「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第13回は、筆者が私…
画像ギャラリー「受験は競争、受験生もアスリート」。トレーナー的な観点から、理にかなった自学自習で結果を出す「独学力」を、エピソードを交えながら手ほどきします。名付けて「トレーニング受験理論」。その算数・数学編です。第13回は、筆者が私立中学入学後、最初の「数学の授業」を受けたときの思い出話です。算数から数学へ。重要だったこととは―――。
中学最初の「数学授業」先生の厳しい言葉に漂う緊張感
受験を経て私立の中高一貫校に入学してから最初の数学の授業のことは、今でも鮮明に記憶しています。
小学生のときは算数が好きな方だったので、数学へと名称が変わる中学ではどのような授業が行われるのだろうかと、ワクワクして初回の授業を迎えました。いよいよ授業開始時間となり、教壇に立たれたのは、当時20代の背の高い精悍な面立ちのN先生でした。起立、礼のあと、先生の放った第一声がこの言葉でした。
「予習をしてきていない者、立て!」
いきなり冷水を浴びせられたような緊張感がクラス中に走りました。小学校の頃は、学校でも塾でも、予習をしたことなど一度もありません。それはほかのクラスメートもみな同じだったらしく、1人、2人と立ち上がり、とうとう全員起立の状態となりました。その中には、のちに全国模試1位を定席とするT君も含まれていました。
N先生は、「どうして予習をやっていないんだ」と一人一人に声をかけながら、活を入れていくのでした。N先生の威圧感たるや相当なもので、同級生の中には、30歳を越えても夢にN先生が出てきてうなされた、という者がいたほどです。そしてその後6年間、予習をしていない者は、毎回戦々恐々としてN先生の授業を迎えることとなったのです。
カトリックの学校とはいえキリスト教の洗礼を受けることはありませんでしたが、まさかの数学の授業で、全員が初回から手厳しい洗礼を浴びることとなったのです。
勉強のやり方の切り替えができない
小学校時代は優秀だったのに、中学に入ってから失速するケースがあります。その原因の一つとして、勉強のやり方の切り替えが出来ていないことが挙げられます。
中学受験をする生徒たちは、ほとんどが塾に通います。一部家庭教師に教わる場合もありますが、いずれにしても、誰かがレールを用意してくれ、その上を走るだけでよかった小学校の頃と違い、中学からは自宅での自主学習が重要な部分を占めるようになります。学校の宿題、予習・復習、試験対策などを自分で取り組んでいかなければならないのです。
塾や家庭教師の力を借りるにしても、中学受験のように何から何までお膳立てしてもらうわけにはいきません。もしそうしてもらったとしても、自学自習する力を養っていかなければ、いずれ行き詰まってしまいます。自主学習をこなす力、すなわち独学力をいかにつけていけるかがその後の学力形成に大きく関わってくるのです。
中学からの数学の学習法
算数とは、答えを出すことを重視する実用的な勉強です。一方、数学は答えを導くまでの過程が重要となる学問です。
中学に入って算数は数学に引き継がれますが、それとともに勉強のやり方を変える必要があります。中学の段階では、ほかの科目は小学校時代のように復習中心の学習で構いませんが、数学は基本的に予習中心に切り替えた方が良いと思います。そうしなければ、小学校時代の算数のように、解法を丸暗記する学習となってしまうからです。
以前、解法暗記学習について取り上げましたが、それが効果を発揮するためには、ベースとなる思考力もともなっていなければなりません。思考力を鍛えることなく暗記だけに頼っていくと、いずれ行き詰まります。それが解法暗記学習の盲点です。
数学でついていけなくなって(中学合格後に成績が上がらない)「深海魚状態」におちいる生徒たちは、ほぼ間違いなく、この予習中心の学習への切り替えがなされていません。
“黒船”で目が覚めた
今思えばN先生という“黒船”によって、中学入学早々勉強のやり方の切り替えを迫られた我々は幸運だったのかもしれません。
N先生は、別の教室にいても聞こえるほどの怒鳴り声で生徒を叱咤激励し、不甲斐ない生徒たちの状況に憤るあまり教卓を蹴って穴をあけることもありました。しかし、あれだけの人数の思春期の扱いづらい生徒たちを勉強に向かわせたN先生のエネルギー、熱意は到底真似できるものではありません。
今の時代では珍しくなった昭和時代の熱血教師N先生には感謝しかありません。
【トレーニング受験理論とは】
一流アスリートには常に優秀なトレーナーが寄り添います。近年はトレーニング理論が発達し、プロアスリートやオリンピック・メダリストはプロトレーナーから的確な指導を受けるのが常識。理論的背景のない我流のトレーニングでは、厳しい競技の世界で勝ち抜けないからです。自学自習が勉強時間の大半を占める受験も同様です。自学自習のやり方で学力に大きな差が出るのに、ほとんどが生徒自身に任されて我流で行われているのが実情です。トレーナーのように受験生の“伴走者”となり、適切な助言を与えながら、自学自習の力=独学力を高めていく学習法です。
圓岡太治(まるおか・たいじ)
三井能力開発研究所代表取締役。鹿児島県生まれ。小学5年の夏休みに塾に入り、周囲に流される形で中学受験。「今が一番脳が発達する時期だから、今のうちに勉強しておけよ!」という先生の言葉に踊らされ、毎晩夜中の2時、3時まで猛勉強。視力が1.5から0.8に急低下するのに反比例して成績は上昇。私立中高一貫校のラ・サール学園に入学、東京大学理科I類に現役合格。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学在学中にアルバイト先の塾長が、成績不振の生徒たちの成績を驚異的に伸ばし、医学部や東大などの難関校に合格させるのを目の当たりにし、将来教育事業を行うことを志す。大学院修了後、シンクタンク勤務を経て独立。個別指導塾を設立し、小中高生の学習指導を開始。落ちこぼれから難関校受験生まで、指導歴20年以上。「どこよりも結果を出す」をモットーに、成績不振の生徒の成績を短期間で上げることに情熱を燃やし、学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて難関大学に現役合格した実話「ビリギャル」並みの成果を連発。小中高生を勉強の苦しみから解放すべく、従来にない切り口での学習法教授に奮闘中。