水ようかんといえば、あつ〜い夏に食べるイメージがありますよね(井村屋的な)。しかし、冬に食べる地域があるのをご存知でしょうか? それは福井県。春到来でまもなくシーズンが終了しますが、その前に冬の水ようかんを駆け込みで食べ比べてみました。
画像ギャラリー福井の冬は「こたつ、みかん、水ようかん」
福井県は水ようかんを11月〜3月に食べる風習があります。いわゆるどっしり食べ応えがある練ようかんではなく、水分を多く含み、柔らかいのが特長。さらに、砂糖の分量を極力少なくしているため甘さが控えめ、あっさりすっきりとしています。
糖度が低い分日持ちしないため、冷蔵設備がなかった時代は家の廊下や納屋に置いていたそう。福井は冬場が0〜10度でマイナスまで冷え込むことが基本なかったことから、諸説ありますが冬に水ようかんを食べる風習が広まったと言われています。
大正・昭和時代には「丁稚ようかん」とも呼ばれ、漆が塗られたもろびた(木型)に流したものが町の八百屋さんなどで販売されていました。それを1枚いくら、または1列だけすくって5円というように買うことができました。
1960年代になると、紙の箱が登場。水が漏れないようにアルミ箔を貼るなど工夫していました。1970年代には現在の平たい厚紙の紙箱へと落ち着き、お店によっては容器がプラスチックになるなど改良を加えつつ、今に至ります。
東京・市政会館に108軒分の水ようかんが集結
福井県で冬場に水ようかんを売っている店は数百軒。その日持ちのなさゆえ、それぞれ地元の“my水ようかん”があるんだそう。
東京で冬の水ようかんに出合うとなると、福井県のアンテナショップか催事くらいなもので、なかなかレア。それが今回、日比谷にある市政会館に108軒分の水ようかんが集結! といっても、外箱なんです。すみません。
とはいえ、煩悩の数と同じ108つの水ようかんの外箱が展示される様は圧巻。私、現地で見させていただきましたが、あることに気づきます。
「ほとんど同じじゃね?」
福井市東京事務所の職員さんに聞いたところ、県内の大半のお店が株式会社カリョーというメーカーに依頼しているからだそう。よ〜く見ると店名が違っていたり、色が微妙に違っていたり。そんなことがこの展示で伺えます。
なお、展示は2021年3月26日正午までなので、コロナ対策に気を配りながらお早めにご覧ください。
ちなみに、こちらの展示は荻野靖弘さんがおひとりで集めたコレクション。水ようかんに魅せられ、京都から移住したツワモノ。
カニの解禁と同じぐらいのタイミングで売られ始める面白さ、暖かい部屋でみずみずしくてのど越しスッキリかつ程よい甘みを味わえて、それが1枚(1箱)ぺろりと食べられることからハマっていきました。
コレクションのきっかけは、デザインの勉強をしていたことから、水ようかんの箱の色彩・形状・デザインに魅力を感じたこと。規格が統一されている箱のデザインに、各地域の歴史や店舗の思いが詰め込まれていることに感動。知的好奇心が高まり、収集しはじめました。
その中で地域ごとの微妙な味の違いにも面白さを見出していったそう。ふむふむ。水ようかんひとつでそこまで味に違いがあるのか……。奥が深いなぁ。
福井の水ようかん6軒を食べ比べ
ということで、福井県のアンテナショップでゲットした6軒分の水ようかんを福井市東京事務所で食べ比べさせていただくことに。
せっかくなら福井県民の声も聞きたく、福井市東京事務所の黒田所長にもご参加いただき、いざ実食。
『えがわ』(福井市)の水ようかん
黒田所長いわく、福井の人は“my水ようかん”があるといいます。水ようかん自体が日持ちするものではないため、近所のお店で買うから。
ひとつ目は黒田所長のmy水ようかん「えがわ」。福井ではCMが流れるほど、代表的なお店。所長はえがわのパッケージを見るだけで、CMのBGMが脳内で流れるそう。
実は私も「えがわ」さんだけは体験済みで、しかもその美味しさを知っており、何度もプライベートで購入しているのです。久々に食べられてうれしい! では、木べらでひと切れすくって、いただきます。
つるんと口の中に入ってくる。スッと噛むと……う〜ん、みずみずしい。黒糖の香りがふわっと漂う、やさしい黒糖の甘さ。さすが、福井を代表する水ようかんのスタンダード。冬の水ようかん入門に最適な一品です。
さて、所長。my水ようかんのお味は?
「福井の水ようかんは食べるというより“飲む”んですよ。歯と歯の間からちゅるっと入ってくる。口に入ったら、舌と上あごでつぶしつつ味わいながら飲み込むといいですよ。黒糖の味が広がりますから」
所長の言われた通り、食べて、いや飲んでみると。確かに黒糖の風味をより感じられるように。さすが!
『餅の田中屋』(福井市)の水ようかん
続いていただいたのは、1861年創業の老舗餅屋さんが作る水ようかん。えがわに比べると、そこまでつるんとしていなくて食感があります。練ようかんに近い。
所長が「黒糖の香りがきいていて、ダイレクトに伝わってくるね」というのもわかります。
『久保田製菓』(福井市)の水羊かん
久保田製菓の水ようかんは、甘納豆職人が作っているという逸品。防腐剤等添加物は一切不使用。沖縄・波照間産の黒糖を使っています。
食べてみると、みずみずしくてえがわに近い。でも食感はえがわよりあって、田中屋のような黒糖の力強い風味も備えています。
所長も「バランスがいいね」と同調。「ここまでの2軒のちょうど中間で、小豆感がありますね。県内では切れ目の入っていない箱流しタイプもあるんですよ」。
えがわもそうらしいですが、現地にいくと箱流しタイプを扱っている店が多いそう。来シーズンは現地で地元の方と同じように楽しみたいなぁ。
『榮太樓』(福井市)の水ようかん
主力の羽二重餅をはじめ、和菓子ひと筋約90年。そこで作られる水ようかんは、寒天でギュッと小豆の滑らかさと美味しさを凝縮しています。
これまでに比べて色が薄め。麦芽糖が入っているから? か、他より甘さが強くてチョコのような味。甘さを感じる分、こたつどころか暖房の入ったぬくぬくした部屋で食べるよさそう。
所長もやはり黒糖以外に白双糖、麦芽糖が入っているところに着目。「黒糖だけじゃないいろいろな甘さが感じられるね」という感想でした。
『シュトラウス金進堂』(越前市)の水羊かん
こちらも創業から約90年になるお店。面白いのが、和菓子店でありながら、ドイツ・ウィーン菓子を主とした洋菓子店でもあるのです。
それもあってか、今回の食べ比べで唯一黒糖不使用。三温糖と塩が入っています。見た目も少しグレーがかっています。食べてみると、ちょっとしょっぱめ。舌触りが練ようかんを思わせ、まるで小豆を食べているようです。
所長も「食感がしっかりしていて、キレがある。福井の水ようかんではないみたいだね」と驚きの表情を見せていました。
『丸岡家』(福井市)の水ようかん
昭和11年に創業。現在は洋菓子職人の二代目と、和菓子職人の三代目が、無添加で新鮮な国産素材のみを使ったお菓子を作っています。
琥珀色に輝く水ようかんは、久保田製菓同様、沖縄・波照間産の黒糖を使用。風味豊かで、口中で主張し続けています。今回屈指のしっかりした口当たりで、水気が少なくどっしりとしています。
所長も「ひと切れで十分な食べ応えだね! 時間をかけてゆっくり食べたい」とコメント。
これにて実食完了。6軒だけでもこれだけ違いがあるとは、想像以上でした。しかも、この他に小豆が強めの丁稚ようかんもあるというから奥が深いです。
とはいえ、それぞれ美味しくて大満足。私的ベストは、やはり『えがわ』。みずみずしさとほんのり香る黒糖が、これぞ、福井の水ようかん!! と思った次第。
『久保田製菓』のバランスの良さもいいし、最後に食べたずっしり系の『丸岡家』も印象的でした。せっかく食べるなら、一軒だけでなく、数軒ゲットして食べ比べてみてください。なかなか楽しいですよ!
東京で買うなら↓
■食の國福井館
[住所]東京都中央区銀座1-3-3 銀座西ビル1階
[電話]03-5524-0291
[営業時間]10時半〜20時、日・祝〜19時
[休日]年末年始
[交通]地下鉄半蔵門線ほか三越前駅B5出口から徒歩1分
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