『おとなの週末』では、これまで蕎麦特集でいくつもの名店を紹介してきました。特に取材軒数が多かったライター陣が、ここ!という店を厳選。今回は温蕎麦をまとめてお届けします。永久保存版間違いなしです!
画像ギャラリー店主の蕎麦人生の原点 黄金のかき揚げを添えた芸術品の如き天ぷら蕎麦 『東白庵かりべ』@千歳烏山
9年ほど前だったか。初めて訪ねたのは店主が神楽坂に店を構えた頃。
名店「竹やぶ」で培った腕は確かで、瞬く間に人気店となった。
そして今、昨年移転した新天地で再び歩みを進めている。謙虚な姿勢は変わらず。
「蕎麦はシンプルゆえに難しい。1日1ミリの成長の繰り返しが仕事だと思っています」。
いい玄蕎麦を仕入れることが旨さの要という。主に扱うのは長野・黒姫産と新潟・塩沢産。
挽き立ての状態を見極めながら基本十割で打つ。
手繰れば香りと甘みが鮮やかに花開き、もちっとした食感も心地いい至極の味わいだ。
とりわけ天ぷら蕎麦は店主が修業先で感動し、職人を志す決意を固めた原点の味。
太白ゴマ油で揚げた才巻エビのかき揚げが別皿で供され、熱々をツユに入れるとジュッと音を奏でる芸術的な逸品だ。
芳しき油、エビの旨み、衣の食感、すべてが蕎麦の味と共鳴しあう。
喜悦の境地を約束するこの一杯を、ぜひあなたにも味わってほしい。
[電話]03-6879-8998
[営業時間]11時半~14時半LO、18時~21時半LO、日・祝11時半~20時半LO※いずれも蕎麦が無くなり次第終了
[休日]水
[交通]京王線千歳烏山駅南口から徒歩6分
天然鴨の深い旨みを津軽蕎麦が受け止める 冬限定の1杯 『手打ち蕎麦 芳とも庵』@牛込神楽坂
毎年、冬を待ち遠しくさせるのが、ご覧の「野鴨蕎麦」。
11月15日の解禁日を待って新潟の猟師から届く野生の真鴨を乗せている。
その味わいはどこまでも濃く、力強い。身から溶け出したエキスで、かけ汁もぐっとコクを増す。
さらにその下に潜むのが、“津軽蕎麦”と呼ばれる青森の郷土蕎麦。
水の代わりに大豆をすり潰した“呉汁”で打ち上げ、深い甘みと香りがおだやかに広がっていく。
それらが一体になると、食材の豊かな滋味が胃のすみずみまで染み渡るようだ。
この野鴨をふんだんに使った鍋のコース(5500円~6000円)も冬限定の贅沢なお楽しみ。
[電話]03-3235-7177
[営業時間]11時半~14時半LO、17時半~21時半(21時LO)
[休日]月・火
[交通]都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅A1出口から徒歩5分
4つの個性をまとめた店主渾身の蕎麦に肉厚鴨とネギが鎮座する 『そばこころ 蕎心』@根津
もし私が鴨ならば、ネギを背負ってこの店にやってくる。
だってこんなにも麗しき美味に仕上げてくれるのだから。
幸せそうに並ぶ私(肉厚だぁ)、いや鴨肉はしっとり柔らかで旨みは濃厚。
蕎麦は産地違いの4種を配合しており、近年は玄蕎麦の挽きぐるみも加えて香りをより際立たせたのだそう。
雑味のないツユとの相性も圧巻だ。
開店して5年。節目に襲った新型コロナの影響は「初心忘るべからず」を見直す気付きになったという。
「流行に流されず信念を貫く蕎麦を」。その追求ぶりは店主曰く「もう変人です(笑)」。
お客さんの笑顔のため今日も蕎麦と対峙中だ。
[電話]03-5842-1433
[営業時間]11時~15時(14時半時LO)、17時半~21時(20時LO)※水は昼のみ
[休日]木
[交通]地下鉄千代田線根津駅2番出口から徒歩1分
酒の後の贅沢な〆!旨みほとばしる鴨肉をのど越し良い蕎麦と共に 『蕎麦前 ながえ、』@尾山台
店名に“蕎麦前”と付くように、酒の旨さを心得た大人こそ、このカウンターが似合う。
つまみは、蕎麦屋の定番から季節の一品まで、昼から準備万端。
酒は店主と付き合いのある酒蔵のボトルがほとんどで、どうやって飲めばその酒が映えるかも提案してくれる。
つい後先考えずに注文したくなるけれど、この鴨南蛮のためにお腹を空けておかなきゃいけない。
琥珀色のツユに浮かぶのが醤油ダレで蒸し煮にした蔵王産の合鴨ロース。
じっくり味が染み込んだ身を、外二でのど越しよく打ち上げた蕎麦と一緒に頬張れば、これ以上無いってほどの最高の〆となる。
[電話]03-3701-6050
[営業時間]11時半~14時LO、18時~21時LO
[休日]火、他に月2回ほど不定休あり
[交通]東急大井町線尾山台駅から徒歩2分
冷も温も旨さが光る さらに蕎麦前も充実 使い勝手抜群の名店 『手打ち蕎麦と和食 楽』@代々木上原
ご記憶の読者もいるかも知れない。2020年本誌8月号の表紙を飾った、すだちの冷やかけはこちらの1杯。
しかし、その後も店に足を運ぶうち、実は温蕎麦も名品ってことに気付いてしまった。
まずは「かけ」。薄口と白醤油のかえしに利尻昆布の旨みをきかせたダシが合わされば、すっきりとして上品、そして余韻がひたすら続く。
そしてこの冬お目見えするのが「ゆず鶏そば」だ。カツオと昆布に鶏のダシも足し、高知県産柚子の粉末で香り付けした創作蕎麦。粗めに挽いた粉で打った蕎麦は、温めるとさらにその甘みと香りを増してツユと馴染んでいく。
[電話]070-7781-8950
[営業時間]11時半~14時、17時~22時
[休日]月
[交通]小田急小田原線ほか代々木上原駅東口から徒歩1分
住宅街の隠れた名店 飽きの来ない味に秘めた誠実で丁寧な仕込み 『蕎麦 高しま』@早稲田
俺の蕎麦どーだっ、なんて押しつけを感じさせない自然体の味がいい。
それでいて理想の蕎麦を打つために粉の挽き方など細部に仕掛けを施しているところがニクい。
渋谷から移転後、「自由に自分の蕎麦に取り組めている」という今は、打ち方を外一から十割に、水も超軟水に変えて香りと食感の良さを両立させ、飽きないようあえてインパクトのない味にしているとか。
「きざみ」は冬の人気品。ネギと油揚げに寄り添う宗田節とサバ節を併せたツユは奥深い旨みだ。
野菜は築地、魚は豊洲。朝5時に両方へ向かう店主はやっぱりタダモノじゃない。尊敬。
[電話]03-6882-3934
[営業時間]11時半~14時(13時半LO、火・金・土・日のみ)、18時~21時(20時LO・変動あり)※蕎麦が無くなり次第終了
[休日]水
[交通]地下鉄東西線早稲田駅3a出口から徒歩10分 都電荒川線早稲田駅から徒歩5分
優しく香るダシにほっこり 九条ネギと油揚げの旨みが蕎麦の味わいを膨らませる 『お蕎麦のしらかめ』@経堂
器いっぱいに浮かぶ九条ネギと油揚げ。
仲良くおそろいの同じ細さにしているのは、蕎麦と一緒に食べやすいようにとの店主のさりげない配慮から。
蕎麦は丸抜きの微粉を使う滑らかな十割で、日によって粗挽きも加えるなど風味を大切にしている。
昆布をベースに亀節で深みを与えたツユは上質な和食にも通じるクオリティ。
かえしは蕎麦の種類ごとに4~5種を使い分け、温かいかけ用は薄口醤油とみりんだけのスッキリした後味だ。
優しく清らかな味わいを最後の一滴まで飲み干せば、体の芯までぽっかぽか。
本格的な冬を迎える今こそ食べたい一杯だ。
[電話]03-3420-1988
[営業時間]11時半~20時半(19時半LO)※蕎麦が無くなり次第終了
[休日]火・不定休あり
[交通]小田急小田原線経堂駅南口から徒歩7分
蕎麦にも店にもしなやかでありながらブレない強さが漂う 『蕎麦や もりいろ』@大森町
この店のかけ蕎麦には見惚れてしまう。
すべて飲み干したくなるような清々しいダシ、端正だがコシのある細い蕎麦。
十割ですか?と聞くと「つなぎは5%です」と店主の土屋さん。
外一よりも少ない5%とはなんとも微量だが、そのほんの少しのつなぎが蕎麦にしなやかさを与えることを確信しているのだ。
おつまみもまた素敵に独創的。例えば牡蠣と無塩バターしか使わないという牡蠣ペーストは、ピュアながらも旨みが深い。
生ハムが飾られた白和えは、豊富に揃うワインや日本酒にぴったり。そうこの店は、蕎麦までのアプローチも最高にいいのだ。
[電話]03-3761-6055
[営業時間]11時半~15時(14時半LO)、17時半~20時半LO、日11時半~14時半LO ※蕎麦が売り切れ次第終了
[休日]月
[交通]京急本線大森町駅から徒歩1分
“かけ“に込めた熱い想い 香り高いツユに浮かぶ素朴な風合いの蕎麦 『蕎麦 松風』@根津
ツユをひと口飲めば、まずは本枯節の華やかな香りがふわっと来て、
それから舌に染み入るような昆布の旨みがじんわり、じんわり続いていく。
このダシを取るため、厨房にはカツオ節専用の削り器まで導入し、さらに昆布は10年熟成の利尻産。
極めつきにシンプルなこの1杯にかける想いは果てしない。
いっぽう蕎麦は店で挽いた十割で、冴え冴えとした切り口が目にも鮮やか。
冷やでは爽快なコシが、温かなツユに浮かべれば、もっちり素朴な風合いとなる。
そうして、だんだんツユと蕎麦が馴染み合って、ひと啜りごとに違った表情を見せてくれる。
[電話]03-6882-0842
[営業時間]11時半~14時LO、17時半~21時LO
[休日]日・月
[交通]地下鉄千代田線根津駅1番出口から徒歩5分
海のエキスあふれるレアに仕上げた牡蠣と凛とした蕎麦にときめく 『手打ち蕎麦切 松翁』@神保町
冬の蕎麦のイチオシは、旬を迎え寒さと共に旨みが増していく牡蠣だ。
『松翁』では、注文が入ってから大きな牡蠣の殻をむき、蕎麦に乗せる直前にサッとかけツユにくぐらせる。
レアな牡蠣にかぶりつけば海の香りが口一杯にあふれ出し、この牡蠣はまだ生きている、そう実感するほど。
だが生牡蠣にはない温もりが深い滋味をも引き出してくれる。
名店として知られる同店はせいろ、かけとも同じ蕎麦でシャキッと歯切れのいい生粉打ち。
ふわふわのつみれ蕎麦や名物のけんちん蕎麦などタネものの名作も豊富とあって、冬にこそ足を運びたくなる。
[電話]03-3291-3529
[営業時間]11時半~15時半LO、17時~20時LO、土11時半~16時LO
[休日]日・祝
[交通]地下鉄半蔵門線ほか神保町駅A5出口から徒歩6分
穀物香があふれる蕎麦と2種の油揚げの味も楽しい 来福必至の「おあげそば」 『手打ち蕎麦 じゆうさん』@東長崎
どっかとのったお揚げが実は2種類だとお気づきだろうか。
手前は木綿豆腐をカリッと高温で揚げたもの。しっかりした歯応えで大豆の風味がいい。
奥は油揚げ用の生地を低温で膨らませたもの。ツユがじゅわりと染みて何と滋味深いこと。
揚げひとつにも自家製の手間を惜しまないのだから、蕎麦ときたらもう。こちらは新蕎麦を使わないのも特徴。
というのも数カ月寝かせた玄蕎麦のふくよかな穀物香を大事にしたいからだ。
味がグッとのってきた瞬間を見極めて日々製粉している。
とまあ書いたが四の五の言わず食べてみて。胃袋に福が訪れます
[電話]03-3951-3397
[営業時間]11時半~14時半(14時LO)、17時半~20時半(20時LO)、土11時半~15時(14時半LO)、17時半~20時半(20時LO)、日11時半~17時(16時半LO)※いずれも蕎麦が売り切れ次第終了
[休日]月(祝は営、月1回連休あり)
[交通]西武池袋線東長崎駅南口から徒歩7分
蕎麦へのこだわり、客へのやさしさが詰まった一杯をたぐれる名店 『手打そば 小菅』@目黒
真摯な姿勢で打たれる蕎麦の美味しさもさることながら、緊張を強いない温かな居心地の良さで人気を博す。
鴨もいいしエビ天も捨てがたいが、オススメはお客のリクエストに応える形で生まれたナス天ののる蕎麦。
ナス天の油をツユににじみ出にくくしようと、ナスは大きく乱切りにする、高温で一気に揚げるなど改良を重ねたのちに提供を始めたのだという。
聞けば実家は蕎麦屋。小学時代の卒業文集には「日本一の蕎麦屋になりたい」と記した。
以来、その夢を追い、今も研鑽を重ねている店主の小菅さん。これは、彼の矜恃と優しさが詰まった一杯なのだ。
[電話]03-3491-2132
[営業時間]営11時半(日・祝12時~)~14時半LO、17時半~20時半LO(日・祝~19時半LO)
[休日]月
[交通]JR山手線ほか目黒駅正面口から徒歩4分
取材/肥田木奈々、編集部(小菅)、岡本ジュン(もりいろ、松翁)、菜々山いく子(芳とも庵、ながえ、楽、松風)
※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。
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