少年時代、熱中したヒーローがいたことでしょう。令和の今、そんなヒーローに会える場所があるのです。アラフォーながら、昭和好きの編集部えびすが会いに出かけました。本誌2022年2月号の記事の拡大版を2回に分けてお届けします。
画像ギャラリー時代が変わっても会える場所がある
いつの時代にもヒーローは存在する。本誌で昭和特集を作りにあたって考えたのが、まずは「仮面ライダー」と「秘密戦隊ゴレンジャー」だった。こちらは次回詳しく紹介させていただくとして、プロレス好きとしては、そこに「初代タイガーマスク」を加えたい。
初代タイガーマスクに会うというのは、なかなかハードルが高いが、マスクなら会える! と向かったのが、巣鴨にある『闘道館』。プロレス・格闘技グッズ専門店だ。
熱き思いが込もったグッズが多数揃う『闘道館』
1階は雑誌・書籍、DVDなど資料系、2階はマスク、フィギュア、Tシャツほかグッズ系の2フロアで展開。一部委託はあるものの99%は買取したものを販売している。ファンや関係者から届くそれは、ファン垂涎のお宝だらけ!
どんな商品があるのか、その答えはもちろん……トランキーロ、あっせんなよ! ってことで、今回の目的はタイガーマスク。2階へ歩を進めた。
プロレスラーのマスクに価値をつけるということ
階段を上がるやいなやズラリと並ぶタイガーマスクが目に飛び込んだ!
初代タイガーマスクはもちろん、新日本プロレス退団後、UWFのリングに上がった際に被っていたスーパー・タイガーに加えて、2代目(三沢さん!)、現在新日本プロレスで活躍中の4代目など、レプリカから本人使用済までさまざまなタイガーマスクが揃っている。
館長の泉高志さん曰く、マスクの人気どころはやはり初代タイガーマスク、そしてミル・マスカラス。この2大巨頭なんだそう。
そのミル・マスカラス、お店を入って目の前にあるショーケースに展示されていたのが相当な貴重品だった。
50年前に初めて来日した際、長いキャリアで唯一のアントニオ猪木とのシングルマッチで被っていた一枚だ。価格がなんと275万円!(売約済) 記念すべき初来日、唯一の猪木戦での使用、伝説のマスク職人・ロペス1世さんの制作という付加価値が合わさって、これだけの値がついている。
1枚しかない歴史的なマスクにはじめて金額をつける。それはそのマスクが持つ多角的な価値をしっかり見定め評価を下す、まさに鑑定眼を問われる仕事だ。
お店に買取にやってきたマスクは本人が試合で着用したものか、それともレプリカか。見分けるのは至難の業である。お客さんに教えてもらうこともあれば、映像や雑誌、書籍などの資料を食い入るようにして見た。そうして知識と経験を積み重ねることで目利きが鍛えられていった。
価格の相場が見えてきたころ、大きなターニングポイントがやってきた。お店に“虎ハンター”小林邦昭さんに破られたタイガーマスクが2枚入荷したのだ。
イチプロレスファンとしては、小林邦昭さんが破ったタイガーマスクがどれほどすごいものか痛いほどわかる。しかし、破れているものに対していくら値をつけるべきか。
単にマスクの状態としてみると、被ることもできない悪い状態だが、その破れ方は小林邦明が引き裂いた指の痕跡がハッキリ残っているプロレス史に刻まれた爪痕といっていいものだ。
タイガーマスクは何度も小林邦昭さんに破られてきたイメージが強いが、実際には数回しかない。その歴史的価値を選んだ。泉館長は250万円と300万円の値を付けた。
最高1000万円! 歴代最高値のタイガーマスクとは
これまでプロレスのマスクで一番高い値がついたのは1000万円。テレビ「開運!なんでも鑑定団」2017年11月21日放送回でのこと。番組の鑑定士として値段をつけたのは、泉館長だ。そのマスクとは、初代タイガーマスクの「二冠伝説」と呼ばれるもの。
初代タイガーマスクは1981年〜1983年の2年半しか試合をしておらず、本人が着用したものはプライベートマスクを含め、50数枚しか存在しない。
その中で1982年の4月から9月までの5ヶ月間被っていたのが「二冠伝説」と呼ばれるマスク。試合数にして約50試合。メディア出演、大会ポスターやチケットでもこのマスクの写真が使われるなど、タイガーマスクのビジュアルイメージを決定づけた一枚だ。
しかもこの期間に、タイガーは宿敵・ブラックタイガーを破り、NWAとWWFジュニアの2冠王に輝いている。そこから「二冠伝説」と名付けられているのだ。
そして、この「伝説」もタイガーマスクを語る上で欠かせないキーワードのひとつ。もともと被っていたマスクから牙を抜き、口の部分を大きく開くように調整したものを指す。
これらをすべて手掛けたのが、日本のマスク職人におけるパイオニア・豊嶋裕司さん。初代タイガーマスクはもちろん、獣神サンダー・ライガーのマスクも作ったレジェンド。ファンの間にはOJISAN製としても有名だ。
「実は先日すごいマスクが手に入ったんですよ」と泉さんが取り出したタイガーマスクもまた相当な稀少品だった。
「伝説」タイプのダブルメッシュ仕様。DVD-BOXの映像をはじめ、資料を見た結果、実際に試合で着用した“最高峰”のものであると確認できた。ついたお値段は390万円。
意外な角度に驚き! マスクの鑑賞方法
写真を撮らせていただく際、ふと聞いてみた。「マスクの見方ってあるのですか?」。その泉さんの回答に目からウロコが落ちた。
「ふつうは真正面から鑑賞することが多いですが、斜め上から眺めるのもいいですよ」。
さて、390万円のマスクを眺めさせていただくと「おぉ、これはいい!」。本物のレスラーはほとんどの選手が上背があり、上から見ることは基本的に難しい。テレビでもそんな視点で見られることはほぼない。これはマスクを所有しないと見られない景色。なんたる贅沢!
しかもこのマスクの黒い部分、光を当てて見ると茶色っぽく見える。ブラウンメタリックというものを使っていて、角度によって色が変わるのだ。あぁ、奥深きマスクの世界!
まさにヒーローに会いに行く、売り手と買い手のアツい思い
売り手がいれば買い手がいる。これだけの高額商品だが、売り場(オンラインショップでも同時販売)に出せば、すぐに売り切れる。かつて闘道館にあった力道山のワールドリーグ戦の優勝トロフィー(525万円)は、特別高所得者というわけではない一般のサラリーマンの方が購入したという。
なぜそこまでして手に入れたいのかー。泉さんが購入者の思いを代弁する。
「子どもの頃からの記憶を辿っていき、あのとき、あの試合のものがどうしてもほしい。そんなアツい思いがあって購入されます。マスクなんて特にそうですが、見ていると被っていた選手の魂や息遣いを感じるんです。それってまさにヒーローに会いに行く気分なんですよね。
『自分がファンを代表して責任を持って守ります』とおっしゃる方もいて、購入者からすると保護活動的な要素もあるんです。人によっては、自分が亡くなったあとにどうしてほしいかを遺書に書く方もいらっしゃいます。売る方もそうだけど、買う方も覚悟がいる。直接話すことで金額ではないアツい気持ちが伝わってきます」
そんな思いもあってか、お宝商品が入荷したら可能な限り、実物の展示期間を設けている。ひと目見たさに地方から来る方も多々いるそう。闘道館は、ミュージアムとしての側面もあるのだ。
取材途中、1階で橋本真也さんと小川直也さんが大阪ドームで戦ったIWGPヘビー級選手権試合の勝利者認定証を見かけた。しかも、選手権者名が勝者の橋本真也さんではなく小川直也さん! そう、勝者に渡される賞状を2枚用意されていたのだ。
実は私、この試合を現地で観戦していた。あぁ、あのとき、あの試合のものがどうしてもほしいとは、こういうことか。自分の中での思い出とともに所有欲が高まっていくんだな。よく理解できた。
マスク売り場でも、スペル・デルフィン選手が獣神サンダー・ライガー選手と第1回ベスト・オブ・ザ・スーパージュニアの決勝戦で被っていたマスク(通称・デルイガー)を発見。
当時かっこいいと思っていたマスクが目の前にある。7万円か……う〜ほしい。迷わず買えよ、買えばわかるさ! と言いたいところだが、買って帰ると妻に怒られそうなのでなくなく断念。家では吾輩は虎ではなく猫である。
王者の魂よ、永遠に!『ジャイアント馬場バル』
プロレスへの思いが溢れすぎてしまった。さて、もう一軒。新橋へ移動して『ジャイアント馬場バル』へ向かった。
僕がプロレスを好きになったきっかけは、当時全日本プロレス所属だった、三沢光晴さん。華麗に舞ったかと思えば、激しいエルボーを叩き込む。そして、危険な投げをうつ。命の削り合いだった四天王プロレスの虜になった。
それからというもの、プロレス専門誌とケーブルテレビ(GAORA)などから、さまざまな選手・団体に出合い、プロレスにハマっていった。かれこれ30年弱の付き合いになる。
そのきっかけとなった全日本プロレスの創始者こそ、ジャイアント馬場さん。そんな馬場さんの愛用品や写真がそこかしこに展示されたバルだ。お店に入る道中からポスターが貼られていてテンションアップ。
1999年5.2東京ドームの「引退」記念興行、懐かしいなぁ。『週刊プロレス』の特別増刊号、リングに置かれたリングシューズの写真が使われた表紙を今も覚えている。
愛用品からチャンピオンベルトまで、貴重な品々に釘付け
入店すると地下につながる階段の脇には、馬場さんの愛用品が展示されていた。代名詞ともいえる葉巻に加え、国際運転免許証といったなかなかお目にかかれないものまであって驚き!
テーブル席の奥には、入場時に着用していたガウンに、全日本プロレスの至宝・三冠ヘビー級王座が! 光り輝くベルトだけでもずっと見ていられるなぁ。みなさんはどのベルトが好きだろうか? 僕は三沢さんが巻いていたインターヘビー!
躍動する若き日のレジェンドレスラーに感動
そしてテレビに目をやると、懐かしい映像が流れていた。スタッフさんに聞くと、1976年〜1990年代の映像を流していて、この日は1979年。自分が生まれる前だ。世界最強タッグリーグ戦の入場式!
ジャイアント馬場、ジャンボ鶴田(赤いパンツ!)組、ザ・ファンクス、アブドーラ・ザ・ブッチャー・ザ・シーク組など名タッグチームが続々と入場。
僕が見たときは晩年の粋に達していたので「若い!」というのが第一印象。だってドリー・ファンクJr.さんがゴツいんだもの。そして、CM(当時のテレビ放送の映像!)の後は、テリー・ファンク対ブッチャー、ドリー対シークのシングルマッチが流れた。YouTubeでもお目にかかれない超レア物! リーグ戦の前哨戦がシングルなんて贅沢だなぁ。
店内に貼られているポスターも、よく見ると世界最強タッグリーグ戦。取材時は12月。その時期に合わせたポスターや映像にしているのだそう。芸が細かい。
ちなみに映像は、お客さんが少ないまたは貸し切りであれば、この年代ある? と映像資料がある範囲でのリクエストに応えてくれる。
名物のハンバーグもチェック!
さて、バルということで料理もお酒も充実。料理は鉄板メニューを中心に、馬場さんが生前愛したシチューやサラダもラインナップ。今回は定番の「ビーフ100%ハンバーグ」をオーダー。16文サイズという700g(2620円)を選んだ。
牛100%で粗めに挽いたハンバーグは、多少つなぎは使っているものの、シンプルに肉の旨みを楽しめる。サルサソース、デミグラスソース、おろしポン酢もついてくるが、そのままでも塩だけでも十分美味しく食べられる、まさに“王道”の一品。
お酒も16文! スパイクシューズ型グラスの「神泡プレミアム・モルツ生ビール」(640円)に。こういうグラスが昭和に流行ったらしい。つま先を下にしないとゴボゴボっとビールが勢いよく出てくると聞き、気をつけながら飲み干した。
ほかにも、馬場さんが好んでいた「サントリーオールド」のハイボールも用意。メガサイズ(970円)で飲めるのは意外とレアなのでは。
なお、飲食代3000円以上で、オリジナルコースター2枚と、名言が印字された箸袋入りの割り箸をプレゼント。ぜひ3000円超えを目指してほしい。
帰り際、もう一度店内を見渡したとき、はたと気づく。全日本プロレスの抜けるような青い色のリングを模した床に、対角線上に赤と青の柱。赤コーナーと青コーナーだ!
細部にまでこだわったジャイアント馬場バル。こんなにも楽しいのに、取材後、2022年1月31日をもって閉店という残念なお知らせが届いた。お店はなくなっても、馬場さんは心の中で生き続ける。
王者の魂よ、永遠に!
撮影/小島 昇 取材/編集部
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