「コーヒーの2050年問題」とは?沖縄産コーヒーを収穫~ドリップまで体験してわかった、1杯2000円するワケ

沖縄で生産されるコーヒーが、最近、隠れた名品となっています。収穫量が少ないため、県内で消費されることが多い希少な1杯は、コーヒーを巡るさまざまな問題を考えるきっかけを与えてくれます。収穫時期を迎えた現地で、コーヒー果実の…

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沖縄で生産されるコーヒーが、最近、隠れた名品となっています。収穫量が少ないため、県内で消費されることが多い希少な1杯は、コーヒーを巡るさまざまな問題を考えるきっかけを与えてくれます。収穫時期を迎えた現地で、コーヒー果実の収穫から、ドリップまでを体験、そこで見えてきたものとは―。

コーヒー果実は甘い!? 膨大な手作業の連続で加工した生豆は“雀の涙”

那覇から車で約2時間。やんばると呼ばれる沖縄本島北部に広がる亜熱帯の森の一角に、コーヒーを栽培する「又吉コーヒー園」(東村)があります。

「又吉コーヒー園」

東京ドーム2個分(約3万坪)園内には、「コーヒーノキ」(コーヒーの木)約2500本が植えられており、一般客が収穫、加工、焙煎からドリップまで一連の作業を体験できるとあって、人気を呼んでいます。

「昨年、コーヒー好きの県外の小学生がウチを調べて、両親を伴い訪れました。初めて自分で摘み取った果実から生豆にして、一杯のコーヒーを淹れるまで驚きの連続だったようです」そう話すのは、又吉拓之代表取締役(37)。2014年から沖縄産コーヒーの栽培に取り組むだけでなく、体験を通して生産者の思いを伝えています。

又吉拓之代表取締役

1月下旬、現地を訪れると、収穫期を迎えた枝には、コーヒーチェリーと呼ぶ赤や黄色に熟した直径1センチほどの愛らしい果実がたわわに実っていました。これらは無農薬とのことで勧められるまま頬張ると、甘い香りがほのかに口の中に広がります。コーヒー特有の苦みはありません。

コーヒーチェリーと呼ばれる果実。酸味が控えめで甘みが強い

200mlのコップ1杯山盛りになるまで、黙々と手作業で実を摘み取ること30分。収穫に適した果実を見極めてもぎ取る作業は、思った以上に時間を要します。

「11月~4月までの収穫時期は早朝から忙しく、収穫後もこまめに枝の剪定をしたり、台風の被害から守ったりと気が抜けません」(従業員の男性)。

摘み取った果実から、どうすればコーヒーが飲めるのか想像もつきませんが、まずは果実から種を取り出します。両手いっぱいの果実を一粒ずつ指先で押し出して種と果皮に仕分ける作業は、思った以上に手こずります。

摘み取ったコーヒーチェリー(左)から種(右)を取り出す。生豆に加工するまでの膨大な過程の多くを手作業で担う

さらに種についたぬめりがなくなるまで水洗いし、焙煎器に入れて10分ほど振り続けながら、しっかり乾燥させ、扇風機や精米機で脱穀。虫歯のように黒ずんだり、欠けたりした豆を丁寧に取り除いて選別していると量がどんどん減り続け、心細いほど。それでもやっと約20グラムが「生豆」になりました。

200ミリリットルのコップ山盛り一杯に収穫したコーヒーチェリーから加工されたのはわずか20グラムの「生豆」。ここまで所用時間は2時間以上かかる

コーヒー豆として各生産地から出荷され、店頭で販売されるまでは、こうしたいくつもの過程を経て、膨大な手間暇をかけ届けられていることが分かります。

沖縄産コーヒーは浅煎りor中煎りが◎その味とは!?

いよいよコーヒー豆を挽いてドリップへ。「沖縄産のコーヒーは浅煎りか中煎りがおススメです」(又吉さん)とのことで、中煎りになるよう中火にして、再び焙煎器を焦がさないよう絶えず動かすこと15分。豆がこげ茶色に変わり、コーヒーの香りが漂い始めたところで終了

コーヒーカップ1杯分に16グラムの豆を使い、ハンドミルで挽いた後、ゆっくりとドリップしていただきます。

豆を挽いたら、ゆっくりドリップ。収穫したばかりのコーヒーのフレッシュな香りが漂う

初めて自らの手で収穫した沖縄産コーヒーをドリップまで2時間半かけて辿り着いたことに感激しつつ、ひと口ずつ嗜むと、苦味も酸味も控えめなすっきりとした飲み心地。ここでしか味わえないフレッシュ感は、コーヒーが苦手な人でも飲みやすい。

収穫からドリップまで自分の手で味わう沖縄産コーヒーは、プライスレスな美味しさ。パンに塗ったジャムは、種を取り出した果実の皮で作れたもの。又吉コーヒー園では、フードロス削減にも積極的に取り組んでいる

沖縄産コーヒーの美味しさだけでなく、それを味わうまでの知られざる苦労にもふれることで、とても貴重な1杯をいただくことができました。

沖縄産コーヒーは、併設しているカフェでも1杯2000円で提供しています。はじめ値段を見た時は驚愕したものの、計り知れない工程の多くが手作業であるのを振り返ると納得です。

なぜ、コーヒー1杯2000円するのか。その理由を体験から学ぶことで、世界各国の生産者にも目を向け、誰もが豊かな生活を送ることができる社会がコーヒーの世界にも浸透して、実現の一助になりたいと願っています」又吉さんは、語気を強めます。

希少な1杯から考える「コーヒーの2050年問題」

ブラジルやエチオピア、ベトナムなどコーヒーの主な生産地は、「コーヒーベルト」と呼ばれる赤道を中心とした南北の緯度25度までのエリアに属しています

その中で沖縄は最北端に位置し、近年、コーヒーを栽培する農家が増えています。耕作放棄地を転用したり、新たな農業従事者が沖縄でのコーヒー栽培の可能性を模索しています。

ただ、栽培に適した気温や日照時間、降水量や肥沃な土壌などさまざまな厳しい条件が重なり、沖縄産コーヒーはまだ県外に出荷できるほどのまとまった量を確保できるまでには至っていません。又吉コーヒー園でも2023年の収穫量は生豆で60キロほど、主に園内での消費にとどまっています。

世界のコーヒー需要は爆発的に増え続けています。一方で「コーヒーの2050年問題」と称される課題にも直面しています。地球温暖化で日本人好みのアラビカ種のコーヒー生産地が、2050年までに半減すると米国の研究機関が警告しているものです。加えて、不当な労働環境で生産者の減少も危惧されています。

沖縄でいただく希少な1杯のコーヒーから、世界のコーヒー事情を知り、自分に何ができるかを考える―喧騒から離れたやんばるの農園での学びは、新たな沖縄観光の目玉として、意義深いものになるでしょう。

【又吉コーヒー園】
【住所】沖縄県国頭郡東村慶佐次718-28
【営業時間】平日10時~17時/土日祝9時半~17時
【定休日】不定休
【収穫・焙煎体験】10時~または14時~(所要時間2時間半)、1名8800円 ※11月~4月まで要問い合わせ
【電話】0980-43-2838
【交通】沖縄自動車道宜野座ICから44分、許田ICから39分
【公式HP】https://www.matayoshicoffee.jp/

文・写真/中島幸恵

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