新横浜ラーメン博物館(横浜市)は、30周年を迎える2024年へ向けた取り組みとして、過去に出店した約40店舗が2年間かけ、3週間のリレー形式で出店するプロジェクト「あの銘店をもう一度」が2022年7月1日から始まっていま…
画像ギャラリー新横浜ラーメン博物館(横浜市)は、30周年を迎える2024年へ向けた取り組みとして、過去に出店した約40店舗が2年間かけ、3週間のリレー形式で出店するプロジェクト「あの銘店をもう一度」が2022年7月1日から始まっています。このプロジェクトにあわせ、店舗を紹介する記事の連載も同時に進行中。新横浜ラーメン博物館の協力を得て、「おとなの週末Web」でも掲載します。
第1弾は、和歌山の「井出商店」です。
歴代店舗はどのように選んだのか~当館の誘致基準~
1994年3月6日の新横浜ラーメン博物館創業時、全国にどのようなラーメンが存在するのだろう?というワクワク感を持ち、そして実際に10,000店以上食べ歩き、取材をし、私たちなりの紹介の基準が生まれました。
日本という国は縦長の島国で、四季や風土・気候によって異なった食文化が存在します。郷土料理などはその例で、ラーメンも同じように郷土色を持っていると私たちは感じました。そして私たちはそのさまざまな地域において地元に根付き、その地域でさまざまな影響を与え、長い間支持されているお店を中心に皆様にご紹介していくことで、各地域に様々なラーメンがあるということを伝えたい、そして私たちが食べ歩いて感じた驚きや感動、ワクワク感をお届けしたいと思ったのです。
【国内店舗:ご当地ラーメン】
ラーメンを郷土料理(ご当地ラーメン)と位置づけ、地元に根付き、長い間支持され、今なお繁盛しているお店を中心に誘致・紹介をしています。
※ご当地ラーメンとは自然発生的に誕生した地域の繁盛店から、独立・あやかったお店が増え、その地域に同じ特徴の味が多く存在する食文化を指します。
【海外店舗:逆輸入ラーメン】
海外は日本とは違い、ラーメンを作る環境が整っていない中、知恵と工夫により日本では生み出せないラーメンが誕生しており、その味と志を紹介しています。逆輸入ラーメンは、日本にお店がないことが前提です。
※原則は上記の3点が誘致基準ですが、新しいこだわりを提案し、ラーメン業界に影響を与えたお店・人や、将来を見据えた上で行なう企画店(新ご当地創生計画や復興支援やラーメン登竜門等)も実施しています。
これらの基準をもとに「全国各地のラーメンを飛行機に乗らずに食べに行ける」という私どものコンセプトに則り、本店及びその周辺しかないお店を紹介して参りました。
井出商店 ~ご当地ラーメンブームの火付け役~
これらの誘致基準をもとに、「井出商店」は、和歌山ラーメンの主流である濃厚豚骨醤油ラーメン「井出系」のルーツという歴史的側面から「国内店舗 ご当地ラーメン」としてお声がけすることとなりました。
1998年10月1日、当館に井出商店がオープンしました。今でこそ和歌山ラーメンは知られている存在ですが、当時は各地域にご当地ラーメンがあるということすらあまり知られておらず、和歌山のイメージは「みかん」や「梅干し」くらいでラーメンを連想する人は皆無でした。
そのような中、オープンするや初日から大行列となり、期間終了までの238日間、一度も列が切れることがない大ブレークを果たしました。そして当館だけでなく和歌山の本店にもメディアが殺到するなど、社会現象といっても過言ではない和歌山ラーメンブームが巻き起こりました。この和歌山ラーメンブームを皮切りに、その後に訪れるご当地ラーメンブームへと繋がっていくのです。
ラー博史に残る伝説のラーメン店
30周年企画「あの銘店をもう一度」のオープニングを飾るのは、和歌山の銘店「井出商店」。
同店は、ご当地ラーメンブームの火付け役であり、今もなお塗り替えられる事のない数々のラー博記録を叩き出した、ラー博史に残る伝説のラーメン店です。そのような背景からも、ラー博30年の集大成といえる当企画のトップバッターにふさわしいラーメン店と考えております。
店舗名:和歌山「井出商店」
住所:和歌山県和歌山市田中町4-84
電話:073-424-1689
営業時間:11時半~23時半
定休日:木曜日
創業:昭和28年(1953年)7月
創業者:井出つや子、二代目:井出紀生
・過去のラー博出店期間
(1)1998年10月1日~1999年5月30日(期間限定店)
(2)2003年3月18日~2011年12月25日(ラー博史上初の再出店)
岩岡洋志・新横浜ラーメン博物館館長のコメント
「最初のご出店は知られざるご当地ラーメンとしてご紹介させていただきました。車庫前系と井出系がある中で、発祥のお店であり地元での認知度も含めて井出商店しかないと思い、お声がけさせていただきました」
井出商店の歴史 女手一本で創ったトンコツ醤油昧
復員後亡くなったご主人に代わり家計を切り盛りしていた創業者の井出つや子さんは、昭和28年7月に見よう見まねで覚えた中華そばを屋台で売り始めました。昼間は家業である氷の卸、夜は中華そばの屋台という働きづめの生活で3人の子供を養ったといいます。
創業当時は和歌山中華そばの源流とも言える澄んだ醤油味のスープでしたが、炊き込むうちにスープが濁ってしまいました。その偶然濁ってしまったマイルドなトンコツ醤油味が「井出系」のルーツとなりました。
このスープは地元で好評を博し、井出商店で修行した人や、井出商店の味を目指す人の出した店が徐々に増え、今や和歌山中華そばのひとつの系統を作るまでに至っています。
和歌山ラーメンの特徴とは
・ラーメンではなく「中華そば」と呼ぶ
和歌山では「ラーメン」と呼ばずに「中華そば」と呼ぶのが普通。どの店の暖簾にも書かれている文字は「中華そば」。和歌山の人にとっては、「ラーメン」というとインスタントラーメンがイメージされるといいます。中華そばを主力商品とする店が市内に100軒近く点在し、店舗数も多ければ中華そば好きの人も多いです。
・旱寿司が置かれている
どの店にも鯖の早寿司やゆで卵が置かれており、中華そばが到着するまでの間に食べます。ラーメンに寿司というとちょっと奇異に感じるかもしれませんが、和歌山では当たり前。これがピッタリ合うのです。屋台時代から続いている和歌山ならではの習慣です。
・スープの味は「井出系」「車庫前系」の2系統に大別
戦前から伝わる屋台の中華そばのスープは澄んだ醤油味が主流。当時市電の車庫があった場所が一番の繁華街で、その車庫の前に軒を連ねる屋台の中華そば店が大繁盛していたことから、澄んだ醤油味の系統を「車庫前系」と呼びます。対して、井出商店に端を発する戦後派のトンコツ醤油味を「井出系」と呼びます。和歌山の味は、はっきりこの2系統に分類されます。
・具にカマボコがのる
和歌山では「なると」のかわりに「カマボコ」がのるのが特徴。なるとのような渦巻き模様の入ったカマボコを使う店が多く、屋台から続くベーシックな中華そばに華やかな彩りを添えます。その他の具はチャーシュー、メンマ、青ネギと至ってシンプル。
・和歌山「井出商店」の中華そば
井出商店の中華そばの特徴はスープにあります。豚骨を強火で沸騰させるため、骨の髄からゼラチンが溶け出し、スープと脂をトロリと乳化させます。このため醤油味がうまくマスキングされてまろやかな口あたりとなります。
麺はストレートの細麺。具材は和歌山ラーメンの特徴でもあるカマボコにチャーシュー、メンマ、青ネギといたってシンプル。屋台時代からの素朴さそのまま、それが井出商店の中華そばなのです。
井出商店が残した数々の記録
【8ヶ月間1日平均杯数】
期間限定出店をしていた平成10月10月1日から平成11年5月30日までの間、わずか23席の店内で食されたラーメンはトータル、212,610杯。1日平均893杯ということになります。土日平日問わず通算しての数字ですから、ラーメン店としては驚異的な数字です。全国的にも繁盛店として認知されている歴代店舗の中でも類をみません。
【最長待ち時間、最長行列距離】
期間限定出店をしていた平成10月10月1日から平成11年5月30日までの間、行列は一度たりとも途切れることはありませんでした。そして平成11年5月2日に最長待ち時間は3時間30分を記録、そのときの行列の長さは57mに達しました。全国に行列店の数あれど、この記録も前代未聞です。
【本店が和歌山県知事より表彰を受ける】
社会現象といっても過言ではないブームを巻き起こした和歌山ラーメン。その牽引役となり、「和歌山ラーメン」の名を全国に広めた功績が認められ、平成11年3月25日に和歌山県知事から観光功労者感謝状を受けました。これもラーメン店としては異例のこと。多額の資金を投下した観光施設ではなく、戦後屋台から始めた1ラーメン店の功績が世間を驚かせました。
あの銘店をもう一度・第1弾・和歌山「井出商店」
出店期間:2022年7月1日(金)~21日(木)
出店場所:横浜市港北区新横浜2-14-21
新横浜ラーメン博物館地下1階
※旧支那そばや跡地
営業時間:新横浜ラーメン博物館の営業に準じる
※「井出商店」の出店は、2022年7月1日~21日で終了しています。
『新横浜ラーメン博物館』の情報
住所:横浜市港北区新横浜2-14-21
交通:JR東海道新幹線・JR横浜線の新横浜駅から徒歩5分、横浜市営地下鉄の新横浜駅8番出口から徒歩1分
営業時間:平日11時~21時、土日祝10時半~21時
休館日:年末年始(12月31日、1月1日)
入場料:当日入場券大人380円、小・中・高校生・シニア(60歳以上)100円、小学生未満は無料
※障害者手帳をお持ちの方と、同数の付き添いの方は無料
入場フリーパス「6カ月パス」500円、「年間パス」800円
※協力:新横浜ラーメン博物館
https://www.raumen.co.jp/