ベルギーでも夏はチョコを食べない!?ブリュッセルの年間最優秀ショコラティエに輝いた日本人パティシエに聞く、世界のチョコレート事情

ベルギーでも夏はチョコを食べない!?ブリュッセルの年間最優秀ショコラティエに輝いた日本人パティシエに聞く、世界のチョコレート事情

ベルギーでも夏はチョコを食べない!?ブリュッセルの年間最優秀ショコラティエに輝いた日本人パティシエに聞く、世界のチョコレート事情

今、パティシエや私たちがチョコを通してできること 前ページの通り、ベルギーにとって、チョコレートは歴史であり文化でもある。地球の危機に際して、チョコレートとの付き合い方も変わってきている。 例えば前編で紹介した、佐々木さ…

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チョコレートの本場・ベルギーで、数々の賞を受賞している日本人パティシエがいます。『ヤスシ ササキ ブリュッセル』の佐々木 靖シェフです。この度、イベントのために来日された佐々木さんに、ベルギーのチョコレート事情とヨーロッパから見た日本の状況について伺いました。

ベルギーのチョコレート事情とは

そもそも、なぜベルギーのチョコレートは世界的に有名なのだろうか。

16世紀から17世紀前半までスペイン領だったベルギー。スペイン人貴族であり探検家のエルナン・コルテスは、メソアメリカ(現・中米あたり)から持ち帰ったカカオを、ベルギーの古都・ゲント生まれのスペイン王・カルロス1世に献上。スペインの修道会のつながりにより、ベルギーには早くからカカオが伝わっていた。

1885年、国王レオポルド2世がコンゴを植民地化してカカオ生産を開始。スイスのチョコレート製造技術を導入したことで、ベルギーのチョコレート産業が大きく発展することとなった。

時代が遡るが、1857年にスイスからやってきた薬剤師・ジャン・ノイハウスがブリュッセルで薬局とお菓子屋を開業。飲みにくい薬をチョコレートで包んで、お客を喜ばせていた。これが現在、世界中で愛されているチョコレートブランド『NEUHAUS(ノイハウス)』の起源である。

1912年には、3代目のジャン・ノイハウスJr.が、シェルと呼ばれるチョコレートの殻にナッツなどからできた柔らかな中身を閉じ込めたボンボンショコラを生み出し、その技術がベルギーショコラ製法の礎となった。

ベルギーでは王室御用達のブランド・ショコラティエがあり、5年ごとに見直しが行われるという。2024年現在、上記『ノイハウス』のほか、『GODIVA(ゴディバ)』や『Galler(ガレー)』、『PIERRE MARCOLINI(ピエール マルコリーニ)』といった8ブランドが認定されている。

『ヤスシ ササキ』のボンボンショコラ

このように、チョコレートに関して長い歴史を持つベルギー。同地でパティシエとして活躍する佐々木さんに、現地のチョコレート事情について伺った。

「ベルギーでは、『クーベルチュール』という植物油脂不使用のチョコレートが重んじられています

ただベルギーも夏が年々暑くなってきています。クーベルチュールは脂肪分の含有量が高く、暑くなると溶けやすいため、年中チョコレートを食べているベルギーでも7~8月は食べなくなってきています。そのため、食べないなら作らないし、そもそも溶けてしまうなら作らないという職人もいます」(以下、佐々木さん)

四季があり、日本に比べると涼しいとされているベルギーでもこのような事態に陥るほど、地球温暖化の影響が進んでいることが理解できる。

製菓用に使われるクーベルチュールチョコレート

今、パティシエや私たちがチョコを通してできること

前ページの通り、ベルギーにとって、チョコレートは歴史であり文化でもある。地球の危機に際して、チョコレートとの付き合い方も変わってきている。

例えば前編で紹介した、佐々木さんたちが「ベルギーチョコレートアワード2023」で優勝を勝ち取った「デグベール デュ カカオ」(4粒・4320円※店頭・ECサイト共に完売)には、カカオパルプが使われている。このカカオパルプはかつて、チョコレートを製造する上では不要なものとして捨てられていた。

「近年、こういうものを利用するという流れが出てきています。カカオパルプを加えることによって酸味が出て、実はチョコレートの風味がより増すということを自分自身も感じています」

カカオの種を包んでいる白い部分がカカオパルプ。爽やかな甘酸っぱさがある

味を追求しつつも、このように原材料を無駄にしないこと、廃棄するものを減らすことは大切である。さらに地産地消による環境負荷の軽減といった潮流が世界的にあるようだ。

「デグベール デュ カカオ」(4粒・4320円)。楕円型のミニカボスの中にカカオパルプが入っている

なお、「デグベール デュ カカオ」には、日本産のユズや山椒が使用されている。これは佐々木さんが日本人だということも関係しているのだろうか。

「日本から入手できるものに関しては極力使うようにしていますが、ヨーロッパの生クリームなど現地で調達できるものも使用します。

『エピス』と呼ばれる香辛料類は、ヨーロッパ人が好きなんですね。こういう個性のある味はチョコレートの油脂と合うと思います。ただし、個性を出しすぎてしまうとチョコレートと反発するのでバランスを考えながら作っています」

なるほど。近年、スパイス類が入ったチョコレートを見かけることも多々ある。確かに合うと感じる。地元の食材を使うことで、新たなチョコレートが生まれるという良い循環が起きているのだ。

また、我々消費者は可能な限りで構わないがカーボンニュートラルを意識したり、フェアトレードされたカカオを選ぶなどすることで、おいしいだけでなく、環境配慮を考える一助にもなるのではないだろうか。

日本のチョコレート界をどう見ているのか

ベルキーで活躍する佐々木さんから見て、日本のチョコレートを取り巻く状況はどう映っているのだろうか。

「まず、パリでは10月、ブリュッセルでは1月に行われている『サロン・デュ・ショコラ』が、バレンタインや気候的なこともあるのでしょうが、日本では2月に長期間にわたって開催されていることに、日本独特の盛り上がりを感じます」

では、トレンドの変化はどのように捉えているのだろうか。やはり独特なのだろうか。

「トレンドの変化は毎年感じています。しかしそれ以上に、トレンドの移り変わりが早すぎて、そこまでする必要があるのかなとは、正直なところ思いますね

日本ではどうしても、デパートの催事などでイベントが行われることが多いので、世界情勢などを鑑みながら、さまざまなテーマを考えて集客するのは仕方ないことだとは思います。

しかし開発というのは基本的にとても時間がかかるんです。そういう期間の中でやらなければいけないことも大変ですし、本当にみなさんいろいろ考えられていて、ものすごい努力をされていると思います

『ヤスシ ササキ』を含め、それぞれのショコラティエの努力の結晶であり、叡智が詰まったチョコレートが並ぶ「スイーツコレクション2024」は、日本橋三越本店にて2月14日(水)まで開催中だ。

世界の潮流も垣間見えるこのイベントにぜひ足を運んでみてほしい。

■「日本橋三越本店 スイーツコレクション2024」
創業350周年を迎えた三越の恒例イベント。2024年のテーマは「JOY」で東京初出店など57ブランドが揃う。鎌倉の人気店『鎌倉紅谷』のイートインなどが楽しめる「あんこ博覧会(R)」も同時開催

[会場]日本橋三越本店 本館7階 催物会場
[会期]2024年1月31日(水)〜2月14日(水)
[時間]10時〜19時 ※最終日は〜18時

「あんこ博覧会」の『茶菓工房たろう』と『鎌倉紅谷』がコラボした「クルミッ子 窓」(6個入・2160円)

参考資料:
・株式会社明治
https://www.meiji.co.jp/hello-chocolate/culture/30.html

・ノイハウス
https://www.neuhauschocolates.jp/

取材・撮影/市村幸妙

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