ボクシング世界3団体統一王者の食の秘密(2)井上尚弥は胃腸も強かった 最強ボクサーを支える勝負メシとは

ボクシング世界3団体統一王者・井上尚弥の食の秘密(2) 世界3団体王者の井上尚弥選手(29)が日本人初のボクシング主要4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)統一に向けて、準備を進めています。日本ボクシング界に数々の快挙…

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ボクシング世界3団体統一王者・井上尚弥の食の秘密(2)

世界3団体王者の井上尚弥選手(29)が日本人初のボクシング主要4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)統一に向けて、準備を進めています。日本ボクシング界に数々の快挙をもたらし、10月2日でプロデビュー10周年を迎えた最強ボクサーに、グルメをメインテーマとする「おとなの週末Web」も注目。体作りの基礎となる食の観点から井上選手の強さに迫ります。

井上選手の強さを支える「食べる力」

(写真左から)父・井上真吾さん、弟の拓真選手、尚弥選手。村野さんから栄養についてカウンセリングを受ける場面

2014年の7月から井上選手の栄養サポートを担当する大手食品会社「明治」の管理栄養士、村野あずささん。6戦目の準備段階に発生したコンディション不良から、体調管理の大切さを知った井上選手。管理栄養士の村野さんにより、その意義を学んでいくこととなりました。

最初はまず、現時点での課題を確認し、減量時だけでなく日常の食環境や栄養摂取状況を把握するためにカウンセリングと3日間の食事調査を実施しました。

「食事調査の分析結果では、栄養状態や食べ方に偏りがあり、それがボクシングのパフォーマンスやコンディショニングにとってどう影響するかなど一つ一つ確認をしていきました。当時は独身で実家暮らしだったため、食事を作るお母様とも連携させていただき、度々食事の写真を送ってもらい井上家の食卓に並ぶ食事の内容を見させてもらっていました」

「試合の度に10キロ以上の減量があるため、普段の食事と減量期間の食事があまりにもかけ離れたものですと減量時のストレスや試合後の反動などその後のコントロールが大変になります」と村野さんは話します。ですが、井上選手の家庭では、出汁を基調としたひじきやカボチャの煮物、きんぴらごぼう、もずく酢など日頃から減量にも備えやすい和食が中心の食生活だったと言います。

鶏の唐揚げや焼肉(カルビ)など好きなメニューを良く食べていたが、試合1ヶ月前からは外食を控えるようになり、自宅で高たんぱく・低脂肪の食事を実践するようになった。肉は油脂の少ない部位のもの、焼き魚や納豆、豆腐、野菜は色の濃い温野菜を中心に、根菜類、海藻類など毎食たくさんのメニューが並ぶようになった(写真右、左はそれぞれ別の食事です)

「減量期間には揚げ物や炒め物を控え、茹でる、蒸す、焼くなどの調理法を中心に、野菜や海藻類なども積極的に取り入れ、塩味を控えて薄味にすることなど提案させていただきましたが、井上家の食事はもともとが減量に適した高たんぱく質、低脂質、高ビタミン・ミネラルの非常に健康的なメニューがすぐに揃う食環境でした」

消化器官の構造上、日本人は欧米人などに比べ、長時間、胃腸に食べ物がとどまります。脂肪分の多い食事などは分解するのが得意ではなく、胃腸に負担がかかります。

「特に試合前、短期間で10キロもの大幅な減量や脱水によって胃や腸は消化吸収機能が低下している状態ですが、計量後の急激な食事によってさらに胃腸への負担を増やし失敗してしまうケースも少なくありません。ボクサーの減量による体への負担は非常に大きいのですが、これについては、減量期間だけでなく、普段の食生活から見直す必要がある場合が多いです」と村野さんは言います。

最近では若い選手が和食を食べる習慣がなかったり、偏食傾向にある選手も多く、食事の指導が難しいケースもあるそうです。

「井上選手は、日頃からものすごくよく食べます。幼少期から体に良いものをしっかり食べて育ったからこその『食べる力』を育み、あの胃腸の強さにつながっているのだと思います。また、階級を上げることによってしっかり食べていい練習を継続できることも大きいと思います。やはり日頃から栄養が摂れていないと強い体づくりやコンディションを維持するのは難しいと思います」

村野さんは「食べる力と、胃腸の強さ」が井上選手の強さの要因のひとつと力説します。それゆえに、日々のトレーニングがより充実したものになり、パフォーマンスの向上につながっているのです。

井上家の勝負メシ 父・真吾さんがつくる「真吾スペシャル雑炊」

計量を終え、プロテインを飲み、保温ジャーに入った 「真吾スペシャル雑炊」 を食べようとする井上選手

井上家には井上選手が試合前に必ず食べる「特別な食事」があります。

トレーナーでもある父・真吾さんがつくる特製雑炊、その名も「真吾スペシャル雑炊」です。現在、スーパーバンタム級で活躍する弟の拓真選手(WBOアジアパシフィック、日本王者)も試合前に食べています。

主に鶏肉、もち米、雑穀米、きくらげをはじめとするきのこ類、にんにくや葉物野菜など10種以上の具材を盛り込み、すっぽんスープを隠し味に入れています。具材は試合ごとに替わるそうで、かつてはサムゲタン風の味付け(当時は真吾さんの名前にちなんで「シンゲタン」と呼んでいたそうです)をしていたこともあります。減量直後の体に受け入れられるように消化に良く、エネルギーになりやすい具材をそろえました。

今年の6月7日に行われた世界5階級王者のノニト・ドネア選手(フィリピン)との2度目の対決の際も、食べた恒例の勝負メシです。

食材は真吾さんが自らスーパーに買い出しに行き、調達します。たくさんの具材は食べやすいよう小さめにカットし、さらに柔らかくするために圧力鍋で煮込み、食べる前に特製の卵黄漬けを乗せて完成です。

井上選手は、試合前日の計量終了後には体に負担をかけないよう時間をかけて、水分補給とエネルギー補給をしていきます。計量直後のルーティーンである経口補水液と水に溶かした糖質補給のジェルを最初に補給した後、絶妙なタイミングでこの特製雑炊を食べます。

計量が終わった井上選手や拓真選手が「うまい」と言って食べる姿に真吾さんは喜びを感じるそうです。父の愛情たっぷりの料理はリングで戦う息子たちの原動力になっています。

井上尚弥(いのうえ・なおや)

1993年4月10日生まれ。神奈川県座間市出身。小学校一年でボクシングを始める。高校一年でインターハイ・国体・選抜の三冠獲得。勝利を重ね続け、高校生にして、ボクシング史上初の7つのタイトルを獲得。プロ転向後は4戦目で日本王座に。日本を舞台に戦う日本人選手が多い中、文字通り「世界」を舞台に戦い6戦目で世界王座を獲得。8戦目での2階級制覇は当時、世界最速。この年、世界ボクシング界にて年間MVPを獲得した。

2018年5月25日には国内最短で3階級制覇を達成。同年開催のWBSSでは圧巻の70秒KO劇を見せた。2019年5月18日英国グラスゴーでWBSS準決勝を259秒TKOで制し決勝へ。2019年11月7日さいたまスーパーアリーナで行われたWBSSバンタム級決勝で12R 3-0の判定勝ちを収めWBSSバンタム級初代王者に輝いた。(公式ホームページより)

文/山本孟毅、写真提供/明治

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