フードロスの世界の取り組み 答えは、(3)の「東京ドーム約1000杯分」です。 世界で廃棄されている食料は、1年間に13億トンです。これを13億トンの水に換算すると、体積は13億立方メートル。東京ドームの体積が約124万…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「ビタミンの日」です。
文:三井能力開発研究所・圓岡太治
世界のフードロスの量
食をテーマに情報発信している記者や編集者で構成する「食生活ジャーナリストの会」(畑中三応子代表、会員数約130人)は、会員得票数、各種メディアへの登場頻度、歴史的観点から見た価値・重要性の3点を基準に、「食の十大ニュース」を毎年公表しています。「2022年食の十大ニュース」は以下のとおりです。
(1)歴史的円安などで食品値上げラッシュ
(2)ウクライナ侵攻による食料安保問題
(3)熊本県でアサリの産地偽装
(4)食品添加物の不使用表示ガイドライン策定
(5)食品ロス削減を目指す「てまえどり」キャンペーン
(6)代替タンパクなどフードテック活況が続く
(7)回転すしチェーンおとり広告問題
(8)アニサキス食中毒4年連続最多
(9)GI登録をめぐる八丁みそ論争
(10)冷凍食品の多様化と人気拡大
この中で、今年大きく注目されたワードが「てまえどり」です。てまえどりは、2022年新語・流行語大賞のトップ10にも選ばれました。まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物のことを「フードロス」(食品ロス)といいますが、「てまえどり」はフードロスを削減するための取り組みです。現在、世界で1年間に生じているフードロスの量はどれぐらいでしょうか?
(1)東京ドーム約10杯分
(2)東京ドーム約100杯分
(3)東京ドーム約1000杯分
フードロスの世界の取り組み
答えは、(3)の「東京ドーム約1000杯分」です。
世界で廃棄されている食料は、1年間に13億トンです。これを13億トンの水に換算すると、体積は13億立方メートル。東京ドームの体積が約124万立方メートルなので、東京ドーム約1048杯分となります。あの大きな東京ドームを食品で埋め尽くしていくことをイメージすると、途方もない量ですね。
なお、日本におけるフードロスは年間522万トン(令和2年推計値)で、東京ドーム約4.2杯分です。これは驚くべきことに、飢餓に苦しむ人々に対する世界の食糧支援量(2020年で年間約420万トン)の1.2倍に相当します。
フードロスは大きく次の2つに分けることが出来ます。
・「事業系食品ロス」
食品製造業や外食産業などで、事業活動にともなって発生する食品ロス
・「家庭系食品ロス」
各家庭から発生する食品ロス
日本におけるフードロス年間522万トンのうち、事業系食品ロスは275万トン、家庭系食品ロスは247万トンとなっています。フードロスというと、『消費期限が過ぎて廃棄されるおにぎりやお弁当』などの事業系食品ロスが問題とされがちですが、家庭系食品ロスもかなりの割合にのぼっています。それぞれの家庭で食品ロスを減らすことも重要だと分かります。
食料を生産するには、膨大な資源やエネルギーが投入されています。無駄に生産するということは、それだけ資源を無駄にすることにもなります。
また、余った食べ物は廃棄物として焼却処分などにされますが、コストがかかる上に、運搬や焼却の際に二酸化炭素を排出します。焼却後の灰の埋め立てなども環境負荷となります。
2015年の国連サミットで、「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」が採択され、2030年までの達成を目指す国際社会共通の持続可能な開発目標(SDGs、Sustainable Development Goals)が示されました。その中に、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」という目標が盛り込まれました。
日本も「事業系食品ロスを2030年度までに2000年度比で半減する」との目標を立てています。同様に家庭系食品ロスについても2030年度までに半減させる目標を設定しています。
「てまえどり」とは?
フードロス削減に向け、農林水産省、環境省、消費者庁は、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会と連携して、「てまえどり」を呼びかける取り組みをしています。てまえどりとは、小売店で消費者が商品棚の手前にある商品を選ぶことです。小売店は、消費期限の近いものから購入してもらうよう、消費期限の日付順に、商品棚の手前から商品を並べます。
ところが消費者の心理としては、「なるべく新しいもの、なるべく長持ちするものを買いたい」と考えるもの。したがって商品棚の奥のものを購入する消費者も少なくありません。しかしこれでは期限が来て廃棄する商品が増えてしまいます。そこで国として、消費者が手前から商品をとる「てまえどり」を推奨する取り組みを始めました。このような国の取り組みもあり、2022年の「新語・流行語大賞」では、「てまえどり」がトップ10に選出されました。
世界の人口は増加の一途をたどっています。将来世代のことを考えても、フードロスを解消する取り組みは必須です。また、2022年食の十大ニュースの1位は「歴史的円安などで食品値上げラッシュ」、2位は「ウクライナ侵攻による食料安保問題」ですが、これらはいずれも消費者の家計(食費)を直接圧迫する問題です。したがって経済的な意味でも、食べ物の無駄をなくす必要は大きいと言えます。
環境問題全般について言えることですが、大切なのは一人一人の問題意識です。多くの人が問題意識を持って改善に取り組めば、小さな力は必ず大きなうねりとなって現状を変えていきます。まずはてまえどりから取り組んでみてはいかがでしょうか。
(参考)
[1] JFJ2022年食の十大ニュース(食生活ジャーナリストの会)
https://www.jfj-net.com/13302
[2] 食品ロスとは(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html
[3] 食品ロスの現状を知る(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html
[4] 食品ロスについて知る・学ぶ(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/education/
[5] 小売店舗で消費者に「てまえどり」を呼びかけます(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kankyoi/210601.html