「立秋」なす漬けを楽しむ【週末手しごと 酒肴二十四節気】その16

真夏においしい小なすのなす漬け

●なす漬けを漬ける(漬け込み編)1)塩を揉み込んだボウルの小なすを、出た水分も含めて用意した漬け込み容器に入れ、容器の中に鉄たまごか、さびたクギ5~6本を加える。※鉄たまごは、南部鉄(岩手県産の鉄製品)のものなどが売られ…

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『おとなの週末Web』では、手作りの味も追求していきます。そんな「おとなの週末」を楽しんでいる手作り好きから、折々の酒肴を「季節の目印」ともいえる二十四節気にあわせて紹介しています。「立秋 」の16回目。手作りのなす漬けに挑戦してみました 。

暦のうえでは「立秋」。小なすで手作りのなす漬けを

暑い。真夏の日差しがギンギンです。にもかかわらず、暦のうえでは「秋」の入り口となりました。古くからの生活暦、二十四節気では8月7日が「立秋」となります。ここからの2週間ほど(8月22日まで)の間には、日中は暑くても、朝夕には秋の気配が感じられるといいます。

たしかに、魚屋さんの店先には秋に旬を迎えるスルメイカ(夏生まれ)が並び始めました。まだ肝は小さめで、塩辛に仕立てるにはやや早いのですが、これも秋の気配のひとつといえるのでしょう。

いっぽう八百屋さんやスーパーの店先には、夏の野菜が幅をきかせております。特になすは今が最盛期。いわゆる普通のなす(千両なす)から、長なす、丸なす、水なす(水分の多いなす)……と、さまざな種類のなすが並んでいます。そんななかで、おいらのお目当ては「小なす」です。はい、漬け物にするなすです。

立秋の頃に東京でも並ぶ山形産の小なす。長なすの仲間で長さは6~7cmほど

なすの漬け物というと、ぬか漬けなら普通のなすを使いますが、オイラが夏に好むのは塩だけで漬ける「小なすのなす漬け」です。産地にもこだわります。お気に入りは山形産の小なす。長なす系の小なすで、大きめのものでも長さは6~7cmほど。小さいものでは4~5cmというかわいらしさです。いちばんの特徴は皮が薄く柔らかいところ。ひと口サイズなので、丸ごと漬け物にできるのです。

山形産の小なすは皮が薄く柔らかいのが特徴。小さいものは長さ4~5cm

東京で手に入りやすい高知の小なすも、もちろんおいしいなす漬けになります。

こちらは高知県産の小なすを漬けたもの。もちろんおいしい

しかし、皮の柔らかさで選ぶと、山形産の皮の柔らかさは際立っています。最近ではデパ地下の八百屋さんにも出回るようになりましたが、並ぶ時期は限られていて、7月下旬から8月のお盆前後までというイメージ。まさに、立秋の頃に並ぶ夏限定のなすなのです。

市販の漬け物はおいしいが、添加物が多い

オイラはもともと漬け物を買っていました。デパ地下、スーパーには実にさまざまな漬け物が並んでいます。原材料や添加物にも敏感な昨今、昔からの作り方に近いものが増えてきたのはうれしいのですが、なす漬けに関してだけは、いっこうに添加物が減りません。

その理由を想像すると、問題は「なすの色落ち」にありそうです。なすの美しい紫色はアントシアニンと呼ばれる色素成分。体の「さび」を防ぐ働きをするポリフェノールのひとつですが、切ったり、塩で揉み込んだりしたあとは、空気に触れるだけで色が変わってしまいます。もちろん防止策もあります。たとえば、料理の際に油で炒めたり揚げたりすることでも色落ちは防げ、食欲をそそる色あいになります。

なすは切り口が空気に触れると色が変わりやすいが、油で揚げると簡単に色止めできる

しかし、なす漬けの場合は塩で揉み込むので、みるみる色が茶色に変わってしまいます。つまり、おいしそうに見えなくなるのです。ご商売の漬け物としては商品力が落ちるのでしょう。そこで、色落ち防止のために用いられるのが「ミョウバン」です。漢字では「明礬」と書きますが、その“本名”は硫酸アルミニウムカリウムという化学物です。色落ちを防止する色止め剤ということで「生うに」にはかなりの確率で使われています。そして、市販のなす漬けにもほぼ使われているのです。

実際、市販のなすの漬け物はミョウバンの働きで見事な紫色をしています。害はないとされますが、苦みが増すともいわれています。ただでさえアクの多いなす。色落ちを防ぐためとはいえ、「苦みを増やしてどうするの?」というのがオイラの素朴な疑問です。以来、オイラのなす漬け修業が始まりました。まっ、年に数回、小なすを漬けるだけですが……。

なすの色落ちは「鉄分」を加えて防ぐ

そこで、オイラが助けを借りているのが「鉄たまご」です。正月前に黒豆を炊くときにクギを入れますよね? あ、誰も黒豆、炊きませんか……。失礼いたしました。とにかく、黒豆を美しく炊くコツは鉄分を補うことなのです。そのため昔から、さびたクギや、鉄の塊「鉄たまご」などを加えて炊いてきましたが、鉄ワザはなす漬けにも使えるのです。

なすの色落ちを防ぐためには鉄分を加える。写真は「鉄たまご」を入れたなす漬け

そうそう、「ぬか漬けに古クギ」を入れると、美しく仕上がりますが、これも鉄分が色落ちを止めているからです。体に必要な鉄分ですから安心して使えます。

そもそもなす漬けは、長期で保存するものではありません。漬けて1日、2日が食べ頃なので、食べきる量だけを漬けます。実際、長く漬けていると味もしょっぱくなりますし。とはいえ、そこは漬け物。ある程度の塩分も必要です。オイラの作り方をご紹介します。

●なす漬けを漬ける(仕込み編)
1)小なすを漬ける容器を準備する。※プラスチック製のネジ式重し機能付きの漬け物器が便利です。ほうろう製などの容器で漬ける場合は、小なすの重さの7~8倍の重しが必要になります。
2)小なすはよく洗い、ヘタ(ガクのなり口)を5ミリほど切り落とす。※こうすることで、塩がしみ込みやすくなります。

水洗いした小なすはヘタ(ガクのなり口)を5mmほど切り落とし塩をしみやすくする

3) 大きめのボウルに小なすを入れ、小なすの重さの3%の塩をまぶし、手でよく揉んでいく。※今回、小なすの分量は700gほど。その3%の塩は約21gとなります。また、小なすのヘタにはトゲがあります。刺さると痛いので注意しましょう。

ボウルに小なすを入れ、なすの重さの3%ほどの塩とともに揉み込んでいく

4) 揉み込んだ小なすは5分ほどおいておく。好みで青唐辛子2~3本を加える。※今回ミョウバンは使いませんが、もし使用される場合はこのタイミングで焼きミョウバンなどを適量加え、さらに揉み込みます。

よく揉み込んだら小なすに塩がなじむまで5分ほどおく。青唐辛子はお好みで

●なす漬けを漬ける(漬け込み編)
1)塩を揉み込んだボウルの小なすを、出た水分も含めて用意した漬け込み容器に入れ、容器の中に鉄たまごか、さびたクギ5~6本を加える。※鉄たまごは、南部鉄(岩手県産の鉄製品)のものなどが売られています。

用意した漬け込み容器に小なすを移し、鉄たまごを加える

2)呼び水として水適量と、塩の3分の1ほどの砂糖を加える。※小なすの重さと水で1kgになるのが目安です。小なすが700gなら、水は1カップと2分の1(約300ml)、砂糖は小さじ2(約6g)を加える。
3)小なすを漬けたら、プラスチック製のネジ式重し機能付きの漬け物器の場合は、重し機能をきかせ、小なすが漬け汁にすべて浸かる位置まで調節する。ほうろう製などの容器の場合は、小なすの重さの7~8倍の重しをのせ、小なすが漬け汁に完全に浸かっていることを確認する。※小なすが完全に漬け汁に浸かっていないと、その部分の色が悪くなります。今回は小なす700gなので、5.5kgの重しをのせました。

プラスチック製のネジ式重し機能付きの漬け物器。小なすが漬け汁に完全に浸かる
ほうろう製の容器に漬けた小なす漬け。たくさん漬けるとき用の容器
ほうろう性の容器に漬ける場合、重石は小なすの重さの7~8倍は必要

4)漬け込み後、半日~1日が経過したら食べ頃。漬け込み後2日が経過したら、別の容器に移し冷蔵庫で保存する。※1週間以内に食べきりましょう。

半日から1日漬けたら、食べ頃になる。保存は別の容器に漬け汁ごと移し冷蔵庫で

文・写真/沢田 浩

さわだ・ひろし。書籍編集者。1955年、福岡県に生まれる。学習院大学卒業後、1979年に主婦と生活社入社。「週刊女性」時代の十数年間は、皇室担当として従事し、皇太子妃候補としての小和田雅子さんの存在をスクープ。1999年より、セブン&アイ出版に転じ、生活情報誌「saita」編集長を経て、書籍編集者に。2018年2月、常務執行役員パブリッシング事業部長を最後に退社

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