チャーハンとラーメンのセット、略して“チャーラー”。愛知で親しまれるこのセットメニューを愛してやまない現地在住のライター・永谷正樹が、地元はもちろん、全国各地で出合ったチャーラーをご紹介。今回は久々の“思い出の味”シリーズ。長浜ラーメン専門店ではじめてのチャーラートライです。
画像ギャラリー博多ラーメンに代表される九州の豚骨ラーメンの知名度が全国区になったのは、1994年に『博多 一風堂』が新横浜ラーメン博物館に出店したのがきっかけだったと思う。今では筆者が暮らす名古屋にも専門店が沢山あるが、90年代には数えるほどしかなかった。白濁した豚骨スープで味わう博多ラーメンは異色の存在だったのだ。
初めての長浜ラーメンはここだった
ある日、JR金山駅の高架下の道路を鶴舞駅方面へ向かって車を走らせていたとき、黄色い看板が目に止まった。それが今回紹介する『長浜ラーメン まき 平和店』である。あまりの懐かしさに思わず店の駐車場へハンドルを切り、店へ飛び込んだ。
私の中で豚骨ラーメンといえばここなのである。90年代の半ば頃、編集プロダクションで働いていたときに栄の池田公園の目の前にある本店へよく足を運んでいた。深夜営業をしているので、小腹が空いたときや仕事が終わってから立ち寄っていたのだ。
ここ以外にも深夜営業のラーメン屋はいくつかあった。でも、当時はまだ数少なかった長浜ラーメンを本当によく食べた。思えば、初めての長浜ラーメンはここだったかもしれない。あっ、たしかここにはチャーハンもあったはず。そういえばこれまで一度も食べたことがなかったが、長浜ラーメンとの相性はどうなんだろう。
長浜ラーメンとチャーハンのセットは、ミニチャーハンが付く「C1セット」(850円)とチャーハンが普通盛りの「C2セット」(950円)がある。お腹の空き具合で選べるのはありがたい。お腹もペコペコだし、たった100円の差なので後者を注文することに。ちなみに単品の場合、「長浜ラーメン」は650円で「チャーハン」は600円。セットで注文すると、300円もお得になる。どれだけ太っ腹なんだ。
まず、目の前に運ばれたのは、ここの看板メニューである「長浜ラーメン」。セットであっても味玉や焼き海苔、辛子高菜など具材のトッピングも可能なほか、差額を払えば、卵とじの「不知火ラーメン」や「辛子明太子入りラーメン」など変化球的なメニューにチェンジすることもできる。
濃いめの味付けにはワケがある
私はデフォルトの「長浜ラーメン」一択。麺の上にのるのは、チャーシューとメンマ、きくらげ、すりごま、そして、たっぷりのネギ。卓上に置かれた紅ショウガを添えると実に旨そう。では、いただきます!
うん、これ、これっ! この味! スープに豚骨特有の臭みはまったくない。それどころか、豚の旨みのみを抽出している。麺は長浜ラーメンらしい低加水の細麺。ポキポキとした心地よい食感とともに広がる小麦の香りがすばらしい。替え玉(150円)をリクエストしたいくらいだが、今回はチャーハンがあるからガマンだ。
と、思っていたら、チャーハンが運ばれた。おおっ、何と美しいビジュアルだろう。油を含ませた卵とご飯が見事なまでに一体化している。と、書いてもわかりにくいかもしれない。中華鍋の扱いが未熟だと、炒めムラができたり、卵に火が通り過ぎて固まったりしてしまうが、このチャーハンは完璧なのだ。きっと中華鍋の振り方が達人レベルなのだろう。
チャーハンをレンゲですくって口へ運んでみる。うん! 口の中でパラッとほぐれるものの、食感はしっとり。大きめにカットされたチャーシューも旨い。
味付けは塩とコショウだが、オイスターソースやチャーシューのタレを使っているのか複雑な味わいがする。味が濃いか薄いかといえば、濃い味である。しかし、この店でよく見かけるのは、ネクタイを締めたビジネスマンよりも作業服姿の現場仕事の男たち。濃いめの味付けが正しいのだ。
長浜ラーメンのスープを飲み、まだ味の余韻が残っているうちにチャーハンを頬張ると、これまた旨い。メンマやきくらげをおかずにチャーハンを食べても旨い。町中華のチャーラーとは趣が異なるが、これはこれでアリだと思った。
何よりも、私にとっては懐かしい思い出の味が30年近く経った今もまったく変わっていないことがうれしかった。しかも、チャーハンがおいしいという新たな発見もあった。これからも近くを通りかかったら立ち寄ってみようと思う。
取材・撮影/永谷正樹
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