳥では、紀州備長炭>備長炭>炭火>ガス台的な、これで焼くと旨い図式がある。炭火は遠赤外線効果があり、滴る鳥の油で立ち上る煙が絶妙の味付けにもなるからだ(これが絶対に正しいとかではなく)。そんな図式、理由が石焼きイモの「石」にもあるのではないか?
「どんな石を使う?」日本唯一の玉石・玉砂利専門店に直撃!
というわけで、餅は餅屋だ。石のことなら石屋さん。
さっそく埼玉県にある日本唯一の玉石・玉砂利専門店『日本玉石』さんに話を聞いてみた。
「焼きイモ用の石ですか? それ用の石はないですね。でも、『大磯』の9〜12ミリや『天然黒玉石(旧・那智黒)』の20ミリほどのものを購入に来られる焼きイモ屋さんは何人もいましたよ。この2種の人気の理由まではわかりませんねえ」とのこと。
大磯は観賞魚用水槽の底砂によく用いられるもので、那智黒は和風建築物や商業ビルなどに敷く石として人気のものだ。共通点……いったいどこなんだ?
「ホームセンターで買える石を使う」石焼き芋屋さんの証言
「加熱した天然黒玉石は遠赤外線効果が高いという話は聞いたことがあるよ」。と、悩んでいるボクに助け舟を出してくれたのは、千葉ニュータウン地域を中心に展開している『五郎の石焼き芋』の親方だ。
遠赤外線効果! それは焼鳥を備長炭で焼くと美味しいとされる理由と一緒じゃないですか!
「でもね、現場だと正直そこまで実感することはないかも。ウチでは天然黒玉石じゃなく、ホームセンターなどで気軽に買える伊勢砂利で20ミリくらいのものを使っているしね」。
伊勢砂利は、御影石を削った砂利で、こちらは和風庭園や集合住宅の外構に使う石として人気とのこと。さらに新しい石の登場だ。もうね、どれでもいいんじゃないかって気がしてきた。河原で拾った石で作ってもいいんじゃないの? と、「それは避けてください!」とふたりから声が上がった。
「雨花石が最適!」アウトドアブランドの証言
ひとりはアウトドアブランド「キャプテンスタッグ」の広報担当の方。
「ソロキャンプなどの人気上昇に伴い、アウトドアで、ダッチオーブンなどを使った石焼きイモを楽しみたいという需要も多くなりました。そこでダッチオーブンでの調理に適した石を探したところ、『雨花石』が最適だとわかったんです」。
雨花石はマーブル状の模様が美しく、観賞用の石として中国・南京の特産品にもなっている。もちろん、美しいから最適なわけではない。
「石を加熱すると割れることがあり、それゆえ怪我につながることも。それを避けるために割れづらい石をといろいろ調査したところ、石内部の気泡が少なくて加熱しても弾けたり、割れたりしづらいという特性を持つ、雨花石が安全で最適だとなったんです。当社ではこの雨花石の10〜25ミリ程度の大きさのものを焼きイモ用の石として販売しています」。
安全性は盲点でした。そういう最適さもあるのか。
なんでもいいは危険! 河川敷や海岸で石を採るべからず
もうひとつの理由は「法律で石の採取を禁止されている箇所が多いからです。河川敷や海岸での石の採取は環境破壊につながり、漁業面への影響も少なくありません。そういった背景があり、現在、国内での石の採取は禁止されている地域がかなりあります。少しならいいだろうと持って帰ることで、罪に問われることも」(前出・日本玉石さん)。
なので、石屋さんやホームセンターで売られている石は海外からの輸入品が多いのだそう。先の親方の使っている伊勢砂利も伊勢ではなくフィリピンからのもの。たかが石、されど石。背景にいろいろな事情があるようだ。
[結論]石焼き芋イモで大事なのは……
「石」にこだわった極上の石焼きイモはどうなってしまうんだ。と、「石にこだわるのも大切だけど、それ以上に重要なのが焼き方だよ」。
最後に『五郎の石焼き芋』の親方が、素敵なアドバイスをくれた。はっ! そうだ。いくら包丁が良くても素材の魚が悪かったり、作り手に腕がなければ台無しじゃん!
「焼く時の温度と時間にこそこだわってほしい。温度は企業秘密だけど、時間は大きさによって違い、2時間から2時間半。時間をかけて焼くと、サツマイモ内のデンプンが糊化(糊状になること)して、しっとりねっとりとして甘〜い石焼きイモができるんだよ」
しかもこれは家庭などのオーブンで焼く際にも応用できるそうで、アルミホイルに巻いてオーブンに入れ、やはり2時間程度焼くと美味しい焼きイモの完成となるそう。というわけで、石焼きイモを美味しくする「石」は、用途に合わせて3人のアドバイスを参考に店から購入するのがよさそうだ。
ホフホフの石焼きイモがより美味しい季節が終わる前に試してみなきゃ。
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