コロナ禍でなかなか温泉にも行けない状況です。せめて、記事の中だけでも行った気分になりませんか? 本誌で料理写真を撮影しているカメラマン・鵜澤昭彦氏による温泉コラム。温泉好きに馴染み深い3つの格言にあてはまらない会津若松の極上の温泉宿をご紹介します。
画像ギャラリー温泉好きに知られる3つの格言
JR会津若松駅から車で約10分、川沿いの道を少し行くと会津東山温泉『向瀧(むかいたき)』が忽然と姿をあらわす。
温泉好きには三つの格言がある。
2.食事が良いお宿は温泉に難あり
3.両方良いお宿は懐に厳しい
バランスのとれた温泉旅館はなかなかないもので、温泉も良く、料理も旨いと、お宿の価格は高くなる傾向にある。また宿泊客にもかかわらず、いざ浴場に入ってみると日帰り入浴の客でごった返していたりして、幻滅する場合も多々あったりする。
しかしである、ここ『向瀧』に限って言えば、まず温泉が抜群に良い上に日帰り入浴は行っていない。そして料理も会津の伝統にこだわった郷土料理で存分に楽しめる。
さらにお値段も手頃。おまけに有形文化財に登録された建物は貴重な木造建築の部分を多く残していて何かとても懐かしいものに触れたようで感慨深い。
はからずして、いにしえの「会津東山」に迷い込んだ現代人の気分だ、この際思い切って東山の芸妓さんを呼んでみるのもまた一興だったりするかもしれない。
とにかく日本屈指の名旅館と言って差し障りがないこちらは、温泉・料理・建築・客室・接客などすべてにおいてGood! であり、しかも驚くべき良心的価格のお宿なのだ。
温泉は源泉かけ流しの湯が完全放流
まず温泉、そして温泉、いつでも温泉。
『向瀧』自慢の温泉は、そのすべての浴槽で自然に湧出している源泉掛け流しの湯が惜しげもなく流れ落ちる完全放流式である。あまりにも粛々とお湯が湯船の中に流れ落ちてゆくので、チョットもったいない気持ちになってしまうくらいだ。
加熱も加水もせずにラジエータ効果を使って温度をうまく調節しており、湯口には温泉成分が固着堆積していていかにも体に染み込んでいきそうである。15時のチェックインから翌朝9時30分までいつでも新鮮なお湯が楽しめるのもまた良い。
湯質はカルシウムと塩化ナトリウムを多く含む硫酸塩・塩化物泉で無色透明。さらりとした感じのお湯はとても素直で何回でも入れる、まさに癒し系の湯だ。
『向瀧』にはふたつの大浴場と3つの貸切家族風呂がある。
大浴場のうち「きつねの湯」は会津藩指定保養所時代から有名で、お湯も45度前後と熱めで入るのに難儀するが、湯揉みをしたりして身体を慣らしてから湯に入れば意外とあっさり入れる。
源泉から湧き出る極上の湯独特のさらりとした肌触りで、毛穴がじわじわと開いていくのが実感できる。日常から気分転換を渇望していた人にはぴったりの湯だ。
ただし熱い湯がそれこそ粛々と流れ込んでくるのでたちまち湯船の温度は高くなる。我慢せずにいったん湯船から出て体を冷まそう。「きつねの湯」の天井は、軽石でできていて湯気がこもらない作りになっているので、湯船から上がれば身体はすぐに冷却される。
こちらの平田社長曰く「僕は子どもの頃から入っているけど、身体の厳しい時に必ず入るのはいつも、きつねの湯」なんだそうだ。
浴室はシャワーはおろか蛇口は一切ない昔ながらの湯治場風のお風呂である。
もうひとつの大浴場「さるの湯」は41度程度に保たれているぬるめのお湯で、低温が好きな人にはたまらない浴槽になっている。疲れている時に「魂を抜く」行為をするならこちらが最適だ。
温泉好きなら「きつねの湯」「さるの湯」を交互に浸かり「生きてて良かった感」を満喫するのも良いだろう。こちらにはカランもシャワーも完備している。
家族風呂、ひとりで入るといと楽し
家族風呂は「鈴の湯」「瓢(ふくべ)の湯」「蔦の湯」の3つがあり、無料でいつでも利用できる。そしてこの家族風呂をひとりで利用すると本当に心が休まるのだ。
実際、家族風呂の湯船の大きさは(微妙に違うが)、やや深い感じがするだけで、決して表面積は広くは感じない。しかしこの小さめに感じる湯船に入るとすごい勢いでお湯が流れ出る、それこそ大洪水状態だ。
そしてこの湯船から一旦出ると、見る間に流れ出る源泉で湯船はたちまち満たされていく。ここの繰り返しが、何故だか人間の本能をくすぐり全くたまらんのである。家族風呂侮れず! 温泉万歳!
『向瀧』に来たら、好みによってそれぞれ違う3つの浴場に、昼間、夜、朝と最低3回は絶対に入ってしまうこと確実である。
全24室すべてが国の文化財の客室
客室は全部で24室、そのすべてが国の文化財に登録されていて造りも各部屋異なる木造建築である。
一室しかない「はなれの間」は、まるで殿様にでもなったような錯覚を覚えるほどの壮大な書院造りになっており、野口英世博士がお母様のシカさんと泊まられ夕食を楽しまれたりもした部屋で、内部は全部で20畳、3部屋に分かれて、専用のお風呂、廻り廊下の付いたお部屋となっている。
この部屋に飾ってある野口英世博士の墨書「美酒佳肴」(びしゅかこう)もこの時に書かれたものだ。
四季折々の趣向を凝らした草花に、冬は雪見ロウソクも鑑賞できる中庭向きの客室は『向瀧』の真骨頂だ。
日本の原風景を凝縮した中庭を眺めながらの滞在は、心落ち着くものになること請け合いだ。
景観は二の次に考える温泉好きの方におすすめするのは、リーズナブルな価格で楽しめる外向きの窓がある部屋。そうは言ってもはやはり文化財に指定されていて趣深い印象的なお部屋なのだ。
その他に階段が少ない部屋と温泉付きの部屋が少数ある。何を楽しむかで好みの部屋を選んでいただきたい。
[1泊2食付きの料金]
大人1名:平日・休日19950円、休前日22150円、GW・お盆・正月期間24350円
小人1名:平日・休日13860円、休前日15400円、GW・お盆・正月期間16,940円
※すべて税・サ込み。1名1部屋利用の場合、+5500円(税・サ込み)
チェックインは15時、チェックアウトは10時です。
[1泊2食付きの料金]
大人1名:平日・休日23250円、休前日25450円、GW・お盆・正月期間27650円
小人1名:平日・休日16170円、休前日17710円、GW・お盆・正月期間19250円
※すべて税・サ込み。1名1部屋利用の場合、+5500円(税・サ込み)
チェックインは15時、チェックアウトは10時です。
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