全26話のストーリーをパネルで紹介 バラクーダ号、インダストリア、ロボノイド…リアルなオブジェが楽しい! 全26話のストーリーを1話ごとに展示パネルで紹介しているので、実際に作品を観たことがなくとも、楽しめます。第1話な…
画像ギャラリー『未来少年コナン』は、巨匠・宮崎駿が初めて監督を務めたTVアニメーションです。NHKでの放送は1978(昭和53)年。当初から話題を集め、半世紀近く経った今も、世代を超えて多くの人を魅了しています。三鷹の森ジブリ美術館(東京都三鷹市)で5月28日から、その魅力を伝える企画展示「未来少年コナン展」が始まりました。日本のアニメーションの歴史にその名を刻む傑作を俯瞰する貴重な機会です。
最終戦争で絶滅の危機に瀕した地球を描く NHK初のアニメーション番組
『未来少年コナン』では、最終戦争でほとんどの人間が死んでしまった後の世界が描かれます。強力な超磁力兵器によって地表は荒廃し、地軸が狂って地震や大津波で文明が崩壊。物語は、その20年後、少年コナンと、おじいが暮らす孤島“のこされ島(じま)”から始まります。ある日、1人の少女ラナが島に流れ着き、自分たちの他にも人間が生き残っていたことを喜ぶコナンたち。しかし、科学都市インダストリアからの追手にラナを連れ去られてしまいます。ラナを救うため、コナンの大冒険が始まりました。
原作は、米作家アレグザンダー・ケイが1970年に発表したSF小説『残された人びと』。『未来少年コナン』は1978年4月4日から10月31日にかけ、全26話が毎週火曜夜に7時半からの30分枠で放送されました。NHKがテレビ開局25周年を記念した同局初のアニメーション番組でした。
コナンと大鮫の「ハナジロ」がお出迎え
製作時、宮崎駿監督は37歳。「未来少年コナン展」の展示概要によると、「原作の全編に貫かれている暗いイメージには沿わず、原作を大幅に変えても良いという条件」で、初めての監督を引き受けたそうです。ちなみに、宮崎監督が『ルパン三世 カリオストロの城』で劇場長編デビューを果たすのは翌1979年のことです。
12歳の少年コナンの天真爛漫な性格と躍動感、背景の青い空と海…。観た誰もが“ワクワク、ドキドキ”して爽快な気分になる感覚は、宮崎監督ならではのスピード感あふれる演出の賜物でしょう。もちろん、作画監督を務めた伝説のアニメーター、大塚康生氏(『カリオストロの城』の作画監督)の存在も大きく影響しています。今回の企画展示は、そんな宮崎アニメの原点とも言うべき作品の魅力があますところなく伝わってくる充実の内容です。
展示室の入り口で、来場者を迎えてくれるのは、第1話でコナンがしとめた大鮫「ハナジロ」のオブジェとコナンの絵。左手には、ブラウン管のテレビが置かれ、第1話のプロローグが映し出されています。現在の横長の画面とは異なり、当時のテレビは四角に近い4:3の比率でした。放送時の昭和の時代感を漂わせる粋な構成です。
会場に入ると、「宮崎駿監督流 漫画映画の特徴」と題し、『未来少年コナン』の魅力を、8つのポイントを挙げて解き明かした展示がありました。
「キャラクターの魅力」「ドラマチック」「名セリフ」「SFらしからぬ乗り物の数々」「世界の構築」「よく動く」「ギャグとユーモア」「ありえないアクション」。この8つのテーマごとに、解説が付いています。例えば、「よく動く」には、「キャラクターたちは画面いっぱいに、とにかくよく動く。動きには必ず理由があり、結果、臨場感や躍動感がもたらされ、物語は紡がれていく」との説明が。どれも、なるほどと、腑に落ちてくる特徴です。
全26話のストーリーをパネルで紹介 バラクーダ号、インダストリア、ロボノイド…リアルなオブジェが楽しい!
全26話のストーリーを1話ごとに展示パネルで紹介しているので、実際に作品を観たことがなくとも、楽しめます。第1話など一部では、数分程度の映像を流すモニターが設置され、アニメーションの“動き”が分かる工夫も施されています。
何と言っても、のこされ島、帆船「バラクーダ号」、科学都市「インダストリア」、作業ロボット「ロボノイド」など、作品の舞台や、建造物、乗り物などをリアルに再現したオブジェが大きな見所でしょう。作品世界を、立体的に感じ取ることができるので、『未来少年コナン』の新たな魅力が伝わってきます。
他にも、宮崎監督が制作にあたって、キャラクターやシーンなど浮かんできたイメージを具体化するために描いたイメージボード、キャラクター設定の解説、空中要塞「ギガント」翼上での攻防戦の宮崎監督によるイラスト図解など、この名作アニメーションの全貌が分かる構成になっています。
「今のアニメーションにはないキャラクターの動き」「この作品がなければ今の自分はない」
開催前日の5月27日には内覧会があり、三鷹の森ジブリ美術館の中島清文館主らがあいさつ。『未来少年コナン』の制作に関わった関係者らによる座談会も開かれました。三鷹の森ジブリ美術館の安西香月館長が進行役を務め、登壇したのはアニメーション監督の富沢信雄氏、アニメーターの友永和秀氏、元テレコム・アニメーションフィルム代表取締役社長の竹内孝次氏です。
途中から加わったという作画担当の友永氏は「それまでロボットものしかやったことがなかったんですけど、大好きな東映長編漫画映画の流れをくむ大塚(康生)さんと宮崎駿さんの作品を手伝って、ぜひ、まっとうなアニメーションというか、そういうものを勉強させていただきたいということで作画に参加させていただきました。最終回まで仕事させていただきまして、とにかく血沸き肉躍る漫画映画の、今のアニメーションにはない、そのエネルギッシュなキャラクターの動きだとか、荒唐無稽なアイデアだけどリアルな空間を取り入れた説得力のある画面づくりに感激させられました。その分だけ難しかったです(笑)」。別の作品を担当させられそうになったという原画を任された富沢氏は『コナン』をできなきゃ(会社を)辞める」とゴネて参加させてもらったエピソードを明かし、「ゴネてよかったです(笑)。一番仕事を覚える時期にぶちあたった作品で、あらゆることをこの作品で勉強させてもらった。この作品がなければ今の自分はないなと思っている」と振り返りました。
制作進行だった竹内氏は「宮崎さんの漫画映画ということ。人間が移動するというのは、歩くのと、走るのと、ジャンプとか、そのほかに、転がったりとか、芋虫のようにはったりとか。コナンの中にそれが全部入っている。特に生き生きしているのは、走るのと、ジャンプで、いろんなところに入っている。これがコナンの活劇なんです」。安西館長は、「ワクワク、ドキドキを展示でみせたかった」と狙いを説明した上で、「ぜひ、映像を観てほしい」と、自身が子供の時にリアルタイムで観た『未来少年コナン』のアニメーションとしての魅力をアピールしていました。
会期は、2023年5月までの予定です。三鷹の森ジブリ美術館は、日時指定の予約制。この5月から、毎月10日に翌月入場分のチケットを発売する方式を再開しています。
「三鷹の森ジブリ美術館」の情報
住所:東京都三鷹市下連雀1‐1‐83(都立井の頭恩賜公園西園内)
開館時間:土日祝:10時~19時(最終入場回:17時)、平日:10時~17時(最終入場回:15時)、夏季特別期間:10時~18時(最終入場回:16時)
チケット:チケットの予約はローチケWEBサイト で受け付け。毎月10日の10時から翌月入場分を発売
交通:JR三鷹駅南口から徒歩約15分、三鷹駅南口からコミュニティバスで約5分
文・撮影/堀晃和
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